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ネイキッドドレスも、大きなガウンも禁止。カンヌ国際映画祭の新ドレスコードがスタイリストに意味するもの

  • 2025.5.21

サンローランSAINT LAURENT)のシースルードレスを着たベラ・ハディッド(2004年)から、マックイーンMcQUEEN)のドラマティックなガウンを着たエル・ファニング(2023年)まで、近年のカンヌ国際映画祭で最も印象的だった装いのいくつかは露出度の高い、あるいはボリューミーなものだった。しかし今年、カンヌ国際映画祭の主催者は開幕前日の月曜日になって、メイン会場であるグラン・テアトル・リュミエールのドレスコードを更新したことを発表。これにより、シアーなデザインや大きなトレーンのあるルックを纏った者はレッドカーペットを歩くことができなくなった。

公式ウェブサイトのドレスコードには、こう記されている。「体面上、露出の多い服をレッドカーペット、および映画祭の他エリアでも禁止」「ボリュームのある衣装、特に大きなトレーンのある衣装は、ゲストの動線を妨げ、劇場内での着席に支障をきたすため、着用不可とします。これらの規則を遵守しない場合、映画祭スタッフによってレッドカーペットへの立ち入りをお断りします」

ニュースレター『Discoursted』を執筆する文化評論家のルイ・ピサーノは、この新ルールについて「私が話をした多くのスタイリストたちは、本当にパニックになっていました」と話す。彼はまた、カンヌ国際映画祭は常に保守的であり、ドレスコードの厳格化が進んでいるとも指摘する。まず、2015年に女性陣がフラットシューズを履いていたために入場を拒否されたことで明らかになった「ヒール必須」のルール(ガイダンスによれば、「エレガントな靴やサンダル」はヒールの有無にかかわらず許可されている)。そして次に、2018年の自撮り禁止だ。それでも、今回設けられた新たな制限には多くの人が驚き、スタイリストたちはそれに適応するために奔走することになった。

スタイリストのローズ・フォードは、『サブスタンス』の監督であるコラリー・ファルジャ、俳優のブリット・ロウワー、俳優のエマ・ダーシーなどのスタイリングを担当しているが、この変更については、クライアントから連絡を受ける前にソーシャルメディアを通じて知ったという。「カンヌ国際映画祭はいつも服装のルールやエチケットに細かいので、私はそれほど驚いていません。過去にはメンズウェアのルックでも『カンヌのレッドカーペットでこれは許されるか』と夜な夜な調べたことも多々あります」とフォードは話す。

映画祭という“表現の場”で

2024年のレッドカーペットでサンローランのシアードレスを着たベラ・ハディッド。
"The Apprentice" Red Carpet - The 77th Annual Cannes Film Festival2024年のレッドカーペットでサンローランのシアードレスを着たベラ・ハディッド。

大きなトレーンやスカートは、レッドカーペットでの進行を早めるために禁止されたことがわかっている。 というのも、レッドカーペットでは一人につき10分間の枠があると言われており、大きなガウンを着た人たちは歩くのに時間がかかってしまうためだ。過去14年間にわたりこのイベントに参加してきたピサーノは、昨今のレッドカーペットは「最もクレイジーで、最も非常識で、最も大きなもの」を身に纏い注目を集めようとするインフルエンサーで混み合っていたと明かす。「彼らは多くのスペースを占拠するので、(後に続く)誰もが詰まってしまうんです。2,000人、3,000人がこの劇場に入らなければならないというのに」

一方、シアードレスに関しては、“体面上”という点でやや曖昧だ。ピサーノは大きなトレーンの規制には理解を示しているが、このルールは制限的だと付け加える。ネット上のコメンテーターも同意見のようで、スタイリスト兼コメンテーターのベイザヌール・アパイディンは、Xにこう投稿している。「彼らは、業界がヌードで利益を得ているときだけそれを許可しているのだろう。大きなガウンやトレーン付きのドレスが座席の配置を複雑にするのはわかるが、観客が目にする劇場のスクリーンにもヌードが映し出されるのに、なぜヌードを禁止するのか」

