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30年前、日本中が耳を奪われた“声が見えるデビュー曲” 透明感が共鳴した“異質の衝撃”

  • 2025.7.25

「どうしてこんなに耳から離れないのか」

それは、平成の音楽史に“静かな異変”が起きた日だった。

ハイテンションなバンドサウンドでも、過剰なビジュアルでもない。どこか“顔の見えない”アーティストが、空気のように滑り込んでヒットチャートを駆け上がっていった。

30年前、1995年5月1日にリリースされ、日本のJ-POPに「静かなる衝撃」を与えたのが、My Little Lover『Man & Woman』(作詞:KATE・作曲:小林武史)だった。

J-POP全盛期の真っただ中に突如現れた“異物”が、いかにして時代の耳を奪い取ったのか。

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ボーカルのakko(C)SANKEI

「静かに始まるJ-POP」が与えた違和感と期待

『Man & Woman』は、My Little Loverにとって記念すべきデビューシングル。5分超にも及ぶこの曲は、いわゆる“キャッチーな売れ線”とは一線を画していた

イントロのアコースティックな響きから、感情をじわりと膨らませていく構成。akkoの透明感ある歌声は、静けさの中に潜む熱を丁寧にすくい上げるように響く。サビでは感情がふわりと上昇し、聴く者の胸をじんわり締めつける。

一聴して静かだが、内側には確かな熱量がある。 それが『Man & Woman』の魅力であり、My Little Loverという存在の“最初の衝撃”だった。

「見せない」戦略が生んだJ-POPの新しいかたち

1995年当時、J-POPは黄金期の真っただ中にあった。

チャートには、強烈なキャラクターとパフォーマンス力を持つアーティストたちが並び、テレビと音楽は密接に結びついていた。

そんな中、My Little Loverは、過剰な露出を避け、音そのものにフォーカスする姿勢を貫いた。

プロデュースを手掛けたのは小林武史。既に音楽業界では名の通った存在だったが、彼自身が「作品ありき」の哲学を前面に押し出したことが、My Little Loverのスタンスに強く影響を与えている。

“何者なのかよくわからないけど、耳が離せない”――それがMy Little Loverの初期衝動だった。

言葉よりも「空気」を語る、異質なラブソング

『Man & Woman』は、男女の関係を描いた楽曲でありながら、明確な愛の形を提示しない。

寄り添うわけでもなく、拒絶するわけでもない――まるで感情の「隙間」を歌っているかのようだ。

そこには、1990年代半ばの空気が滲んでいた。

経済は下り坂、世の中は不透明、希望はあっても輪郭はぼやけている。

「こう生きるべき」なんて正解のない時代に、言葉で断言しない楽曲は、むしろリアルに響いた。

そしてこの感性こそが、多くの若者にとって“共鳴できる音”となったのだ。

静かな衝撃から、確かな足跡へ

『Man & Woman』は、大ヒットとまではいかなかったが、そのサウンドと世界観で確かな注目を集めた。続く2枚目のシングル『白いカイト』(作詞:KATE・作曲:小林武史)でファン層を広げ、そして3枚目の『Hello, Again ~昔からある場所~』(作詞:KATE・作曲:小林武史)で、一気にブレイク。

この静かなデビュー曲が、My Little Loverの“物語の序章”として今も語られているのは、その後の快進撃に裏打ちされたものだった。My Little Loverというユニットの“出発点”としての重みを今なお持ち続けている。

この曲が教えてくれるのは、「最初から派手である必要なんてない」ということだ。

静かに始まり、静かに広がっていくものこそが、時に一番深く刺さる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。