作曲家・三宅純が二度と観たくない名画『ポンヌフの恋人』

純粋で痛々しい2人に感情移入してしまうから

映画は総合芸術。観賞者としては脚本、芝居、画作り、音楽などが総合的に優れた作品に惹かれます。映画音楽はそのバランスの中でいかに機能するかが重要ですね。純粋でエキセントリックな2人が魅力の本作。

彼らが満開の花火の下でダンスを踊るシーンをはじめとし、多くの印象的なビジュアルも心を掴（つか）みます。でもそのピュアさゆえに自傷的な方向へ突き進んでいくさまが辛くて。何度も観るには体力が要ります。同様の理由で『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』も何度も観るのには躊躇（ちゅうちょ）します。

一方で、実体験とリンクするのが『マラソンマン』。ある歯科医が拷問のために主人公の歯を痛めつけるシーンを観ると、映画の舞台と同じくニューヨークでSっ気の強い歯医者にかかった時の記憶が蘇ってしまって（笑）。とても観直せませんね。

Information

『ポンヌフの恋人』

孤独な大道芸人のアレックスと、失明の危機に瀕するミシェル。共に絶望を味わう2人はパリのポンヌフ橋で出会い、次第に恋に落ちていく。しかし、ミシェルは両親から捜索願いが出されていた。'91仏／監督：レオス・カラックス。

profile

三宅純（作曲家）

みやけ・じゅん／1958年生まれ。ヴィム・ヴェンダースや蜷川実花作品などの音楽を担当。近作に『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』などがある。

HP：https://www.junmiyake.com/