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【ルームツアー】ナポリの記憶と現代アートが息づく、赤で彩られた邸宅

  • 2026.10.30
Andrea Ferrari

イタリア、ナポリのスペイン地区に建てられた、17世紀末の邸宅の再生プロジェクト。現代アートを取り入れ、赤やモノクロームを効かせながら歴史的な意匠を丹念に修復し、街に育まれた記憶を未来へとつなぐ無二の住まいへと昇華した。『エル・デコ』2026年10月号より。

Andrea Ferrari

古典的な19世紀の趣に現代アートを重ねたフロア

イタリア、ナポリの中心部に広がるスペイン地区。16世紀、スペイン支配下で兵士の駐屯地として形成されたこの一帯には、人々の暮らしの気配が色濃く漂う。その路地を抜けた先に立つ、17世紀末のパラッツォ。かつての開放的な回廊は窓で囲われたベランダへ、連続する広間は住戸に、貴族の館は集合住宅へと姿を変え、幾層もの歴史を刻んできた。

<写真>キッチンに隣接するサロンの中央には、19世紀様式のテーブルと、新古典主義の石こうの馬像をレイアウトした。壁にはロサンゼルスを拠点に活動するアーティスト、ヴァネッサ・ビークロフトの1997年の作品《VB26.011. ALI》が掛けられている。

Andrea Ferrari

19世紀の暮らしを知る木の記憶が語り掛ける

その一室を改修したのは、建築家アルベルト・シーフォラとヴィンチェンツォ・スポザート。アパートメントに足を踏み入れると、街路側の閉じた印象から一転し、パラッツォ・チェッランマーレの緑豊かな庭園とキアイア地区の眺望が開ける。スペイン地区とキアイア地区の境界に位置するこの家には、異なる風景や時代が交差するナポリらしさが凝縮されている。

<写真>床、ボワズリー(壁面パネル装飾)、格子状の装飾天井など、19世紀半ばのオリジナルの状態が尊重されたサロンの一角。ソファは「エドラ」の“タトリン”。壁にはナポリ生まれの写真家、ミンモ・ヨーディチェによる写真作品《アルバ・フーケンス》が掛けられている。

Andrea Ferrari

黒で彩られた空間に時代を超えた創作が集う

シーフォラは振り返る。「私は子どもの頃から、ここをたびたび訪れていました。かつての女主人がこの家に注いでいた心遣いと愛情、ディテールや小物、アート作品に対する優雅なまでのこだわりをよく覚えています。年月を経て、彼女の息子から改修を依頼されたとき、緊張感と同時に、大きな喜びも感じました」

設計スタッフのミケーレ・ナッシャは続ける。「ここはふたつの世界の境界に存在する特別な場所。スペイン地区側の小さな入り口からは、キアイア地区を望む景色が広がっているとは全く想像もつきません」

<写真>大理石で制作された新古典主義様式の胸像がゲストを迎える、黒い壁が印象的なエントランス。壁の写真作品はマーティン・パーの《ラグジュアリー》シリーズ。コンソールの上の照明は、マリオ・ボッタが「アルテミデ」のためにデザインした“ショーグン”。

Andrea Ferrari

連続性を強調した空間で赤とモノクロ作品が対話する

設計の核となったのは、ナポリの貴族の館に特有の空間構成だ。玄関から連続するサロンを抜け、主寝室へと至る部屋の連なりを意識的に再現し、そのリズムを強調した。エントランスからの視線は複数の部屋を貫き、船の帆を思わせる赤い日よけと家具を配したテラスへと導かれる。この象徴的な赤は、ドアや窓を縁取る大理石製のフレームにも反復され、室内外に鮮やかな連続性をもたらしている。

<写真>サロンからエントランスを望む。位置関係がよくわかる。赤いフロアランプは、アキッレ&ピエル・ジャコモ・カスティリオーニが「フロス」のためにデザインした“ルミナトール”。正面のモノクロの写真作品は、サルヴィーノ・カンポスの《男性の肖像》。

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キッチンのディテールが邸宅の軌跡を受け継ぐ

修復は、建物の来歴を綿密に読み解きながら進められた。格子状の天井、ボワズリーと木の象嵌床、主寝室のヴォールト(曲面状の天井)を彩る装飾など、既存の素材と意匠を丁寧に再生。エントランスの大理石の床材は、解体時に番号が振られ、元の位置に戻された。

<写真>アーチ形のニッチが際立つキッチン。バスタブを収めていた部材を再利用した。白い花器は1775年からナポリで活動していた窯、マニファットゥーラ・ジュスティニアーニによるもの。同窯はカポディモンテ王立磁器製作所の磁器を範としていた。

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赤い帆の向こうに広がるプライベートガーデン

シーフォラとスポザートは話す。「このプロジェクトでは、目まぐるしく変化してきたナポリの住まいの歴史に、私たちなりの新しい物語を加えられたと思っています。この街は、異なる時代や要素を自然に重ねることの大切さを教えてくれました」

<写真>かつてはパラッツォ・チェッランマーレの菜園だった、プライベートガーデンを望むテラス。船の帆を思わせる赤い日よけは、インテリアの着想源ともなっている。テーブルは「フェルモブ」、テラコッタ鉢は、陶磁器工房のデル・ヴェッキオによるもの。

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時を超えた装飾が囲む神秘的なベッドルーム

古い邸宅の魂を守りながら、色彩とアート、今の暮らしを結び合わせたこの家には、ナポリという都市そのものの記憶が息づいている。

<写真>1840年に装飾された、曲面状の天井が印象的なベッドルーム。正面にはポール・トレルによる1998年の写真作品《ヴォルト》が掛けられている。ベッドサイドの照明は、バーバー&オズガビーが「フロス」のためにデザインした“ベルホップ グラス T”。

Realization: RANCESCA BENEDETTO Photo: ANDREA FERRARI Original Text: ELEONORA GRIGOLETTO

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『エル・デコ』2026年10月号

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