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「あなたは人を殺しましたか?」少女の問いが変えた元米兵の人生 PTSDの苦悩を描く衝撃の実話

  • 2026.11.3
cocreco▲映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』はヴェネチア国際映画祭(第83回)コンペティション部門への正式出品、トロント国際映画祭(第51回)スペシャル・プレゼンテーション部門への正式出品が決定、世界で注目を集めている ©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA

もし今、戦争になったら? 自分や我が子が、戦場に行くことになったら?

「戦争に行くと何が起こるのか」をリアルに教えてくれるのが、9月11日公開の映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』です。

原作は2003年に出版された同名の児童書。著者は、18歳でベトナム戦争に従軍したアフリカ系アメリカ人アレン・ネルソンさんです。本には、実際に戦場を体験した「加害者」としての、葛藤や痛みが赤裸々につづられています。

この作品に大きな衝撃を受け、7年の歳月をかけて映画化を実現したのが、監督・俳優として国内外で高く評価される塚本晋也さんです。

「幼いころ、『はだしのゲン』を読んで戦争の恐ろしさを知った」という塚本監督が、「加虐の恐ろしさ」に正面から向き合い完成させた今作は、「戦争の悲惨さや平和の大切さ」を考える親子にぜひ見てほしい作品です。

ここでは映画とともに、もともとは児童書だった原作にスポットを当ててご紹介します。

ネルソンさんを変えた「運命的な質問」

cocreco映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』より ©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA

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〈ストーリー〉貧困や差別から抜け出すために18歳で入隊したアフリカ系アメリカ人のアレン・ネルソン。ベトナムという苛烈な戦地で学んだのはただひとつ、いかに多くの人を殺せるか。その対価として得たのは、ごくわずかな賃金とPTSD(心的外傷後ストレス障害)だけだった。23歳で家を追い出され、ホームレスとなったアレンをこの世につなぎ止めたのは、退役軍人病院でカウンセリングを行っていたダニエルズ医師の存在だった。

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物語は、ベトナム戦争から帰還した青年アレン・ネルソンが、教師をしている同級生に頼まれ、小学校でベトナム戦争について話すところから始まります。

戦争によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱え、家族との折り合いが悪くなっていた当時のアレンは、家を追い出されホームレスのような生活をしていました。

気乗りしないまま依頼を渋々と引き受けたアレンは、子どもたちに一般論的な戦争体験を語ります。しかし、当たり障りのない話でその場が終わりそうになったとき、ひとりの少女がアレンに質問を投げかけました。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」

少女の純粋な問いに、アレンは思わず言葉を失い、打ちのめされてしまいます。

しかしこの問いが、彼が自らの過去と向き合い、どん底の生活から抜け出すための大きなきっかけにもなったのです。

母にも拒絶され…戦争が変えてしまうもの

アレン・ネルソンは1947年、ニューヨーク州ブルックリンの貧しい家に生まれました。

満足に身繕いもできない貧困、そして、アフリカ系アメリカ人に対する人種差別に耐えかね、18歳で海兵隊に入隊します。

ここなら十分な食事と衣服、国を守る職業としての「敬意」が得られると思ったからです。しかし教え込まれたのは、上官への「絶対服従」と「殺人の方法」でした。

cocreco映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』より ©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA

もとは陽気で家族思いの青年だったアレンも、軍隊の訓練で「殺人兵器」となるよう思考を書き換えられ、 一度戦場という環境に置かれると、「殺人をなんとも思わなくなる」精神状態に変わってしまいます。

アレンが戦地から一時帰国したとき、息子をひと目見た母親が「私の子どもではない」と拒絶するシーンは、戦争によって変わってしまった人間が味わう悲しみや苦しみをリアルに物語っています。

「なぜ、わたしたちを殺すのか?」ベトコン青年の言葉

母親には拒絶されたアレンでしたが、戦地ではアレンが「殺人兵器」の状態から人間の心を取り戻し、「ここから離れよう」と決心するきっかけとなる出来事も起こりました。

戦場の極限状態の中で体験した出来事――ベトコン※の青年が投げかけた言葉、防空壕で目撃した衝撃的な光景が、アレンの価値観を根本から揺さぶることになります。

「アジア人には魂がない。いくら殺しても罪にならない」と教え込まれたアレンが、「そうではない。彼らもまた同じ人間なのだ」と実感させられていくのです。

その後、カウンセラーのダニエルズ医師とともに、自らの過去に向き合っていく道のりは、とても険しいものでしたが、アレンは決して目を背けませんでした。

※南ベトナム解放民族戦線:ベトナム戦争期に南ベトナムで活動した共産主義のゲリラ組織

cocreco▲23年前に児童向けの単行本(ハードカバー)で刊行された『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(左)、現在は文庫本(右)として刊行されている

原作ではアレン自身の過酷な戦場体験が、時系列で丁寧に綴られています。いっぽう映画では、ダニエルズ医師との対話を通して過去を振り返る「回想形式」で描かれていきます。

カウンセリングを通して内面を深掘りしていく映画のドラマ性と、子どもの目線に合わせて事実をまっすぐに伝える原作の読みやすさ。アプローチは異なりますが、どちらも「戦争の恐ろしさを伝える」という切実な思いに満ちています。

