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100歳を超えても情熱を燃やし続けた巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ~没後10年特集上映「オリヴェイラ2025」で魅惑の世界に触れる~

  • 2025.4.16

『アブラハム渓谷 完全版』© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night

100歳を超えても映画を作り続けたポルトガルの巨匠マノエル・ド・オリヴェイラ。没後10年を迎えた今春、彼の多彩な作品群の中から5作品がデジタル・リマスター版で、4月18日より一挙上映されます(うち3作品は国内劇場初公開)。

1908年生まれのオリヴェイラ監督は、1931年にサイレントの短編ドキュメンタリーを発表するなど若い頃から映画作りに情熱を傾けていたものの、アントニオ・サラザール政権による独裁体制下で企画が成り立たず、政権批判の発言が問題視されて投獄されこともあり、順風満帆とはいえませんでした。

オリヴェイラ監督の才能に光が当たったのは、60歳を過ぎてから。1974年に独裁政権が終わると次々と作品を発表し、1985年にヴェネチア国際映画祭で特別⾦獅⼦⽣涯功労賞を受賞。1999年の『クレーヴの奥⽅』でカンヌ国際映画祭審査員賞を、2008年には同映画祭の名誉パルム・ドールを受賞するなど、現役最高齢監督として輝かしいキャリアを築き、2015年4月2日に106歳で亡くなりました。

『訪問、あるいは記憶、そして告白』© Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema

美しい映像と音楽、斬新な展開で観るものを惹きつけるオリヴェイラ監督の作品群は、今も色褪せることはありません。この機会に、新たな発見、感動を体験してみてはいかがでしょうか。

自身の死後に公開するようことづけたドキュメンタリー 『訪問、あるいは記憶、そして告白』

「私はシネマトグラフの映画監督だ」「映画は私の情熱だ」とオリヴェイラ監督が語る本作は、1982年のドキュメンタリー作品。ただし、自らの死後に発表するようことづけられていたため、2015年にポルト、リスボン、カンヌ国際映画祭、山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映されました。

1942年に建てられて以来、およそ40年間オリヴェイラが暮らしたポルトの家を舞台に、家族や自らの人生をたどります。『アブラハム渓谷』の原作者でもあるポルトガル文学の作家アグスティーナ・ベッサ=ルイスが台詞を手掛けました。ドキュメンタリーなのにフィクションのような、独創的な作風に魅了されます。

『訪問、あるいは記憶、そして告白』

※国内劇場初公開
1982年/68分
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:マノエル・ド・オリヴェイラ、マリア・イザベル・ド・オリヴェイラ、ウルバノ・タヴァレス・ロドリゲス

© Cineastas Associados, Instituto Portuges de Cinema

ユーモア炸裂、驚きに満ちた喜劇的なオペラ映画 『カニバイシュ』

『カニバイシュ』© Filmargem, La Sept, Gemini Films

アヴェレダ子爵に嫁いだマルガリーダは、婚礼の夜を迎えます。しかし、アヴェレダ子爵から自身が人間ではないことを告白されたマルガリーダは、思いもよらぬ事実に錯乱状態に陥ります。厳かなムードの晩餐会は、やがて驚愕の事態へと展開していくのでした。
 
アルヴァロ・カルバリャルの原作をもとに、人間、動物、機械などの境界線を超越した奇想天外な物語を描いた怪作。マルガリーダ役を演じるレオノール・シルヴェイラがとても美しく、目を奪われます。本作が映画初出演だったシルヴェイラは、オリヴェイラ作品の常連俳優となり、後に『アブラハム渓谷』では主演を務めました。

『カニバイシュ』

1988年/99分
監督・脚色・台詞:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドリア

© Filmargem, La Sept, Gemini Films

拳銃で命を絶った作家の最期の日々を描く 『絶望の日』

『絶望の日』© Madragoa Films, Gemini Films

19世紀のポルトガル文学を代表する小説家カミーロ・カステロ・ブランコは、多くの作品を残しながらも、葛藤と苦悩を抱え、拳銃自殺を遂げるにいたりました。

そんな文豪の最期の日々を、手紙や新聞記事、調書などに取材し、カミーロ・カステロ・ブランコの生家を舞台に描いた作品。。⾳楽にワー
グナーの「トリスタンとイゾルデ」と「バルジファル」を使⽤。

『絶望の日』

※国内劇場初公開
1992年/77分
監督・脚本・台詞:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:テレーザ・マドルーガ、マリオ・バローゾ、ルイス・ミゲル・シントラ

© Madragoa Films, Gemini Films

オリヴェイラ監督の代表作を完全版で上映 『アブラハム渓谷 完全版』

『アブラハム渓谷 完全版』© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night

19世紀のフランスの作家フローベールの有名な小説『ボヴァリー夫人』を現代のポルトガルに置き換えて、ポルトガルの作家アグスティーナ・ベッサ=ルイスが執筆した小説『アブラハム渓谷』を原作に、オリヴェイラ監督が映画化。

男性的な世界や権力に詩的な力で抵抗する主人公のエマをレオノール・シルヴェイラが演じ、注目を集めました。すでに80歳を超えていたオリヴェイラ監督は本作でさらに評価を高め、代表作のひとつとされています。 

『アブラハム渓谷 完全版』© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night

『アブラハム渓谷』が公開されたのは1993年ですが、98年にオリヴェイラ監督自らが再編集して15分の未公開シーンを追加した完全版が作られました。今回上映されるのは、その完全版のデジタル・リマスター版です。

『アブラハム渓谷 完全版』

※国内劇場初公開
1993年/203分
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ

© Madragoa Filmes, Gemini Films, Light Night

ブニュエルに捧ぐ、『昼顔』の若妻の38年後の物語 『夜顔』

『夜顔』© Filbox Produções, Les Films d’ici

 

オリヴェイラ監督が98歳のときに発表した作品。『昼顔』(1967年)を撮ったルイス・ブニュエル監督にオマージュを捧げ、登場人物たちの 38 年後を描いています。
 
カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『昼顔』は、昼は娼婦、夜は貞淑な妻、という二重生活を送る若妻セヴリーヌの物語。裕福な医者の夫と何不自由ない暮らしを送りながらも満たされない欲望を抱えていたセヴリーヌは、高級娼婦として働きはじめます。秘密の生活を楽しんでいた矢先、夫の親友アンリが客として訪れて……。背徳的な性愛に身をゆだねるセヴリーヌを当時20代のドヌーヴが演じた名作です。
 
『夜顔』では、パリで偶然再会したアンリとセヴリーヌが描かれます。アンリは真実を打ち明けるという口実でセヴリーヌを食事に誘い、過去の秘密や欲望について語り合います。アンリ役には『昼顔』のミシェル・ピコリが続投、セヴリーヌ役はビュル・オジエが演じました。オリヴェイラ監督が描いた二人の大人の会話は、『昼顔』を知っていると共犯者のような気持ちで見聞きできるので、さらに楽しめるでしょう。

『夜顔』

2006年/69分
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ミシェル・ピコリ、ビュル・オジェ

© Filbox Produções, Les Films d’ici

「オリヴェイラ2025 没後10年 マノエル・ド・オリヴェイラ特集」

2025年4月18日(金)より、
Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほかにて全国順次公開

提供:キングレコード
配給・宣伝:プンクテ
協力:
ポルトガル大使館 カモンイス言語国際協力機構


※画像・文章の無断転載はご遠慮ください
※この記事の内容は2025年4月時点の情報です

構成・文

ライター
中山恵子

中山恵子

ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。

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