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「違う。困るのは、俺じゃなくて」と言いかけた俺が、旅先でレンズの前に手をかざし続けた事情

  • 2026.11.2
ハウコレ

窓ぎわで言いかけた言葉の続きを、俺は帰りの電車でも口にしないままでした。

その前日、スマホのレンズがこちらを向くと、考えるより先に手のひらが顔の前へ上がりました。付き合って4か月の彼女と、初めて泊まりで訪れた温泉宿の足湯でのことです。この旅行で、その手を見せたのはもう3回目でした。

お店の隅で撮られた寝顔

大学2年の飲み会で、酔ってお店の隅で眠ってしまったことがあります。その寝顔を友人が撮り、「おい、こいつ寝てるぞ笑」と面白半分でSNSに載せました。投稿は知らない人の間にも回り、顔をからかうコメントがいくつもつきました。

写真の端には、隣に座っていた同じゼミの女の子の横顔も小さく写っていました。「この子は彼女?」というコメントからその子のアカウントが見つけられ、知らない人からメッセージが届くようになったそうです。その子はアカウントを消しましたが、投稿は今も俺の名前で検索すれば出てきます。

それ以来、レンズを向けられると手が先に上がるようになりました。駅前の看板の前でも、ロビーの花の横でも、笑ってごまかしました。足湯で「ちょっとこっち向いて」と言われたときは、笑うだけでは済まない気がしたのです。

「写真だけは、ごめん」

料理だけだと言われても

彼女が旅先の景色や料理をSNSに載せているのは知っていました。夕食の席で料理を撮ろうとする彼女を見て、箸を置いて聞きました。

「それ、どこかに載せたりする?」

「料理だけだよ」

「そっか」

そう返しながら考えていたのは、俺と並んだ写真が彼女のアカウントに載ったときのことでした。あの投稿を覚えている誰かが見つけたら、今度は彼女のところに知らない人からのメッセージが届くかもしれない。友人に彼女を紹介していないのも、同じ理由でした。情けなくて、理由は言えませんでした。

窓ぎわで言えなかった続き

食事のあと、窓ぎわのイスで彼女と向かい合うと、彼女が切り出しました。

「私と写ってるの、誰かに見られたら困るの?」

窓の外を見たまま、どこから話すか決められずにいました。

「それとも、私みたいなのと付き合ってるって、友達に知られたくないとか?」

私みたいなの、という言い方がいちばんこたえました。そう思わせたのは、何も話さずに手をかざし続けた俺です。首を横に振りました。

「違う。困るのは、俺じゃなくて」

君なんだ、と続けるつもりでした。けれど言えば、彼女が楽しみにしているSNSまで怖いものに変えてしまう気がしたのです。膝の上で両手を組み直して、彼女のほうを向きました。

「帰りの電車で、ちゃんと話すから」

そして...

帰りの電車で、スマホに自分の名前を打ち込み、出てきた投稿を彼女に向けました。

「これ、俺なんだ」

「大学のとき、友達に撮られた写真を勝手に載せられて、知らない人にまで回ったんだ」

「だから、手を?」

うなずくことはできても、写真に写っていたもう1人のことと、彼女を同じ目にあわせたくなかったことは、最後まで言わないままでした。

家に帰ってから、あの投稿を載せた友人に、消してほしいと短いメッセージを送りました。何年も連絡を取っていない相手でした。既読はつきましたが、その日のうちに返事が来ることはありませんでした。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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