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『崖の上のポニョ』は本当にハッピーエンドなのか…?モデルになっている“まさかの人物”

  • 2025.8.22

金曜ロードショー8月のジブリ特集2作品目は2008年に公開された『崖の上のポニョ』。海の女神の母と魔法使いの父に育てられた魚の子・ポニョが、5歳の男の子・宗介と出会い、愛情を育む物語だ。

小さな子どもの冒険譚と愛の物語

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© 2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT

『崖の上のポニョ』は、ジブリ作品の中でも主人公の年齢がぐっと低いのが特徴だ。一方で、宗介は母親をリサと名前の呼び捨てにしていたり、しっかりものな一面もあったりと、5歳にしては大人びている。そんな宗介は、海で偶然出会った人面魚を助ける。宗介はポニョの可愛らしさを、ポニョは宗介の優しさを、好きになる。

一度は、離れ離れになってしまう2人だが、ポニョが父親・フジモトが管理していた命の水を井戸から溢れさせたことをきっかけに、ポニョは強力な魔法が使えるようになる。人間の女の子の姿に変身したポニョは、再び宗介の元へ。しかし、ポニョが溢れさせた命の水は、海と世界を混乱させてしまう。

そんな混乱した海を魔法で大きくしたおもちゃの船で渡り、母親を探す宗介とポニョ。最終的に宗介がポニョを愛し続けると誓ったことで、ポニョは人間として生きられるようになった。

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(C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT

『崖の上のポニョ』は、他のジブリ作品と比較しても、素朴で柔らかいタッチが特徴の作品になっており、ポニョと宗介の可愛らしくも勇敢な冒険譚とマッチしている。一方で、ストーリー展開の上では起伏が少なく、作品の中で天変地異が起ころうとも原因が説明されないなど、分からないことは分からないまま進んでいくのも特徴だ。分からないのにも可愛らしく、それでも感動できる。そんな力を『崖の上のポニョ』は持っている。

現実と死後の世界がつながる?

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(C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT

『崖の上のポニョ』はポニョが魚から人間になる部分以外は、ほとんど現実に即した日本を舞台に展開されている。しかし、海と世界が混乱する後半は住んでいる生き物や登場する人物を含めて不思議な部分が多い。海面が上がった世界では、古代魚が泳いでおり、宗介と出会う女性も少し古風な見た目をしている。また、宗介の父親で、船乗りである耕一(CV:長嶋一茂)は夜の海の上で、船の墓場を見たりと、不思議なことが立て続けに起こる。また、宗介の母親・リサ(CV:山口智子)が勤める「ひまわりの家」は海の下に沈み、そこで過ごす入居者たちは若返ったように丈夫な足腰で走り回っている。死後の世界とつながったから時代をまたいで生き物や人間が表れていると捉える人がいてもおかしくないだろう。

一方で、宗介やリサがポニョと共に陸に戻った場面では、誰かが亡くなっている様子はない。また、フジモトがポニョが命の水を井戸から溢れさせたせいで引力が強くなり、月が落ちそうなほど近づいていると説明している部分がある。月が近づいたから、月の引力により海面が上がったとも捉えられる場面で、時代をまたいで生き物が発生しているのは、命の水の効果とも捉えられなくない。

前述の通り、こういったファンタジー要素に関して作中では説明が一切ない。視聴者の捉え方次第で、何通りもの設定が思いついてしまう。

ポニョの本名「ブリュンヒルデ」は、北欧神話から名付けた?

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(C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT

ポニョという名前は宗介が物語の序盤で命名しており、ポニョの本名はフジモトが呼ぶとおり「ブリュンヒルデ」だ。「ブリュンヒルデ」とは、北欧神話に出てくる戦死者を天国へ導く半神・ワルキューレの1人の名前。特に愛憎劇の末に男性を殺してしまう女神として知られている。また、本作のモチーフは、アンデルセン童話の『人魚姫』であるという説もある。モチーフや名前の元となっている作品を踏まえると、宗介とポニョの可愛らしい恋模様とは、真逆の辛く悲しい恋物語ばかりだ。

宗介とポニョがキスをして、ポニョが人間になって終わるハッピーエンドに見える一方で、宮崎駿は朝日新聞夕刊のインタビューで以下のように答えている。

しかし、これがハッピーエンドかどうかは見る人によって違うと思う
出典:『崖の上のポニョ』についての宮崎駿へのインタビュー(朝日新聞夕刊)

確かに、現実的なことを考えると、まだ5歳の宗介が一生涯ポニョを愛し続けられるかというと少し疑問が残る。そんな少しビターな現実を混ぜ込むために、愛憎劇を代表する「ブリュンヒルデ」という名を引用したのかもしれない。

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(C)2008 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, NDHDMT

一方で、子供同士の清らかな約束が物語を牽引し、世界を救ったのは事実だ。周辺情報を気にせずに、甘い余韻を楽しむのも、視聴方法の一つだろう。日本の夏の風景を楽しむことができる『崖の上のポニョ』。どこか懐かしいタッチの作画と共に、小さな子どもの“好き”が世界を救う様子を見守ってみてはどうだろうか。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202