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30年前、日本中が耳をすませた“心の声の代弁ソング” 不安定な時代に未来を照らした“少し頼りない歌声”

  • 2025.7.25

「あの頃から、わたしたちを支え続けてくれる曲って何?」

1995年、日本の空気はどこか不安定だった。阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件――“日常”という言葉が揺らぎ、どこか心の居場所を探していた時代。

そんな中で、ある一曲が、静かに、けれど確かに、多くの人の心に届いた。

本名陽子『カントリー・ロード』(日本語詞:鈴木麻実子/作曲:Bill Danoff、Taffy Nivert、John Denver )――1995年6月25日リリース。

スタジオジブリ作品『耳をすませば』の主題歌として使われたこの楽曲は、外国曲の“カバー”という形式を越え、日本の若者たちの「心の記憶」に入り込んだ稀有な1曲だ。

“あの頃の不器用な自分”をそっと肯定してくれる1曲

『カントリー・ロード』は、アメリカのフォークソング『Take Me Home, Country Roads』を原曲としつつ、ただの日本語訳ではない。そこには日本の子どもたちに響く“新しい歌詞”が吹き込まれている。

この道をずっと行けばあの街につづいてる“気がする”という、「気がする」という言葉の揺らぎ。たしかな未来が見えない不安、それでも一歩踏み出そうとする勇気。

まるで自分にしか聞こえない“心の声”を、旋律が代弁してくれているようだった。

そして映画『耳をすませば』の世界観と相まって、この楽曲は“誰の中にもある青春の風景”と重なった現実と夢のあわいにあるような映像と、少し頼りない歌声が響き合い、何とも言えない余韻を残した。

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(C)SANKEI

“本名陽子”という存在の奇跡

この『カントリー・ロード』を歌い、同時に映画の主人公・雫の声を担当したのが本名陽子。その透き通る声質と、少し揺れるような不安定さこそが、この楽曲に真実味を与えた。

“演じている”のではなく、“そこにいる”と感じさせる歌声。それが、この楽曲を単なる主題歌以上のものに押し上げたのだ。

「帰る場所」はどこにあるのか――時代を超えて問い続ける曲

『カントリー・ロード』が30年経った今でも愛され続けている理由。それは、“どこに帰ればいいか分からない”という感覚が、時代を超えて共通しているからだ。

進学、就職、転職、恋愛、別れ――人生の節目で私たちはいつも“分かれ道”に立たされる。

そんなとき、ふと耳にしたこの曲が、そっと背中を押してくれる。

「遠回りしても、自分の選んだ道が“カントリー・ロード”になるんだよ」と。

あの日映画館でこの曲を聴いた10代の私たちが、今では大人になって、それぞれの“道”を歩いている。けれど、あのメロディは変わらず、胸のどこかに流れている。

“帰りたい場所”は、たぶん地図には載っていない。

それでもこの曲は、私たちの“今ここ”を照らしてくれる――そんな、不思議な力を持っている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。