1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選応援賛歌の絵本~『はじまりの日』『ビリーブ』~vol.31

「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選応援賛歌の絵本~『はじまりの日』『ビリーブ』~vol.31

  • 2025.4.15

新しいスタートに

こんにちは。アンヌです。
毎年、4月になると思い出すのが、8年前。小2に上がる息子の初登校日です。
転校先の小学校までの通学路は、和やかな春の日差しで輝いていました。でも私たち母子は、不安でどんより。
1年生のときは、ミッション系の遠方の小学校に電車で通っていました。読書に没頭できた長い通学時間は楽しそうでした。しかし、いったん学校の門をくぐると、規律の厳しい学校らしく、先生方は子どもたちを注意するのに忙しいという印象。
2学期に入るころ、息子が泣いて帰ってくるように。早熟で幼いころからしゃべりが得意な息子。学校での「困りごと」を聞くと……。例えば、「さくらんぼ計算」と呼ばれる授業が苦痛だ、お友だちの面倒を見るのが負担だし、叱られるのも辛い、という内容。よくある「小1の壁」だろうと見守っていました。
また、図鑑が好きで、特に生き物の生態のめり込むと、たちまちダーウィンの進化論に関心を寄せた時期でもありました。けれどもその小学校では、「生き物はすべて、神様がお創りになった」という教え。息子の中で疑問が膨らみ、やがて大きな不満となっていきました。
秋も深まるころ、進化論を主張する息子と先生の間で衝突が。私は学校から呼び出されました。
お子さんの態度が心配だ。ご家庭内になにか問題があるのか。
そう質問されたので、家庭内というより、息子の学びのスピードが速いことが原因なのではないか。周囲に対しても敏感で、自分だけでなく他人が叱られるのもストレスなのでは。おごり、と捉えられても構わないと腹を括り、母としての見解を思い切って伝えました。そして解決策を見つけるため、先生の助言を待ったのです。
ところが、先生は両手を合わせます。「お祈りを」。耳に入ってくる言葉は「神様、お母様にどうか正しい道をお示しください」。面談終了。
小さな子どもが苦しんでいるというのに、これでいいのだろうか。
3学期に入り、息子はとうとう「学校に行きたくない」と訴えるように。こうなったら転校か。歩いて10分のところには立派な公立小があるではないか。
こんな経緯があった後の登校日でした。転校先の先生方に息子を託すと、私は落ち着かないまま家で帰りを待ちました。
お昼前になり家のドアが開きます。「ママ!」と力強い息子の声が。「今日、ぼく、一度も怒られなかった!」と誇らしげです。
翌日も、そのまた翌日も、「今日も怒られなかった」「今日もだよ」と。
沃土(よくど)にトマト。痩せた土地に葡萄。通学路にはコンクリートの割れ目から力強く芽を出すスミレやタンポポも。それぞれの育ちに適した環境があります。息子の読書量はめっきり減りました。でももう大丈夫。自信を持って進んでいけるよと抱きしめたのです。
年度始まりに、新しい環境に飛び込んでゆくのは、友人、家族、もしかすると自分かもしれません。今回は、それぞれが信じた道を応援する2冊です。
 
*次ページではアンヌさんのおすすめ2冊をご紹介します

『はじまりの日 FOREVER YOUNG』

作/ボブ・ディラン
絵/ポール・ロジャース
訳/アーサー・ビナード
(1,760円 岩崎書店)

歌手として初めてノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランの名曲。「星空へのぼるはしごをみつけますように」、「このひろい世界がきみの目に光りますように」…。息子を思っていたらふと浮かんだという歌詞は、希望に向かって進もうとするすべての人を勇気づける言葉の数々です。本作は、詩人アーサー・ビナードが「いつまでも若く」を「きょうもあしたもあたらしいきみのはじまりのひ」と訳し、絵本化した一冊。また、各ページの絵の中にはボブ・ディランに関係するたくさんのヒントが。解き明かす楽しみも満載です。2025年公開された映画『名もなき者』とも合わせてぜひ。

『ビリーブ~ぼくの夢が叶うまで~』

作/ロバート・サブダ
訳/あんらく かえ
(3,520円 大日本絵画 )

「松ぼっくりは…大人になったら、どこまでも大きくなるんだ」「『蜂は…ゴールをめざして、ぐんぐん進んで行こう」』。仕掛け絵本の魔術師と呼ばれる作者による6つの仕掛け。美しい色彩をバックに白く浮かび上がります。その巧みな技術が織りなす鳥や船などは、未知へと邁進する気持ちを飛躍させてくれるでしょう。入学や就職のお祝いにも相応しく、心揺さぶる美しさが光ります。

Ⓒ2019 Robert Sabuda


*画像・文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ
アンヌ

アンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

元記事で読む
の記事をもっとみる