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「五分遅れる」と送って一時間来ない彼に、私が返した「じゃあ」

  • 2026.10.25
ハウコレ

言いたいことを並べては消して、最後に送ったのは短い一言だけでした。その続きを決めきれないまま、バス停で時刻表を見上げていたとき、手の中で通知が鳴りました。

美術館の入口脇のベンチで、発券したばかりの入場券を2枚、指先で揃えていました。そこへ届いたのが、彼からの「五分遅れる」というメッセージ。券に印字された入場時間までは、まだ十分な余裕がありました。その券を使わないまま持ち帰ることになるとは、思っていませんでした。

「もう着く」が並ぶ画面

彼とは付き合って2年になります。待ち合わせに彼が遅れてくるのはいつものことで、チャットをさかのぼると「もう着く」「あと少し」が何度も並んでいました。それでも実際に待つのは、せいぜい10分ほど。だから今回の「五分遅れる」も、そのまま信じて待つことにしました。

入場時間を過ぎても、彼は現れませんでした。受付に並ぶ人の列が3回入れ替わるのを見送ってから、「まだかかりそう?」と送りました。

しばらくして既読がつきました。けれど、返事はありませんでした。今頃、改札を出たところで打っているのだろうか。そう思って画面を開いたまま待ちましたが、トーク画面は同じところで止まっていました。

送信ボタンの手前で

「五分遅れる」が届いてから、1時間がたっていました。

「もう帰るね」「いつもこうだよね」「待ってる側のこと考えたことある?」。言いたいことを並べては、送信ボタンの手前で全部消しました。自分がどうしたいのか、決めきれなかったからです。

帰ると書けば、本当に帰るしかなくなる。待ってると書けば、また同じことが繰り返される。どちらも選べないまま、残ったのは「じゃあ」だけでした。続きを書かなかったのは、その先を彼に決めてほしかったからでした。

入場券をバッグにしまい、美術館の前のバス停まで歩きました。時刻表を見上げていると、手の中でスマホが鳴りました。

バス停で届いた返信

「じゃあの続きは会って聞かせて。いま走ってる」

近づいてきたバスのドアが開いたとき、一歩下がって乗るのをやめました。走り去るバスを見送ってから、入口脇のベンチまで引き返しました。

しばらくすると、坂の下から走ってくる彼の姿が見えたのです。髪は汗で額に張りつき、シャツは胸のあたりまで色が変わっていました。私の前で膝に手をついた彼が口にしたのは、「ごめん」だけでした。

1時間の理由を聞きたい気持ちはありました。けれど息を切らしたままの彼を見て、今は聞かずにおこうと決めました。

そして...

入場時間はとっくに過ぎていて、窓口で次の回の券を買い直しました。財布を出したのは彼のほう。

展示を見終えて駅へ向かう途中、あのメッセージの続きを口にしました。

「じゃあ、次は遅れる理由もちゃんと送って」

彼は少し間をあけて、「うん」とうなずきました。

最初に発券した2枚の券は、手帳に挟んで持ち帰りました。改札で手を振って別れるまで、どうしても聞けなかったことがあります。既読がついてからの長い時間、彼は何を考えていたのでしょうか。

(20代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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