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彼女の服を否定し続けた俺が、母の前で答えに詰まった本当の理由

  • 2026.10.29
ハウコレ

母の前で、俺は短く答えることしかできませんでした。彼女に伝えられずにいたのは、服のセンスとは関係のない、ごく単純なことです。

改札を抜けて歩いてくる彼女は、今日もゆったりとした紺のブラウスを着ていました。大きめの形が彼女の体つきに合っていないのは、ひと目で分かります。言うべきことは分かっていたのに、口から出たのはいつもの短い言葉でした。

母の店で身についた目

「その服、似合わない」

そう言って、俺は先に歩き出しました。後ろから、彼女がついてくる足音が聞こえます。

俺の母は、この街の商店街で小さな洋服屋をやっています。子どもの頃から、客に服を選ぶ母の横で育ちました。人にはそれぞれ生まれつきの骨格があって、それに合う形を選べば誰でも見違える。母がよく客に話していたことは、いつの間にか俺の目にも染みついていました。

彼女が選ぶ服は、どれも体の線が出にくいゆったりした形でした。けれど彼女の骨格には、体の線に少しだけ沿うすっきりした形のほうが合う。そのほうがずっと魅力的に見えると、ずっと思っていました。紺やグレーを選ぶ感覚は彼女らしくて、好きでした。

ただ、骨格の話をすれば、体のことをあれこれ言っているように聞こえる気がしたのです。それを避けたくて選んだのが、似合わないという一言でした。そのほうが傷つけずに済むと、本気で思っていました。

いつもと同じ色のブラウス

何度目かのあとで、母に相談したことがあります。

「服の形が合ってないって、どう伝えたらいい」

「そのまま言えばいいのよ。言い方を覚えなさい」

母は商品をたたみながら、あきれたように笑いました。

それでも言えないまま、駅ビルの服屋の前で彼女に聞かれました。

「じゃあ、どれなら似合うの」

強い口調でした。店に入り、彼女がいつも選ぶのと同じ紺色で、体の線に少しだけ沿う形のブラウスを探します。何着か見比べてから、1枚を渡しました。

試着室のカーテンが開くと、いつもより表情まで明るく見えました。やっぱり似合う。そう思ったのに、うなずいて口にできたのは「うん」だけです。袋を受け取る彼女の横で、俺はまた理由を説明しないまま店を出ました。

「ちゃんと言えたの?」

次のデートで、彼女はあのブラウスを着てきました。行き先を決めずに歩いていたら、いつの間にか母の店がある通りに入っていました。

扉が開き、じょうろを持った母が出てきます。母は彼女の姿を見るなり足を止め、上から下まで眺めました。

「形がよく合ってるわね。よく似合ってる」

それから、俺のほうを向きました。

「あんた、ちゃんと言えたの?」

何のことかは、すぐに分かりました。

「……まだ」

足元を見たまま答えると、母は首を横に振り、彼女に会釈して店へ戻っていきました。

帰り道、隣の彼女に何を話せばいいのか分からず、黙って歩きました。母に褒められても、彼女はうまく笑えていなかった。似合わないという言葉は、服ではなく彼女自身に向けたものとして届いていたのかもしれない。傷つけないために選んだ一言が一番の遠回りだったと、そこで初めて気づきました。

そして...

数日後、彼女に会って、前に着ていた服の話をしました。

「前の服が悪いんじゃなくて、形が体つきに合ってなかっただけなんだ」

彼女はしばらく自分の袖口に目を落としていました。

「それ、最初から言ってほしかった」

「ごめん」

今度、母の店で一緒に選んでみないかと誘うと、彼女は「考えとく」とだけ答えました。前の服をまた着てくれるのかどうか、その日は聞けませんでした。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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