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挨拶の日、「子どもっぽい」と彼女が嫌がった服を頼んだ俺→母に見せたかったもの

  • 2026.10.25
ハウコレ

玄関で母がこぼした小さな声の意味を、隣にいた俺だけは分かっていました。それでも居間で言葉の少ない2人の間に、俺は最後まで入っていけなかったのです。

電話の向こうで、母がしばらく黙り込みました。彼女を連れて実家へ挨拶に行く日取りを伝えた直後のことです。続いた母の言葉を聞いて、俺は彼女にある服を頼もうと決めました。

人見知りの母が気に入っていた1枚

「ちゃんとした格好の人が来たら、お母さん何も話せないかも」

母は昔から人見知りで、初対面の相手とは天気の話も続きません。思い出したのは、正月に帰省した時のことでした。俺のスマホで旅行の写真を見せると、母は屋台の前でからし色のワンピースを着て笑う彼女の1枚を拡大し、「この子、いい顔で笑うのね」とつぶやきました。帰るまでに、3回もその写真を見せてと頼んできたほどです。

あの写真の姿で来てもらえば、母も知っている人に会う気持ちでいられるかもしれない。そう考えました。

理由を言えないまま頼んだ服

彼女の部屋のソファで、カレンダーに印をつけながら切り出しました。

「親に会う日、あの服着てきて」

「あれ、子どもっぽいでしょ。紺のセットアップにしようと思ってたんだけど」

「あれがいいんだ。頼む」

理由を聞かれても、カレンダーから目を上げずに首を振りました。母が写真を気に入っていると言えば、彼女は母の期待まで背負って玄関に立つことになる。あの写真を勝手に見せたと知れば、嫌がるかもしれない。言わない理由ばかり並べて、彼女があのワンピースを好きではないことには触れずにいました。

写真と見比べていると思っていた視線

当日、玄関のドアを開けた母は、彼女の服を見て小さく声を上げました。

「あら、黄色」

そのあと俺のほうをちらりと見た母は、あの写真の子だと気づいた顔に見えました。

居間では父が話を回し、母はお茶と羊羹を出したあと、湯のみを両手で包んで座っていました。母の視線が何度も彼女の袖のあたりへ向かうのを、写真と見比べているのだろうと思いながら、父との仕事の話を続けていました。

ふと隣に目をやると、彼女は膝の上で重ねた手の下で、ワンピースの布をつまんでは離していました。母の視線が彼女にどう映っているのか、そこで初めて考えました。

「母さん、この服覚えてるんだよ」と言いかけて、やめました。それを言えば、旅行の写真を母に見せていたことまで、この場で説明することになります。父の話を聞きながら切り出すタイミングを探しているうちに、お茶が冷めていきました。

そして...

帰り際、靴を履く彼女の前に、母が一歩出ました。

「その服、また着てきてね」

さっきより少しだけ大きな声でした。人見知りの母にしては、精一杯の言葉だったはずです。彼女は「はい」と頭を下げましたが、その顔が晴れていたのかどうか、俺には読み取れませんでした。

駅で別れたあと、電車の中で写真フォルダを開きました。屋台の前で笑う彼女と、居間で布をつまんでいた彼女の手が、うまく結びつきません。次に実家へ行く前に、この写真を見せて母のことを話すつもりです。頼む前にそうするべきだったことは、分かっています。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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