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劇場でしか味わえない『呪術廻戦』の“ゾッとする音”… ただの総集編では終わらない“秀逸な演出”

  • 2025.6.23

現在公開中の『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』は、五条悟(ごじょうさとる)と夏油傑(げとうすぐる)の過去編であり、『渋谷事変』『劇場版 呪術廻戦 0』に続く物語を読み解くために欠かせない重要なパート。作中屈指の人気キャラクターである五条や夏油が繰り広げるバトルシーンや、2人の切ない関係が大きな見どころとなっている。加えて、本作は“音の演出”が奥深いのだ。

※以下本文にはネタバレの内容が含まれます。

感動的なシーンから一転……観客に衝撃を与えた“銃声”と“静寂”

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(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

呪術界の要である“天元様”と同化するために選ばれた少女・天内理子(あまないりこ)を守るため、彼女の護衛任務を任された五条と夏油。護衛の最中、沖縄で彼らが天内と楽しそうに遊ぶシーンがある。天内は天元様との同化を阻止しようとする敵から狙われており、緊張感の漂う場面が多かったが、このときばかりは羽目を外して大はしゃぎだ。

五条たちと天内が沖縄をめいっぱい楽しんでいる様子や、水族館で大きな水槽の中の魚たちを眺める天内の姿が、ピアノの旋律が美しいBGMとともに流れる。まるであの夏の思い出をふり返っているようなこの長尺のシーンに、セリフはない。もうすぐ天元様と同化し、人間としての生活を失ってしまう天内の“名残惜しい”という心情を、映像と音楽だけで美しくも切なく表現しているのだ。

また、天元様のもとまで来た天内が「もっとみんなと一緒にいたい!」と本心を打ち明けるシーンでは、エンディングテーマ『燈』が流れ始め、涙を誘った。だが、「帰ろう。理子ちゃん」と手を差し伸べる夏油に「うん!」と天内が笑った瞬間、突然銃声が鳴り響き無音に。感動的な場面の直後に訪れたあまりにもショッキングな展開を、ぶつんと切れる“音”によってより鮮明に演出している。

雨音が拍手の音に聞こえる?フラッシュバックする“音の演出”の妙

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(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

物語の終盤、伏黒甚爾(ふしぐろとうじ)の手によって殺された天内の遺体を、非呪術師の宗教団体・盤星教の信者たちに囲まれながら運ぶ五条。笑みを浮かべて五条と天内の遺体に拍手する信者たちは、不気味なうえに理解できない。同じ場所に居合わせた夏油は、盤星教信者の拍手の音が頭にこびりついて離れず、トラウマのようになってしまう。

五条が“最強”としてさらに完全になった頃、夏油はまだ拍手の音が忘れられなかった。シャワーの音や外で降っている雨の音が、拍手の音と重なる。そして、夏油が浴びているシャワーの音が拍手の音に変わる演出は、滑らかであると同時にぞっとしてしまう。音楽だけでなく、こういった雨音や拍手の音も、キャラクターの心情を表す演出として巧みに使われているのだ。

『懐玉・玉折』の音の演出は、TVアニメ版でも印象的だった。一方で、劇場版総集編は音の演出を劇場の音響と臨場感で味わえるというよさがある。特に夏油が盤星教信者の拍手の音を思い出すシーンは、だんだん迫ってくる音に夏油の葛藤が滲んでいるようだった。音や静寂を使い、キャラクターの内面を繊細に描き出している『懐玉・玉折』。本作を何度も観たくなるのは、奥深い音の演出もひとつの理由ではないだろうか。


呪術廻戦
ABEMAにて第1話を無料放送中
[番組URL]https://abema.tv/video/title/536-1
【(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会】

ライター:まわる まがり
主にアニメについての記事を書くライター。コラムやレビュー、映画の作品評を手がける。X(旧Twitter):@kaku_magari