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受験なし! 偏差値なし! 「日本と全然違う」 デンマークで高校生が自ら勉強する「当然」の理由とは?

  • 2026.10.30
cocrecoデンマークには、高校受験も大学受験もありません。 写真:years/イメージマート

小学校・中学校にあたる年代まで、日常の学校生活でテストが行われることはなく、宿題もないデンマーク。高校・大学受験もないため、他人と比較される機会はほぼありません。

競争やランキングがない社会で、子どもたちは何を基準に進学先を選んでいるのでしょうか。

デンマーク在住25年、現地で息子さんを育てたニールセン北村朋子(きたむらともこ)さんに、受験に代わる驚きの「卒業試験」、高校・大学の選び方などについて聞きました。

答えの正誤じゃない! プロセスが評価される「卒業試験」

日本の小学校~中学校が一体となったデンマークの義務教育「フォルケスコーレ」では、基本的にテストはありません。しかし、9年生(中学3年生)になると「卒業試験」が実施されます。

この卒業試験の内容が、日本でイメージする「テスト」や「試験」とは大きく異なるのだとニールセン北村さんはいいます。

卒業試験は、5つの必須テストと直前に受ける教科が抽選で決まる選抜テストがあり、試験科目は全6科目で構成されています。科目によって筆記テストか口頭テスト、またはその両方があります。

cocreco図:『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』よりコクリコ編集部が作成

日本ではあまり馴染みのない「口頭テスト」とは、どんなものなのでしょうか。

「口頭テストでは、与えられたテーマについて、面接官の前で自分の考えをプレゼンテーションします。導いた結論以上に、『考えたプロセス』が評価されます。どんな筋道を立てて結果を導いたかが注目されるんです」(ニールセン北村さん)

テーマは教科ごとに異なりますが、全体として「社会問題」が設定される傾向にあります。ニールセン北村さんの息子さんが受けた数学の口頭テストは、以下のような驚きの内容でした。

【数学の口頭テストのテーマ】

今社会で課題となっているリサイクルとエネルギーの問題について、あなたの意見を述べてください。

日本の数学の試験から見ると、同じ教科とは思えない問題ですが、想定される回答は次のような内容です(あくまで一例)。

【回答例】

デンマークのリサイクル率は●●%で、1%向上させるためには、リサイクル量を××トン増やす必要があります。しかし、リサイクルよりも廃棄物そのものを減らしたほうがCO2排出量を削減できるため、廃棄物の減量が優先課題だと考えます。

リサイクル1%に相当する廃棄物量を一人当たりに換算すると◆キログラムになり、これは毎日の食品ロスを●グラム減らすことで実現できます。

※その後、食品ロスを減らすために有効な社会の取り組みなどを話す。

「卒業試験では、これまで学んだ内容を総合的・論理的に用いて考えているかが問われます。だから数学でも、計算結果の正誤より、計算式や理論の実践的な活用が求められるんです。

自分の考えを述べたあとに試験官と対話する時間もあり、コミュニケーションをしながら意見交換するイメージです」(ニールセン北村さん)

正解が1つではない試験では、公平な採点ができるのか……といった疑問が湧きます。しかし、試験官は外部から派遣されるなど、中立性が担保される仕組みが導入されています。

ちなみに、ニールセン北村さん自身も卒業試験の外部試験官を務めた経験があり、学生の熱意に感動したそう。

デンマークの義務教育は、普段の授業から卒業試験まで一貫して、「学習した知識や技術を使いこなし、自分の考えを表明できる」ことを目指しています。

評価はありますが「合否」を決めるものではなく、点数が発表されて順位を競うこともないため、自らの学びに集中できるのです。

ギャップイヤーって何? 義務教育後は選択肢がたくさん

義務教育後の進学先としては、高校と職業技能教育校の大きく2つがあります。高校は専門分野が異なる4種類で、その後は大学などの高等教育に進みます。職業技能教育校も専門ごとに分かれ、卒業後はプロとして即戦力で働くことができます。

cocreco図:『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』よりコクリコ編集部が作成

高校、大学が仕事と直結しにくい日本とは異なり、デンマークは義務教育以降の選択がその後の進学先や職業に大きく影響します。

それだけに、ここでの進路選択は重要になりますが、先述のように受験はなく、進学の判断にはフォルケスコーレの最終学年と卒業試験の成績が用いられます。

どの学校も、卒業試験の評価基準(-3から12までの7段階)で平均5以上なら問題なく入学でき、評価が足りなくても、校長との面談などを経て進学できる手立てもあります。

「成績不足や迷いなどで進学先が決められない場合には、『フォルケスコーレ10年生』として、再度、もう1年間必修科目を復習することができます。

さらに、義務教育を卒業してもすぐに進学せず、全寮制の私立スクール『エフタスコーレ』で数ヵ月~1年ほど過ごす選択肢もあります。つまり、ギャップイヤー(猶予期間)です。

エフタスコーレでは、特定のテーマ(スポーツ、アート、自然など)を学ぶことができます。好きなことに向き合ってリフレッシュしたり、じっくり考えたり。そういう時間を持つことで、後悔なく次のステップに進めるのです」(ニールセン北村さん)

