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大河・朝ドラ出身の若手女優が演じた圧倒的な“狂気”… 犯人役で魅せた彼女ならではの“名演技”『新幹線大爆破』

  • 2025.6.16
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『新幹線大爆破』Netflixにて独占配信中

高倉健、千葉真一、宇津井健などの豪華キャストが出演した1975年公開の『新幹線大爆破』。2025年に樋口真嗣監督の手によってNetflix制作のリブート版として『新幹線大爆破』が制作された。新幹線に爆弾が仕掛けられるという展開は同じだが、随所に2025年に合わせた変更点が見られる。そしてなにより犯人という大役を担った若手俳優に注目したい。

※本記事では、映画『新幹線大爆破』の犯人に触れている箇所があります。

新幹線を舞台にしたパニックムービー

爆弾が仕掛けられたのは、新青森発東京行き「はやぶさ60号」。新幹線の時速が100km以下になると爆発する仕組みだ。車内には修学旅行に向かう途中の高校生や政治家とその秘書など、多数の乗客が乗っている。また、本作は乗客のパニックだけでなく、新幹線の運行を支える仕事人たちにも焦点を当てている。車掌の高市(草彅剛)や藤井(細田佳央太)、運転士の松本(のん)などの新幹線乗務員をはじめ、新幹線総合指令所で働く笠置雄一(斎藤工)や警察関係者、政府関係者までもを巻き込んで、事件の解決にあたっていく。

物語の前半は新幹線運行のブレーンとなる新幹線総合指令所が頭をひねり、新幹線の速度を調整したり、ぶつかりそうな新幹線を退避させたり、線路を切り替えたりと対策を練っていく様子が描かれている。運転士の松本が手に汗を滲ませながら必死にハンドルを握り、速度を調節する姿や高市や藤井などが乗客を落ち着かせる場面など、犠牲者を出さないために最善を尽くす姿が目立つ。一見無理に聞こえる作戦を遂行していく描写には緊張と緩和がよく表れており、片時も眼が離せない。

物語の中盤からは犯人が明らかになり、事件を起こした動機や1975年公開版との繋がりが明らかになっていく。車両に取り残された乗客たちが、ぶつかりながらも、生きて帰ろうとする姿を通して、パニックが人間性に与える影響を描いている。

犯人役を演じる若手女優の高い演技力

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『新幹線大爆破』Netflixにて独占配信中

2025年版の犯人は、修学旅行の高校生として乗車していた女子高生・小野寺柚月(豊嶋花)だ。柚月の父は、1975年版の事件で犯人を射殺したとして、自身を英雄だと吹聴していた元警察・小野寺勉(森達也)。当時の事件について柚月に真相を含め詳細に伝え聞かせており、妻の死後には精神的肉体的な虐待を柚月に繰り返していた。2025年版の事件は、柚月から父への恨みが動機になっているのだ。1975年版の事件の動機には当時の社会問題が反映されていたのに対し、2025年版では父への恨みが動機になっている。

そして、犯人役の豊嶋花が女子高生の心の中に生まれた闇を的確に表現している。柚月は、救出号に乗らず爆弾が仕掛けられた新幹線に残り、そこから父に真相を告げるために電話をする。声高に父への恨みを叫ぶのではなく、諦めの境地に立った落ち着いた声色で自分が犯人であることを語り、自宅に爆弾をしかけたことを告げる。電話の終了と共に、自宅もろとも父親を葬り去ったあとの不適な笑みも含め、柚月の長年の憎しみの大きさと父の生で狂わされた精神性の歪みを一瞬で感じさせるシーンだ。

その後、柚月は自分を殺せば爆弾も止まると高市に告げ、自分を殺すように仕向け、誰の言葉にも煽るような言葉を返す。しかし、高市に首を絞められ、死を覚悟した時にはじめて死への恐怖を露わにする。顔を歪めて涙を流す表情からは、柚月が自分の人生を諦めたくなかったという本心が見える。言葉には出せない柚月の複雑な真意を、豊嶋は表情だけで表現し切っているのだ。

子役として活躍し、朝ドラや大河ドラマの経験も豊富な豊嶋。近年ではドラマ『ばらかもん』や『なんで私が神説教』などでメインの役柄を担うことも増えてきた。映画『新幹線大爆破』をきっかけにさらに注目を集めるだろう。


『新幹線大爆破』Netflixにて独占配信中
[出演]草彅剛、細田佳央太、のん
[脚本]中川和博 大庭功睦
[監督]樋口真嗣
[配信]Netflixにて独占配信中

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202