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30年前、日本中が恋した“不意打ちの感動ソング” 時代を超えて色褪せない“何かが引っかかるサウンド”

  • 2025.7.26

「30年前の夏、どんな音楽が心の奥に残ってる?」

1995年。テレビからはハイテンションなバラエティとJ-POPのヒット曲がひしめき合い、街には大型タイアップの楽曲があふれていた。

そんな中、まるで耳元でささやくような、でも確かに胸に残る“ささやかなきらめき”があった。

スピッツ『涙がキラリ☆』(作詞・作曲:草野正宗)――1995年7月7日発売。

強く主張せず、ただ自然体のままで、忘れられない夏の記憶を刻んだ名曲だ。

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(C)SANKEI

親しみやすいのに、誰にも真似できない

この曲を初めて聴いたとき、メロディはすっと耳に入ってくる。でも、ただの“聴きやすさ”では終わらない。日常の中に突然差し込んでくる光みたいな、不意打ちの感動がある。

草野正宗の歌声はやさしく、語りかけるようで、どこか人懐っこい。

だけど、どのフレーズにも一種の“輪郭のぼやけた切なさ”がある。楽しさと哀しさの境目にあるような、あの独特の感情が、音の奥からふと立ち上ってくる。

Aメロ、Bメロ、そしてサビに向けて展開する構成はとてもシンプルだ。けれど、その中で重ねられるバンドサウンドの“質感”が実に細やかで、楽曲全体にきらめきを生んでいる。

ポップで爽やか。だけど、何かが引っかかる。

スピッツの楽曲にはよくある“その感じ”が、この曲ではとくに強く感じられる。

涙ときらめき、その絶妙な距離感

『涙がキラリ☆』というタイトルには、相反する二つの感情が隠されている

「涙」と「キラリ」。湿度と輝き、後悔と希望。ふつうは混ざらないようなものを、自然に同居させてしまうのがスピッツのすごさだ。

ただ静かに星を待ちながら「俺が天使だったなら」とつぶやく。歌詞にはストレートな告白も劇的な展開もない。だけど、聴く人の数だけ“物語”が立ち上がる

それがこの曲の本質だ。

例えば、誰かとすれ違った夏の日のこと。あるいは、黙って背中を押してくれた誰かの横顔。

その瞬間に流れた涙が、もし陽射しに照らされていたなら――。

そう思わせるだけの、繊細な余白がこの曲にはある。

聴いた瞬間よりも、聴き終えたあとにじわじわくる。そんな音楽はそう多くない。

さりげない曲が、なぜこんなに愛されるのか

『涙がキラリ☆』がリリースされてから30年。でもこの曲が“懐かしい”と語られるよりも、“今もちょうどいい”と語られることの方が多い。

ふとしたときに頭に流れてきて、なぜか嬉しくなる。

つまりこれは、“生活に馴染む音楽”なのだ。時代の流れに乗っていくのではなく、時代そのものと並走するような音。

それが今も、ラジオやプレイリストの中で静かに鳴り続けている理由なのだろう。

夏の記憶とともに

『涙がキラリ☆』は、真っ青な空よりも、夕暮れに差し掛かる時間が似合う。

はしゃいだあと、ちょっとだけ静かになるあの時間。楽しかったぶん、どこか寂しい。そんな感情が胸をかすめる。

その一瞬を、そのまま音にしたような曲が、この『涙がキラリ☆』だ。

思い出すとちょっとだけ胸がきゅっとする。でも、あの時の自分をちゃんと肯定できる。

そんな曲が、30年後も自然と聴かれているという事実こそ、この曲の素晴らしさそのものだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。