デンマークでは、「ギャップイヤー」の取得が社会的に広く認められています。このため、義務教育終了後(高校入学前)だけではなく、高校を卒業したあと、大学などに進学する前にもギャップイヤーを取得する人が大半です。なんと、学生の9割近くが高校卒業後に1年以上のギャップイヤーを選択しています。

実際、ニールセン北村さんの息子さんも、義務教育卒業後にエフタスコーレで1年間のギャップイヤーを過ごしました。さらに、高校を卒業したあともすぐに大学には進学せず、現在4年目のギャップイヤー中です。

ギャップイヤーの間は、アルバイトで資金を貯めて長期の旅行に出かけたり、フォルケホイスコーレ(17.5歳以上なら誰もが入学できる全寮制の教育機関)で普段の生活圏や人間関係と離れて自分や社会と向き合ったり、「誰からも評価されずに自分の軸で過ごす」時間として、「今」しかできないことに思う存分、取り組んでいます。

このように、「将来についてゆっくり考える時間」を自ら選択できることは、学生の前向きな進路選択を支えています。加えて、国がそうした選択を支援する制度やツールをしっかり整備している面も、日本とは異なるといいます。

学びが仕事につながる「教育ガイド」

デンマークのフォルケスコーレ(義務教育)には、専属のキャリアアドバイザーが配置されています。7年生(日本の中学1年生)になると定期的に対話する時間があり、自分の興味について深めたり、アドバイザーから提案を受けたりします。

さらに大きな役割を果たしているのが、「教育ガイド」というWEBサイトの存在です。学びの機会をワンストップで知ることができる、「子ども教育省」(日本の文部科学省にあたる機関)が提供しているサイトです。

自分の興味に合った進学情報はもちろん、その先に考えられる仕事の種類、給与、スキルアップの方法など、「学びと仕事のすべて」が網羅されています。

「たとえば、薬学を専攻したら実際にどこで仕事をするのか。すぐに思いつくのは病院や薬局ですが、このサイトで調べると、一見薬学とは関係なさそうな企業でも働ける選択肢があることがわかります。

実際に活躍している人のインタビューもあるので、よりリアルに将来がイメージできます。

考古学など、仕事に結びつきにくい分野もカバーされ、学びが将来の可能性を広げると実感できるため、学生のモチベーションにもつながっています」(ニールセン北村さん)

進学への資金的な支援が手厚いことも、デンマークの特徴です。高校以降の授業料はすべて無料。18歳で成人を迎えると扶養義務が親から国に移り、高校や大学在学者には毎月10~16万円程度の給付型奨学金が支給されます。

一人ひとりが自分に合った学びを選び取れるよう、制度がしっかり支えているのです。

大学受験がないのに高校生が勉強する理由

デンマークの高等教育は、大学など大きく分けて次の5つに分類されます。それぞれの専門分野を実践的に学ぶことができ、職業に直結しています。

cocreco図:『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』よりコクリコ編集部が作成

デンマークでは、大学受験もありません。各大学が設定する高校の成績や卒業試験の条件を満たせば、入学できます(入学定員はその年の社会環境によって変わる)。

「大学受験のため」に勉強している日本の高校生に対し、デンマークの高校生は何がモチベーションになるのでしょうか。

「大前提として、『学びたいこと』があるから高校に進学するわけです。高校は義務教育ではないから、別に行かなくてもいい。デンマークでは親が進路に口出しすることもほぼありません。自分で考えて、自分の意志で選択していますから、勉強するのは『当たり前』です。

デンマークの高校は真剣に勉強しないと卒業自体が難しいので、在学中はみんな必死です。それでもやり遂げることができるのは、自分で選んで手にした学ぶ機会だからなのでしょう」(ニールセン北村さん)

大学選びも同様で、自分にとって深めたい学びや仕事にしたい専門分野があるから、進学を希望します。研究や専門の違いに優劣はないと考えているため、「大学ランキング」や「偏差値」は存在しないのです。

他人と比べず自分の興味とじっくり向き合い、時には立ち止まって進路を考える。自分で決めたことだから頑張れる。競争・比較しない教育制度が、子どもたちの積極的な学びや成長を支えていることがわかります。

第3回は、家庭での子どもへの接し方、デンマークの人が等身大で幸せに生きられる理由などをうかがいます。

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【ニールセン 北村 朋子 プロフィール】

文化翻訳家。2001年よりデンマークのロラン島在住。教育や持続可能な社会、民主主義などについて、さまざまな発信と連携、実践的な取り組みを行う。デンマーク・インターナショナル・メディア・プレスセンター代表メンバー。京都芸術大学通信教育部「食文化デザインコース」講師。デンマーク発祥デモクラシーフィットネス公式トレーナー。息子がひとりいる。

cocreco『経済力も幸福度も高くなる デンマークのすごい教育』(青春出版社)には、記事中に紹介できなかった「森の幼稚園」や民主主義教育などの情報が満載。

取材・文 川崎ちづる

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