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自由を奪われた少女を救え…セバスチャンとシエルが挑む女性解放の物語『黒執事 緑の魔女編』

  • 2025.4.25
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(C) Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler

枢やなの人気マンガ『黒執事』のテレビアニメ待望の新シリーズ『黒執事 -緑の魔女編-』が、この春放送されている。本シリーズのテレビアニメは2008年に放送開始され、劇場版やOVA版も制作されながら、今なお続く人気シリーズだ。

本作の舞台は19世紀末のイギリス・ヴィクトリア朝時代。名門貴族ファントムハイヴ家の当主である少年シエル・ファントムハイヴ(CV坂本真綾)と、彼に仕える完璧な執事セバスチャン・ミカエリス(CV小野大輔)の主従関係を軸に、数々の事件と陰謀が描かれるダーク・ファンタジー作品だ。

セバスチャンの正体は悪魔であり、彼は両親を殺害されたシエルの復讐のために契約を交わして仕えているというユニークな設定と緊張感ある主従関係が魅力。その卓越した能力とブラックユーモア、スタイリッシュな演出が魅力で、ゴシックな世界観とミステリ要素、そして主人公たちの複雑な心理描写が多くのファンを惹きつけている。

今回の新テレビアニメシリーズで描かれる『緑の魔女編』は原作ファンにおいても人気の高いエピソードであり、巧妙に張り巡らされた伏線と意外性ある展開、そして、ファントムハイヴ家の庭師(ガードナー)であるフィニアン(CV梶裕貴)の過去が描かれることでも重要なエピソードと言われる。

人狼の呪いに支配された村

『緑の魔女編』の舞台となるのは、イギリスではなくドイツだ。“女王の番犬”として裏社会の汚れ仕事を請け負うシエルは、その女王の命令で、不可解な死亡事件が続発するドイツの森へと赴く。その森は、「人狼(ヴェアヴォルフ)の森」と現地の人々から呼ばれ、入ったら呪いにかかって異形の姿となって死に至ると信じられていた。

シエルたちがその森で、遭遇したのは女だけが暮らす村「狼の谷(ヴォルフス・シュルト)」だった。よそ者を受け付けようとしない村人に対して、領主の少女ジークリンデ・サリヴァン(CV釘宮理恵)は一晩だけの滞在を許すが、その森でシエルたちもまた「呪い」の洗礼を受けることになる。

村の女たちの服装は何世紀も前のもので、ここだけ時の流れが止まっているかのようだ。この森は、かつて魔女狩りにあった魔女たちが逃げ込み、自らを守るために人狼を放ったとされているが、セバスチャンは彼女たちの姿を見て、むしろ人狼によって外の世界に出られずにいるのではないかと考える。

魔女狩りに纏足:女性の自由を奪うモチーフ

本作で言及される魔女狩りは、ドイツでは16世紀から17世紀にかけて盛んだったと言われているが、18世紀になっても残っていたとも伝えられている。魔女狩りは主として根拠のない憶測から、女性蔑視的な風潮と同調圧力によって起きるものと言われる。魔女狩りは女性に対する抑圧の象徴とも言えるだろう。

本作には、もう一つ女性を抑圧する象徴として「纏足」が描かれる。領主のサリヴァンは小さい靴を履かされ続け、足の成長が阻害されているため自分で歩けず、執事のヴォルフラム(CV小林親弘)に担がれて移動する。しかも、彼女はこの村から一度も出たことがない。まさに囚われている状態なのだ。

このエピソードにこうしたモチーフが登場する理由は、この一人の少女を縛りつけるものから解放し、救い出す物語を展開するためだ。魔女という因習、纏足という中国の風習の裏に何が隠されているのか、シエルやセバスチャンがいかに彼女に自由を与えるのかが、物語の見どころとなっている。

フィニアンの忠誠心の秘密

また、『緑の魔女編』は、庭師のフィニアンにとって重要な過去が語られるエピソードでもある。彼の異様な怪力の秘密、ドイツ語が喋れることや、シエルとの出会いが描かれ、彼のシエルに対する強烈な忠誠心の理由も語られる。今回のキーパーソンとも言える活躍も見せてくれ、フィニアンのファンとしては見逃せない内容だ。

また、3話「その執事、出向」で描かれた通り、シエルが森の呪いを受けてしまい、一命は取り留めるものの、心身が弱くなってしまう。シエルはいつもの自信ある姿と違って、怯える少年となってしまう。この状態のシエルはセバスチャンすら受け入れようとしない。普通に考えれば年相応の姿とも言えるが、そんないつもと違うシエルが見られることでも貴重なエピソードと言える。

また、このことがきっかけで、シエルが自身の運命と再び向き合う様が描かれるシーンがあるが、ここも今後の展開にとって重要な伏線となっている。

そして、クライマックスはあっと驚くどんでん返しが待っている。人狼の森の呪いに驚愕の真相が隠されている。19世紀末という時代性が刻印されている真相であり、来たる20世紀の世界大戦の時代の足音が聞こえるような衝撃の結末だ。

非常に奥深い展開が待ち受けている『黒執事 -緑の魔女編-』。ミステリーとしても面白く、一人の少女の解放を通して女性が不自由だった時代との決別を語る要素もある。アクションシーンも見ごたえ抜群に展開され、ファンならずともうならせる内容だ。


『黒執事 -緑の魔女編-』
ABEMAにて地上波同時・単独先行配信
放送日時:2025年4月5日(土)夜11時30分~
以降、毎週土曜日夜11時30分より放送
[番組URL]https://abema.tv/channels/abema-anime/slots/FBvtZH1GkTLfsV
放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
【(C) Yana Toboso/SQUARE ENIX,Project Black Butler】

杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi