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熱々の飲み物好きは、ぬるめ派の約3倍も食道がんの一種になりやすい

  • 2026.10.27
熱々の飲み物好きは、ぬるめ派の約3倍も食道がんの一種になりやすい
熱々の飲み物好きは、ぬるめ派の約3倍も食道がんの一種になりやすい / 湯気を上げてお湯を沸かしているやかんです。 Credit: 作者不明 / Rawpixel(CC0)

給湯室で淹れたばかりの、湯気の立つコーヒーをマグカップに注ぐと、ようやく仕事モードに切り替わるという人もいるでしょう。

紅茶やコーヒーは、多くの人にとって1日に何度も手に取る身近な飲み物です。

そして飲み物と体の話題になると、私たちはつい「カップに何が入っているか」に目を向けがちです。

ところが、ある種のがんについては、気をつけるべき点が中身とは別の所にあるのかもしれません。

イギリスでは、2つの大規模な追跡調査で、合わせて100万人近い大人が10年以上にわたって追いかけられてきました。

その分析から、食道にできるがんのリスクと結びついた、飲み物の「ある条件」が見えてきました。

その条件とは、いったい何だったのでしょうか?

研究の詳細は、2026年9月8日付で学術誌『International Journal of Cancer』に掲載されました。

熱いお茶と食道がん、残っていた疑問

熱い飲み物と食道がんの関係は、アジアやアフリカ、南米、中東の研究で一貫して示されてきました。

70℃ほどのとても熱いお茶やマテ茶を飲むと、食道がんのリスクが高まるというものです。

温度だけでなく、口をやけどすることが多い、飲むのが速い、冷めるまで待つ時間が短いといったことも、リスクの高さと結びついていたと報告されています。

ただし、欧米の人がふだん飲んでいるくらいの温度でも同じことが言えるのかは、証拠が限られていました。

そこで研究チームが目を向けたのが、熱い飲み物が広く飲まれているイギリスです。

使ったのは、イギリスで続けられている2つの大規模な追跡調査のデータでした。

1つは女性だけが参加する「ミリオン・ウィメン・スタディ」で約51万人、もう1つは男性も参加する「UKバイオバンク」で約47万人です。

合わせると97万7282人で、100万人にあと少しで届く人数です。

参加者は、紅茶やコーヒーといった熱い飲み物を1日に何杯飲むかを答えました。

湯気の立つマグカップを両手で持っている、白黒の写真です。
湯気の立つマグカップを両手で持っている、白黒の写真です。 / Credit: Agnieszka Bladzik / Stocksnap(CC0)

あわせて、飲むときの好みの温度を「ぬるめ」「熱め」「とても熱い」から選んでいます。

つまり温度計で測った温度ではなく、本人が答えた「好み」の温度です。

研究チームはその後、参加者を平均で11〜14年ほど追いかけ、食道がんになった人を調べました。

この間に食道がんと診断された人は、合わせて2348人にのぼります。

食道がんには、大きく分けて2つの種類があります。

1つは、食道の上の3分の2ほどにできやすい「扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん」です。

もう1つは「腺(せん)がん」です。

このうち扁平上皮がんは1045人、腺がんは1303人でした。

【これまでの研究】

オックスフォード大学の研究チームは以前に、ミリオン・ウィメン・スタディの約126万人の女性を平均17.7年追いかけ、体格と食道がんの2つの種類との関係を調べました。

その結果、BMI(体重と身長から出す肥満の目安)が35以上の人は、22.5以上25未満の人に比べて腺がんのリスクが約2.5倍だった一方、扁平上皮がんのリスクは7割近く低くなっていました。

同じ食道がんでも、2つの種類では、なりやすさを左右するものが大きく違うのです。 (関連研究)

研究チームは2種類のがんを分け、温度の影響と杯数の影響を互いに差し引いて比べられるように分析しました。

リスクを大きく分けた、飲み物の「ある条件」

結果を見ると、扁平上皮がんのリスクを大きく分けていたのは、飲み物の「温度」でした。

杯数の影響を差し引いて比べても、その差ははっきりしていました。

「とても熱い」のが好きな人は、「ぬるめ」が好きな人に比べて、扁平上皮がんのリスクが3.17倍だったのです。

飲み物の好みの温度で、扁平上皮がんのなりやすさがどう違うかを比べた図です。好みが熱くなるほど棒が階段のように高くなり、とても熱い派はぬるめ派のおよそ3倍でした。
飲み物の好みの温度で、扁平上皮がんのなりやすさがどう違うかを比べた図です。好みが熱くなるほど棒が階段のように高くなり、とても熱い派はぬるめ派のおよそ3倍でした。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図、論文の図1(Papier et al., International Journal of Cancer (2026)、CC BY 4.0)をもとに作成)

ぬるめ派と比べて、およそ3倍なりやすい傾向があったということです。

「熱め」が好きな人でも、ぬるめ派よりリスクが69%高くなっていました。

好みの温度が1段上がるごとに、リスクが階段をのぼるように高まっていたのです。

この傾向は、2つの調査のどちらでも、ほぼ同じ大きさで現れていました。

さらに、参加者を12の特徴ごとに分けて調べても、温度との関係に違いは見られませんでした。

この結びつきは、たばこを吸ったことがない人や、お酒をあまり飲まない人でも見られました。喫煙や飲酒のせいでは説明しにくい結果だと、研究チームはみています。

ところが、同じ食道がんでも、腺がんでは様子がまったく違いました。

とても熱いのが好きな人でも、腺がんでは、好みの温度とリスクとの関係を示す証拠は見られなかったのです。

この違いは、2つのがんができる場所を考えると見えてきます。

扁平上皮がんができやすい食道の上の方は、熱い液体の影響を最も受けやすいと考えられる場所です。

食道で2種類のがんができやすい場所を示した図で、形や長さは正確ではありません。温度と結びついていたのは上の方にできやすいがんだけで、研究チームは、熱による傷という説明を支えるように見えると述べています。
食道で2種類のがんができやすい場所を示した図で、形や長さは正確ではありません。温度と結びついていたのは上の方にできやすいがんだけで、研究チームは、熱による傷という説明を支えるように見えると述べています。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

リスクが高まる理由として研究チームが最も有力とみているのは、熱によるやけどのような傷です。

熱で食道の内側の粘膜が傷み、がんにつながる変化が進みやすくなる可能性があるといいます。

これを支える動物の実験もあります。

70℃のとても熱いお湯は、がんの手前の変化や、食道の組織が死んでしまう壊死(えし)を促していました。

それより低い温度の飲み物では、こうした変化は促されなかったと報告されています。

温度との関係が、食道の上の方にできやすい扁平上皮がんに限られていたことは、熱による傷という説明を支えるように見えると研究チームは述べています。

紅茶でもコーヒーでも、ミルクを入れても目立った差は見られなかった

では、飲み物の中身による違いはなかったのでしょうか?

調べたところ、紅茶でもコーヒーでも、温度と扁平上皮がんの関係は変わりませんでした。

研究チームはこのことから、カギを握るのは飲み物の成分ではなく温度だと考えています。

もう1つ確かめられたのが、ミルクの影響です。

ミルクを入れるかどうかは、飲む温度と結びついていそうな要素です。

もしミルクそのものがリスクに関わっていれば、温度の影響と見分けがつかなくなってしまいます。

そこで女性の調査の約46万人について、ミルクを入れる人と入れない人を比べました。

紅茶にミルクを入れる人は73%、コーヒーに入れる人は64%と大多数でした。

それでも、温度によるリスクの高まり方に、ミルクの有無で目立った違いは見られませんでした。

一方で、温度とは別にリスクと結びついていたのが、1日に飲む杯数です。

温度の影響を差し引いても、1日6杯以上飲む人は、それより少ない人に比べて扁平上皮がんのリスクが71%高かったのです。

1日に6杯以上飲む人のなりやすさを、がんの種類ごとに比べた図です。温度とは別に、扁平上皮がんでは6杯以上飲む人のリスクがそれより少ない人より71%高く、腺がんでは高まりが小さめでした。
1日に6杯以上飲む人のなりやすさを、がんの種類ごとに比べた図です。温度とは別に、扁平上皮がんでは6杯以上飲む人のリスクがそれより少ない人より71%高く、腺がんでは高まりが小さめでした。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

しかも、参加者の4割強が1日6杯以上を飲んでいました。

朝食、午前の休憩、昼食後、午後の休憩、夕食後、寝る前と、ひと息つくたびに1杯ずつ飲めば届く数です。

なお、腺がんでは杯数による高まりは19%にとどまり、研究チームも関係は小さいとしています。

では、飲み方を変えると、どれくらいのがんを防げるのでしょうか?

研究チームは、温度とがんの関係が因果関係だと仮定して見積もりました。

「とても熱い」で飲む人が「熱め」に変えるだけで、イギリスの扁平上皮がんの14%、年に約440人を防げる計算です。

好みの温度を変えた場合に防げると見積もられたがんの割合を、マス目で表した図です。色の付いた14マスが防げる分ですが、実際に試して確かめた数ではない点に注意が必要です。
好みの温度を変えた場合に防げると見積もられたがんの割合を、マス目で表した図です。色の付いた14マスが防げる分ですが、実際に試して確かめた数ではない点に注意が必要です。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

とても熱いのが好きな人は参加者のおよそ15%で、7人に1人ほどにあたります。

温度が上がるほどリスクが高まる傾向がはっきりしていたため、研究チームはさらなる可能性にも触れています。

この集団の平均よりかなり低い温度まで冷ませば、もっと多くのがんを防げるかもしれないというのです。

国際がん研究機関(IARC)は、65℃を超える「とても熱い飲み物」を、おそらく人にがんを起こす(グループ2A)と分類しています。一方、欧米で紅茶やコーヒーがふつう飲まれる温度は60℃ほどとされ、論文は、65℃より低い温度でもリスクの高まりが見られる可能性があるとしています。

記事に出てくる飲み物の温度の目安を、1本の物差しに並べた図です。欧米でふだん飲む60℃ほどは国際機関の境目の65℃より低く、それでもリスクが高まるかもしれない点が注目どころです。
記事に出てくる飲み物の温度の目安を、1本の物差しに並べた図です。欧米でふだん飲む60℃ほどは国際機関の境目の65℃より低く、それでもリスクが高まるかもしれない点が注目どころです。 / Credit: ナゾロジー編集部(編集部が作成した図)

ただし、今回の温度は本人が答えた好みで、実際に飲んだ温度を測ったわけではありません。

また、追跡調査で分かるのは結びつきで、14%という数字も因果関係を仮定したうえでの見積もりです。

対象もイギリスの中年の大人で、ほかの国や年代に同じことが当てはまるかは、今回の結果だけでは分かりません。

それでも研究チームは、今回の結果をはっきりした証拠だとしています。

飲み物の温度と杯数は、食道の扁平上皮がんを防ぐうえで役に立つ目標になるというのです。

食道にとって大事なのは、紅茶かコーヒーかやミルクの有無より、飲むときの温度なのかもしれません。

淹れたての1杯とは、少しだけにらめっこしてから仲良くするのがよさそうです。

ここからは、食道癌をもっと知りたい人へ

食道がんとは、のどと胃をつなぐ管にできるがんです

消化器のうち、食道と胃と小腸を描いた線画です。
消化器のうち、食道と胃と小腸を描いた線画です。 / Credit: Unknown Illustrator / Wikimedia Commons(Public domain)

食道がんは、のどと胃の間にある長さ25cmほどの管、食道にできるがんです。

このがんは、茶がゆのように熱いものを食べる地方に多くみられるとされています。

日本では9割以上が扁平上皮がんで、腺がんは3%ほどにとどまります。

これに対して欧米では腺がんが増えていて、扁平上皮がんを上回るほどになりつつあります。

その腺がんは、胃の中身が食道へ逆流する病気で食道の下の方に炎症が続き、そこに生じる「バレット上皮」という組織から生まれることが知られています。

また、たばこを吸う人は吸わない人より、食道がんで亡くなるリスクがおよそ3倍とされ、お酒も飲むとさらに高まると報告されています。

染まり方にも違いがあり、正常な食道の粘膜はヨードと反応して茶色に染まりますが、がんの細胞は染まらずに白いままです。

2011年には、日本で11970人が食道がんで亡くなり、がんで亡くなった人全体の3.4%を占めました。

【よくある疑問】

Q. 食道がんは食道のどこにできやすいの?
A. 食道がんは、食道の内側をおおう粘膜の表面からできます。食道のどこにでもできる可能性がありますが、約半数は食道の中央あたりにできます。

Q. 食道がんは何歳ごろの人に多いの?男女で違いはある?
A. 食道がんになる年齢は30〜80歳代と幅広く、最も多いのは60歳代です。男性は女性の4〜5倍多く発生します。

Q. 食道がんは早いうちから症状が出るの?
A. 初期には自覚症状がないことがほとんどです。進むにつれて、飲んだり食べたりする時の胸の違和感、飲食物がつかえる感じ、体重の減少、胸や背中の痛み、咳などが出てきます。

Q. お酒や食べ物は食道がんと関係があるの?
A. アルコールは濃いものほど食道を刺激し、がんができる割合を高めるとされています。一方で、緑黄色野菜や果物は、食道がんを防ぐ方向にはたらく因子とされています。

写真で見る熱い飲み物

カップの飲み物に口をつける女性です。研究の参加者のうち、とても熱いのが好きな人はおよそ7人に1人でした。
撮った人が「今朝はいつもより湯気が立っていた」と書き添えた、1杯の紅茶です。研究チームは、カギを握るのは飲み物の成分ではなく温度だとみています。
湯気の立つ紅茶の入った、ガラスのカップです。研究の舞台になったイギリスは、熱い飲み物が広く飲まれている国です。
湯気の立つ紙コップです。紅茶でもコーヒーでも、温度と扁平上皮がんの関係は変わりませんでした。

この研究の概要 発表 学術誌「International Journal of Cancer」に、2026年9月8日に掲載されました。 研究チーム Keren Papier氏、Kezia Gaitskell氏、Sarah Floud氏、Gillian K. Reeves氏の4人の研究チームです。 調べた対象 イギリスの2つの大規模な追跡調査に参加した、合わせて97万7282人の大人です。 調べ方 参加者が答えた熱い飲み物の好みの温度と1日の杯数をもとに、平均14.2年と11.1年追いかけて、食道がんの2つの種類ごとにリスクを比べました。 分かったこと 「とても熱い」が好きな人は「ぬるめ」が好きな人より扁平上皮がんのリスクが3.17倍でしたが、腺がんでは関係が見られませんでした。1日6杯以上飲むことも、温度とは別に、扁平上皮がんのリスクが71%高いことと結びついていました。 まだ分かっていないこと 温度は本人が答えた好みで、実際に飲んだ温度は測っていないため、「とても熱い」や「熱め」が何℃ほどにあたるのかは、これから確かめる必要があります。

参考文献

Hot Drinks and Oesophageal Cancer: Prospective Analyses in Around 1 Million UK Adults (International Journal of Cancer)
https://doi.org/10.1002/ijc.70654

コトバンク「食道癌」
https://kotobank.jp/word/%E9%A3%9F%E9%81%93%E7%99%8C-80173

国立がん研究センター がん情報サービス「食道がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/esophagus/index.html

元論文

Hot Drinks and Oesophageal Cancer: Prospective Analyses in Around 1 Million UK Adults
https://doi.org/10.1002/ijc.70654

ライター

山下 浩介: むずかしい研究を、なるべく分かりやすく伝えたい。専門の言葉はふだんの言葉に置きかえて、身近な例で例える。それで「わかった」「楽しかった」と言ってもらえたら嬉しいです。 好きなのは、通学路や台所や日常の中にある科学。眠っているあいだに記憶が整理される話や、虫の鳴き方に意味がある話のように、読み終わったあとに誰かへ話したくなる研究を探しています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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