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「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選世界に愛される日本の文化~『錦鯉を創る/新潟から世界へ』『あける』~vol.32~

  • 2025.5.22

衛生的で快適なトイレまでも! いまや日本が憧れの地

こんにちは。アンヌです。
先日母が来日しました。久しぶりの日本で、四方(よほう)を駆けめぐる元気なシニアです。支援活動にも勤しみ、資金集めのためにパリでは蚤の市に出店。売れるものはないかと、現在進行中の私の断捨離作業に顔をのぞかせます。「虎屋」の化粧箱、「錦松梅(きんしょうばい)」の器、「トトロ」のプラスチックカップ……。使わないものを拾い上げてはスーツケースに。近年、日本ブームに拍車がかかり、こうしたものでも人気を集めるそうなのです。
そんな時代が来たのか!
思えば私が移住した1980年代のパリでは、まだ日本のことはあまり知られていませんでした。「カメラを下げながらブランド物を買う人たち」、「メイドインジャパンは性能が良い」、といった経済成長を遂げた国と理解していたのは一部のフランス人です。一般人やクラスメイトたちにとっては、サムライとゲイシャが行き交う中国の一部という認識だけ。道を歩けば、「ヘイ、チャイナタウン!」と嘲(あざ)け笑わられ、東洋人の外見を揶揄した吊り目のジェスチャーもまかり通るほど。屈辱を感じる気持ちさえ抑える日々でした。
ところが月日が経ち、2000年ごろになると、知名度に変化が。中国と日本は別々の国だと認識され始め、街角には「SUSHI屋」が目立つように。生魚に抵抗があったフランス人を虜にし、歴とした食文化として受け入れられていきました。スーパーの見知らぬレジ係でさえ、私たち親子が日本語で話していると笑顔を向けてくれるように。「あなたたち日本人?私、SUSHIだーいすき!」と言って。
以後、アニメ、漫画、ラーメンなど、日本のさまざまな側面が評価され知れ渡るようになっていきました。
その波に乗るように日本を目指す若者が増え、釣られて親世代も観光旅行先に日本を選ぶように。SNSの口コミでさらに……。
訪日フランス人は、口を揃えて言います。「渋谷や秋葉原の近未来的な街並みや、ポップなカルチャーは最高にエキサイティング」、「お茶、工芸、着物などの伝統にはうっとりする」、「多種多様な食事、緑豊かな田園風景、ゴミのない街中は感動的」と。そしてなによりも衛生的で快適な公衆トイレに癒しを感じ、日本が憧れの地と化すほどに。
今では、私よりもフランスの友人のほうが東京散策に詳しくなっています。
こうして日本が愛されるようになったのは、この国の文化を紡ぐ職人や芸術家たちの、ぶれない信念と豊かな想像力のお陰でしょう。半世紀弱の年月をしみじみと振り返るこの頃、ご紹介するのは日本固有の文化に着目した作品2冊です。
 
*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

『錦鯉を創る/新潟から世界へ』

写真と文/松沢陽士(まつざわようじ)
(1,430円 小学館)

池で見かける鯉といえば、紅白や黄金色。しかしこの華やかな色彩は自然に生まれたものではありません。もともとは新潟県の山間の豪雪地域で、食料として育られていた灰色の鯉。まれに色の変わったものが混ざり、徐々に増やしていったそう。本作は錦鯉の養魚場の和田さんに密着したドキュメンタリー写真絵本。100を超える品種の中からオスとメスを選び、とびきり美しい鯉づくりに挑みます。今では世界中から注文が。美しい観賞魚の文化を是非!

『あける』

作/はらぺこめがね
(1,430円 佼成出版社)

中はどんなかな?蓋を開けると、ふわりと立ち上る甘く香ばしい香り。鰻重です。お次はパカっと、曲げわっぱのお弁当。お丼蓋からはご飯にのせた卵綴じの鶏肉やトンカツが顔を出します。大きな鍋蓋を持ち上げると……。日本料理に根付く「開ける」という行為。この小さなワクワクを、絵本にしかできない表現方法でダイナミックに描いています。世界で称される包装技術にも通じる、日本の食文化の楽しみをここでも味わってみては。


*画像・文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ
アンヌ

アンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。
モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。
最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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