フォードは「ファッションよりも映画に焦点を当てるという理屈は理解できる」としつつ、「これは芸術的表現を祝す映画祭なのだから、アーティストとして、自分のスタイルを表現してもいいはず」と主張する。歌手で俳優のココ・ジョーンズ、俳優のエヴァ・ロンゴリア、俳優でタレントのララ・アンソニーなどを顧客に持つスタイリストのメイヴ・ライリーは、この変更に肩を落としているようだ。「カンヌは最も華やかでエキサイティングなレッドカーペットのひとつであり、パレの階段を飾る贅沢なガウンやオートクチュールピースを見るのがいつも好きだったんですけどね」

ファッション評論家のルーク・ミーガー(別名:HauteLeMode)は、必要条件が具体的でないことが問題につながる可能性があるとも見ている。「どれくらいが長すぎで、ボリュームがありすぎなのか、詳細が必要です。ヌードの要素については、レッドカーペット関係者の裁量に任されているのでしょうか? 何をもってしてヌードとするのか、ルールは決まっているのでしょうか?」

こうしたさまざまな意見が飛び交う一方で、ほとんどのブランドはリスクを冒すようなことはしないだろう。カンヌ国際映画祭はブランドにとって大きなチャンスであり、レッドカーペットでのルックが注目を集めれば、認知度を高めることができる。インフルエンサーマーケティングプラットフォームのLeftyによると、昨年のカンヌ国際映画祭はインスタグラムで8630万ドルのEMV(=アーンドメディアバリュー。ブランドのアンバサダーらがSNS等のメディアを通じ企業にもたらす経済効果のこと)を獲得した。サンローランは最も話題になったブランドで、1,410万ドルのEMVを生み出したが、そのうち10%はベラ・ハディッドが着用したキャラメルブラウンのネイキッドドレスが牽引したものだった。

直前のルール変更がもたらした混乱とチャンス

クリステン・スチュワートは2018年のレッドカーペットでヒールを脱ぎ、ドレスコードに抗議した。
クリステン・スチュワートは2018年のレッドカーペットでヒールを脱ぎ、ドレスコードに抗議した。

直前のルール変更は、すでに今年の衣装を用意していたブランドにとって痛手となった可能性が大いにある。なぜなら、それは数カ月も前から計画されるものだからだ。そして、多くのスターが膨大なコストをかけ、何時間もかけて制作されるオートクチュールピースを着用する。幸いにもフォードのオープニングルックに影響を受けたものはないが、ほかのスタイリストの中には困難を強いられた人もいるそうで、「何カ月もかけて準備した人たちがパニックに陥っているのは確かです。これだけ労力をかけてきたのに、残念でなりません」とこぼす。

ライリーもこれに同意する。「ありがたいことに、私たちが事前にスタイリングして準備した衣装に影響はありませんでした。ですが、私のクライアントは(変更が発表された時点で)すでにカンヌに到着していたので、大きな問題になったかもしれません」

さらに若手デザイナーであれば特に厄介なことで、金銭面やロジスティクスの面から、大手ブランドのように対応することは難しい。「そうなると彼らはお金を失い、PRする機会を失うことになる」とミーガーは危惧する。

今年は比較的控えめになったメットガラから察するに、カンヌ国際映画祭ではネイキッドドレスやボリュームのあるルックを仕込んでいたセレブは多かったかもしれない。下着を見せたり、透け感のある素材やドラマティックなカットアウトを施したデザインを取り入れたりするのは、最近のレッドカーペットの定番となっているからだ。

とはいえ、過去のカンヌ国際映画祭の写真をグラミー賞やメットガラといったほかの授賞式やレッドカーペットのそれと比べて見ると、ネイキッドドレスやクレイジーなルックはずっと少ないことがわかる。映画祭の参加者の多くは、出演者も含め、控えめなガウンを選ぶ傾向にあるとピサーノは言う。彼曰く「この変更に影響されるのは、ほとんどがブランドアンバサダーやインフルエンサー」だという。

ピサーノによれば、思いがけない恩恵を受ける者もいるかもしれない。それは、カンヌのクロワゼット通りにショールームを構えるPR会社だ。「(突然の変更で困っているスタイリストたちを)ショールームに招待すれば、この流れを利用することができるかもしれませんね」

Text: Madeleine Schulz, Lucy Maguire Adaptation: Motoko Fujita

From VOGUEBUSINESS.COM

チッチョリーナ カンヌ国際映画祭 ネイキッドドレス
1988年/イローナ・スタラー(チッチョリーナ)

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