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“戦争のリアル”を描いた不朽の名作アニメ…巧みな構成で魅せる“圧巻の脚本”

  • 2025.8.20
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Google Geminiにて作成(イメージ)

8月15日(金)、戦後80年となる終戦の日に金曜ロードショーで『火垂るの墓』が放送された。地上波放送は7年ぶりとなる本作。空襲で母と家を失った14歳の兄・清太と4歳の妹・節子の過酷な運命が描かれた作品だ。

過去を遡っていく独特な構成

物語は、神戸駅で息も絶え絶えのまま座り込む清太の姿から始まる。近くには、節子の姿はない。通りすがるほとんどの人は浮浪児である清太に目もくれず、冷たい言葉をかけていくが、中にはおにぎりを差し出す人も。しかし、清太にはおにぎりを頬張る力もないようだ。

そのまま息絶えてしまう清太は、サクマ式ドロップスの缶を大切に持っていた。中には小さな骨のかけらが。蛍と共に幽霊になった清太と節子は歩き出す。

この物語は、清太と節子が死ぬことが明らかになった状態から始まる物語なのだ。ハッピーエンドにならないことがわかっているまま見なければならない。清太と節子の過去を遡っていく構成でありつつ、随所に幽霊になった清太の姿も登場する。清太があの頃を客観視しているようなつくりになっていることから、視聴者も太平洋戦争末期の日本と清太と節子に起きた悲劇を客観的に見られる作りになっているのだ。

親戚のおばさんの行動と清太の行動を読み解く

冒頭の空襲により、母と家を失った2人。2人は西宮に住む親戚のおばさんの家に身を寄せる。はじめはうまくいっていたが、次第に諍いが増えるように。最終的に清太と節子は2人だけで住み始める。

親戚のおばさんは、当初は清太と節子に優しく声をかけるが、早い段階から清太と節子には具が入らないように雑炊をよそうシーンがある。また、清太の母の遺品である着物を売り、米に変える提案をしている。清太が仕事をせず、学校にも行かない様子に不快感があるようにも見える。どんなに仲が悪くても、白いご飯を前にしたときの様子は穏やかだった。

しかし、次第に余裕がなくなっていくとおばさんの嫌味が増えていく。清太と節子に冷たくあたるようになり、ご飯を別々にとることを提案する。清太と節子の立場になればひどく見えるが、おばさんにも余裕がないからこその行動だろう。

一方で、おばさんに責められるのであれば、清太も働けばいいじゃないかという意見もあるだろう。しかし、清太自身もまだ14歳。また、母を亡くしたとはいえ、海軍で働いている父は帰ってくるはずという希望もあったのだろう。おばさんに余裕がなかったのと同様に、清太自身も希望を捨てられず見通しがうまく立てられないからこそ、短絡的な選択をしてしまった部分もあるのだろう。

戦時中は、全員で支え合うべきという全体主義が正しいとされていた時代。清太はおばさん以外の大人からの助言を無視し、社会に背を向け、節子と2人で生きようとする。最終的にそれはうまくいかなかった。

この親戚のおばさんの行動と清太の行動は、2025年どのように受け取られるのだろうか。おばさんは子供たちを守るべきだったという意見が出るのか、清太は頭を下げて親戚の家にいさせてもらうべきだったと指摘されるのか。どちらもあり得るだろうが、どうかあの異常だった時代そのものと戦争自体を糾弾し、どちらにも同情する意見が出ることを願いたい。

海外からの絶賛の声

本作は、2025年の7月15日からスタジオジブリ作品としてははじめて日本国内配信がNetflixでスタートした。国内に先駆け、2024年9月16日に世界190以上の国と地域で配信が開始されている。海外でのスタジオジブリ作品の配信が、2020年から順次開始していることを踏まえると、『火垂るの墓』は比較的遅れての配信スタートとなっている。

『火垂るの墓』は海外で高い評価を受けているが、これは『火垂るの墓』が、日本を戦争被害者とした反戦映画のスタンスをとらず、戦争そのものの悲惨さと国の判断に巻き込まれた市井の人々の悲劇を描いているからではないだろうか。小さな兄妹が母と家を失い、親戚のおばさんには余裕がなく、見通しが立たないゆえに誤った判断をしてしまい、最終的には飢えで命を落としてしまう。どの国から見ても違和感がなく共感できるような戦争による被害のリアルが描かれているからこそ、世界中で評価されているのだろう。

戦後80年の終戦の日に放送される意味

2025年8月15日の終戦の日に、戦後80年を迎えた。あと10年、20年すれば、戦争を経験した世代はいなくなってしまうかもしれない。敗戦国、そして世界唯一の戦争被爆国として、あの戦争はなんだったのかについてきちんと目を向けなければいけない時が来ている。

戦争は何を引き起こすのか。人々はどう変わり、どう追い詰められるのか。それらを知るきっかけとして、『火垂るの墓』を鑑賞してはいかがだろうか。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202