自らの罪に向き合い 平和活動を続けたアレン

アレンが患っていたのは、当時はまだあまり知られていなかった「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という症状でした。

戦争の後遺症により、小さな物音など些細なことが強い刺激になったり、ときには家族に向けられる抑えきれない暴力となってアレンを苦しめました。この重い精神の病は、20年以上にわたる治療を経ても完治することはなかったといいます。

cocreco映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』より ©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA

自身の過去と深く向き合うなか、アレンは1995年に沖縄で起きた暴行事件に衝撃を受け、1996年には30年ぶりに沖縄に来日。

その後は日本各地で1200回以上の講演を行い、戦争の現実や悲惨さ、無意味さを伝えてきました。

2005年にはベトナムの地にも降り立ち、告白と謝罪の講演を行ったアレンは、2009年に枯葉剤の影響による多発性骨髄腫のため61歳でこの世を去りました。

タイトルに込めた思いと、ネルソンさんの歌

『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が刊行された当時のことを、23年前にこの本の制作を担当をした編集者に聞きました。

編集者が明かす、タイトルに込めた思い

「この本を最初に企画したのは当時の編集長でした。私は2000年に入社したばかりの新人でしたが、編集担当を任せてもらいました。

編集長といっしょに、アレンさん(ネルソンさん)の講演会を何度か聞きに行ったり、直接インタビューをさせてもらいました。

講演会やインタビューが終わると必ず、ギターを手に歌っていたアレンさんの姿を思い出します。歌を歌うことは、戦争の記憶から現実の世界に戻ってくるための儀式のようなものだったようです。

もともと編集長からもらっていた仮タイトルは『人を殺してはいけない』というものでしたが、私の希望で『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』としました。物語の中に出てくる子どものこの問いかけが、作品のキーワードでもあり、子ども読者にも興味を持ってもらえる言葉だと思ったからです。

刊行から23年もの時間が経ち、いま映画化されるということに、まずびっくりしています。

そして、アレンさんの体験に多くの人が関心をよせてくださるということは、つまり多くの人が世の中に危機感を持っているということでもあるので、複雑な思いもあります。

それでもやはり、この素晴らしい映画と原作を、特に若い方に知っていただきたいです」(講談社 児童図書出版部部長 塩見亮)

「戦争」へ行った先に起こることを伝えたい

cocreco▲映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』監督・塚本晋也さん

この物語を実写映画として完成させたのは、2015年の映画『野火』を皮切りに、『斬、』『ほかげ』と「戦争」を描いてきた塚本晋也さん。監督・俳優として幅広く活動し、ヴェネチア国際映画祭で審査員を務めるなど、その才能は世界で高く評価されています。

塚本監督は、公式インタビューで次のようにコメントしています。

「『野火』を上映した2015年も、平和安全法制(安保法制、2016年施行)が決まっていき、戦争が急激に近づいていると思ったのですが、憲法改正を急ぐ国民投票法改正案が審議されている今、ますます加速しているように感じられます。その流れに乗った先に何が起こるか、ということをイメージできる映画があればと思いました」

「本作では、アレンさんを偉人として描くのではなく、戦場での真実の体験と、 PTSDを抱えた人がどう克服しようとしたかという個人的な映画として描きました。実際には平和活動に力を注ぎましたが、すべて個人の問題として描くことにしました」

「どんなことがあっても戦争はしたくないと思っている方、やるときはやらなければ、と思っている方、すべての人に観ていただきたいと思っています。ご覧いただいた方に『どう感じたか?』を問える映画になっているとうれしいです」

また塚本監督は、大人同様、たくさんの子どもたちにこの作品を見てもらいたいと話します。

「僕らがいま語らなければ、子どもたちが戦争に行くことになりかねないのが現状。なので、僕自身が、『はだしのゲン』を見て強烈なインパクトを受けたように、映画で仮のトラウマを体験してもらい、疑似体験の傷から防御膜を張ってもらえればと思っています」

戦争の恐怖や過酷な加害の現実から目を背けず、「いま知ること」の大切さを教えてくれる今作。ぜひスクリーンで体感してください。

※本作は「PG-12」(12歳未満の年少者が観覧する際、親または保護者の助言・指導が必要)となっています。

取材・文/小川聖子

撮影/水野昭子

映画『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』

9月11日(金)よりkino cinéma 新宿ほか公開

ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?

監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也(『野火』、『斬、』、『ほかげ』)

出演:ロドニー・ヒックス ジェフリー・ラッシュ マーク・マーフィー リリー・フランキー and タチアナ・アリ

原作:『「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」 ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」』(アレン・ネルソン著、講談社文庫刊)

参考文献:『戦場で心が壊れて 元海兵隊員の証言』(アレン・ネルソン著、新日本出版社刊)

2026年|日本|英語|116分|PG12

英題:Mr. Nelson, Did You Kill People?

©Mr. Nelson, Did You Kill People? Film Partners ©Allen Nelson/KODANSHA

製作:木下グループ 制作プロダクション:キノフィルムズ、Cross Media International、J&B Entertainment、Chanh Phuong Films

配給:キノフィルムズ 公式サイト:nelsonsan.jp 公式X:@nelsonsan_movie

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