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「撮り鉄」でも「乗り鉄」でもない…鉄道趣味のために数千万円を費やす「財力最強の鉄オタ」のすごい世界

  • 2025.4.10

趣味にはどれくらいのお金がかかるものだろうか。旅行会社に勤めるコンテンツツーリズム研究家の古関和典さんは「職業柄、さまざまな領域の強者たちに面識を得てきたが、特に鉄道趣味においては、突き詰めた趣味人を何人か知っている」という――。

鉄道趣味に消えていくお金はどれくらいか

「ウエにはウエがいる」。これはどんなジャンルにおいても当てはまる公式だ。私は旅行会社に勤めるサラリーマンだが、職業柄、さまざまな領域の強者たちに面識を得てきた。

特に鉄道趣味においては、突き詰めた趣味人を何人か知っている。たとえば埼玉県のHさん(仮名・60歳代)のような、自宅に踏切や動態保存(運転可能な状態での保存)の「10トンディーゼル機関車」を持っている人などが代表例だが、知人のKさん(仮名・60歳代)は、群馬県に別荘を保有し、そこで本格的な鉄道模型を走らせている。

また、同じく知人のSさん(仮名・50歳代)は、自宅に「時刻表」のバックナンバーを保管していて、古本屋に行っては「欠けている」月号を買い集めるという、異例の収集家。過去の時刻表に、今は走っていない列車や廃止された駅を見つけるのが喜びだという。

鉄道趣味には、「撮り鉄」「乗り鉄」「収集鉄」などさまざまな細分化された「ジャンル」があるが、その中では「模型鉄」が最もお金がかかるカテゴリーだと一般的に言われている。この趣味には、どれくらいのお金が消えていくものか、「類型」に当てはめて考えてみたい。

「模型鉄」初心者から強者までの差額

まず「模型鉄」については、眺める対象となる模型の大きさには何種類かあり、線路の幅に応じて小さい順からZゲージ、Nゲージ、TTゲージ、Oゲージ、Gゲージと分類される。

初心者におすすめなのは、車両のラインナップも多い線路幅9ミリのNゲージで、1両あたり8000円~1万5000円程度が相場のようである。ただし当然のごとく、1両では済まない。1カ月に1両ずつ車両を買い集めれば年間12万~20万円で済むと考えられるが、レールや付帯設備など、それぞれ結構な値段がする。そのためいったん沼にハマると、年間50万円ほどの出費は覚悟しなければならない。

さらに、その模型を設置する場所についても、それなりのスペースが必要となる。最も線路幅の大きなサイズのGゲージ(線路幅45ミリ)となると、ヨーロッパでは「庭園鉄道」と呼ばれており、まさしく土地や建物が必要なレベルとなる。車両だけでも、1両あたり数万円~20万円程度が一般的であるが、レールを敷いて実際に走らせるとなると、前述の別荘のような形で所有する人も多く、土地代や建物代なども含めると1千万円単位の支出となるケースもある。

イギリスの「庭園鉄道」を走るマモドのライブスチーム蒸気機関車
イギリスの「庭園鉄道」を走るマモドのライブスチーム蒸気機関車(写真=AmosWolfe/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
「撮り鉄」「収集鉄」のふところ事情

「撮り鉄」については、何と言っても撮影機材である。比較的初心者向けと言われているオートフォーカス付きのミラーレス一眼カメラで10万~15万円前後。これが1台あればある程度は十分かと思われるが、機材を揃えようとするとかなりのお金がかかる。

まず、追加で必要となるのがレンズで、これは極めると数十万円にも至り、まさに「沼」の世界。他にも三脚やカメラを乗せる雲台うんだい、バッテリーや動画撮影用のビデオカメラなど、どのような撮影をしたいかの方向性によって準備費用は変わってくる。

また、撮影に出かけることも必然的に多くなる。列車を外から撮影するので実際には車両に乗らない場合が多いが、自家用車やレンタカーで撮影スポットに出かけるための費用が必要となる。

「収集鉄」はどうだろう。これには多種多様な対象物があり、中でも鉄道や車両関連の部品は高価である。主にオークションや販売会に出かけて、駅に設置されている看板や車両部品(イスなども含む)は高く、今はあまり見られることのなくなったヘッドマークなどは、レプリカでも数万円かかる。「切符鉄」という昔の切符を収集するジャンルもあるが、高値で取り引きされるのは、切手と同様に「ミス切符」。駅名などの印刷の誤植などが見られる切符は、レアでもあるため1枚あたり数万円かかるとのこと。

「乗り鉄」必要経費の千差万別

その中で、比較的お金がかかりにくい、と言われているのが「乗り鉄」である。

かく言う私も、国内各地の鉄道を乗り歩き、JR、私鉄のほか、路面電車やモノレール、ケーブルカーなどをすべて「乗り潰した」人間である。ただ列車に乗って移動することが好きな人種で、仕事や用事などで移動するだけで欲求が満たされるので、いわば必要経費だけで満たされるのが「乗り鉄」ジャンル。このジャンルに含まれる「呑み鉄」など、車内でお酒を買うなどの「費用」はかかるものの、大した額にはならない。

ただし、これが海外に「進出」してしまうと、かかるお金には際限がなくなる。別の知人はロシアのシベリア鉄道を乗り潰したり、中国の鉄道にハマっている人もいるなど、国内の鉄道に飽き足らない場合には要注意である。また、JR九州の「ななつ星in九州」に代表されるクルーズトレインなどに乗ってしまうと、格段にお金がかかるので、ここまでくると、もはや「乗り鉄」とは言えないのではないか、と思う。

ななつ星in九州
ななつ星in九州(写真=Rsa/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons)
単身赴任で磨いた「旅」の要素

この「乗り鉄」の中には、フリーきっぷなどを使いながら、なるべくお金のかからない方法で旅をするための努力や工夫を惜しまない人も多く、私もその傾向である。

以前、大阪に単身赴任していた私は、とかく退屈になりがちな東京の自宅との往復に「旅」の要素を加えていた。東海道新幹線を使うケースはまれで、別の移動手段でいかに安く快適に移動するかに腐心し、鉄道の旅路を楽しんだものである。

JRに唯一残る定期運行の寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」は、強い味方。夜行バスがすべて出発した後、大阪を24時半に出発して、東京に朝7時過ぎに着く。もちろん寝台券を含めると新幹線利用よりも高くなってしまうのであるが、朝着いてそのまま東京で用事を済ませることのできる点は魅力。もっとも、それができるのは上りだけで、下りは関西の各都市は深夜のうちに通過してしまうので使えないのであるが。

昨年敦賀まで開通した北陸新幹線の利用ももちろん試した。大阪~金沢~東京~京都という、いわゆる「一筆書ききっぷ」(運賃1万8700円/税込み)を使うことで、東京~大阪の単純な往復(8910円×2/税込み)とほぼ同じ運賃で北陸の旅を楽しめる。仕事がうまく行ったときなど、一人打ち上げを兼ねて金沢で途中下車して海の幸をいただいたり、北陸の温泉を満喫したり、ささやかな幸せを味わった。

大阪から東京まで10時間かける醍醐味

また、少し時間があれば普通列車を利用して、大阪東京間を往復。在来線の東海道本線では、最も乗り換えの少ないパターンで、途中駅の米原・豊橋・浜松・熱海の各駅での乗り換えが必要となるが、慣れてくると、列車のどのあたりに乗れば乗り換えがスムーズかが分かってくるので、荷物を持っていてもラクに移動できるようになる。

中でも、横に長い静岡県の「攻略」が重要で、沼津から浜松までを1時間40分で走破する「ホームライナー」はありがたい存在。330円の追加で快適に移動できるため、通勤客以外にもこんな使い方があるのである。

ただし、それでも大阪の家から東京の家まで10時間ぐらいはかかる。家族からはそんなに無理しなくても、と毎回信じられないという顔をされるのであるが、実は本人は結構楽しんでいるのだ。その他、中央本線経由で南アルプスの山々を眺めながらのんびり西へ向かったり、大阪から名古屋までは近鉄や関西本線を使うなど、バスや徒歩(⁈)での移動も含め、考え得るすべてのパターンを満喫することができた。

中央本線経由で東京から大阪へ向かう山梨県内の車窓風景
中央本線経由で東京から大阪へ向かう山梨県内の車窓風景

さまざまな「類型」によってお金のかかり方に大きく差がある鉄道趣味。結局のところ、それぞれの描く鉄道の風景や世界観をいかに楽しみ、他人との共有ばかりでなく自分自身がどこまで没入できるかが幸せを感じるポイントなのかもしれない。もちろん、財布に穴が開かないことが前提だ。常に浮世の風を感じながら浸りたいものである。

古関 和典(こせき・かずのり)
ロケ地研究家、コンテンツツーリズム研究家
1973年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、旅行会社に入社。映画『のだめカンタービレ』のヨーロッパロケを担当して以降、社内でチームを立ち上げ、数多くの映画、テレビドラマ、アニメ等のコンテンツ制作の業務に携わる。2023年、法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了。現在は業務の傍らでロケ地研究家として「ロケ地ラボ」を主宰し、各大学や地域での講演も行っている。

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