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「60歳は新しいスタートライン」広瀬裕子さん61歳、大学と茶道で見つけた学び続ける理由

  • 2026.10.20

「60歳は新しいスタートライン」広瀬裕子さん61歳、大学と茶道で見つけた学び続ける理由

今春から大学に通い始めたことで話題のエッセイスト・広瀬裕子さん(61歳)。50歳以上の人を対象とした早稲田大学の1年間の履修プログラム「早稲田大学LRC」に週3日、ジェロントロジー(老年学)などの講義を受けに通っています。広瀬さんには実は大学とは別にもうひとつ大切にしている学びの場があります。広瀬さんにとって、いくつになっても学び続けることの意味について聞きました。

Profile

広瀬裕子さん

ひろせ・ゆうこ●1965年東京都生まれ。エッセイスト、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、瀬戸内での暮らしを経て、2023年より再び東京へ。瀬戸内時代の1/3の広さの都心の賃貸マンションに愛猫「あめ」と暮らす。『60歳からあたらしい私』(扶桑社)、『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)ほか、著書多数。最新刊は『50代からのグレイヘア』(PHP研究所)。

茶道も学び続けたいもののひとつ

以前から、60歳を「人生の一つの区切り」として強く意識していた広瀬さん。

「50歳も一つの節目でしたが、それは60歳へ向けての出発の歳という認識。60歳は新たにスタートラインを引く、特別な年齢と考えていました。50歳からモノを減らしたのも、60歳で身軽になっていたかったからです」

60歳を機に、楽しそうだと思うことに素直にチャレンジしてみることにした。61歳で大学に通い始めたのもそのひとつ。そしてもうひとつ、60歳を目前に始めたこと、それが茶道の稽古だ。

「茶道は若い頃にやっていたのですが、東京から葉山に住まいを移した40歳のときに一度、お稽古から離れました。その後もずっと再開したいと思っていましたが、なかなか思い描く先生に出会えなくて……」

先生なら誰でもいいわけではなかった。お茶は先生ありき、と考える広瀬さん。師事したい先生に出会う機会に恵まれなかったが……。

「3年前に東京に戻ってきたタイミングで出会いがありました」

広瀬さんにとっての「いい先生」とは?

「たたずまいが美しい人ですね。その先生のお点前や発する言葉を見て、『こういう感じになれたらいいな』と思えるような。自分にとって年齢関係なく尊敬できる、先生はそういう存在だと思っています」

ただ単にお茶の作法を教えてもらうのではなく、人としての在り方が目標になるような人物。

「できれば、男性の先生がよかったんです。お茶の世界はもともと男の方たちの世界なので、男の先生に教えていただきたいと思っていました。お家元は東京にいらっしゃいます」

日常もお稽古のように過ごしたい

お茶とそれにまつわることがとにかく好き、という広瀬さん。

「お茶の時間が好きです。毎日の暮らしの中でお茶を点てる時間はちょっとした句読点。自分を楽しませる……というか、自分にとって必要な時間という感じ。まず、お菓子ありきで、早い時間に上生菓子を買いに行き、お茶の時間までそれを楽しみに過ごします。生菓子に関しては、その日の朝に買ったものがいいと考えているので、買いに行く時間はがんばって作ります。自分のために用意するとか、自分のために何かをするのが好きなんです」

家でのお茶の時間だけでなく、お茶の稽古の雰囲気やお茶会も大好きだという。今回、稽古を再開して強く感じたことがあった。

「お稽古の空間で感じる贅沢を日常に落とし込めたら、と思うようになりました」

お茶の稽古のような日常生活、とは?

「お稽古の時間だけが稽古ではなくて、日常のすべてをお稽古のような心持ちで過ごせたらと思うようになったんです。生活をきちんとすることで、お稽古もきちんとできるようになります。お茶というのは、そういうものだととらえています」

「お稽古はお稽古」「暮らしは暮らし」と区別するのではなく、一体化することが理想だという。

「お茶室での時間と日々の暮らしに、境界線を作らないということです。道具をていねいに扱う、手順を踏んでお茶を点てる、場を整え準備することなどは、日常の暮らしにも重なることです。一見、窮屈そうなお点前の決まりごとや順番も実は合理的で、『なるほど』と感心することも多いのです」

稽古のように過ごす日常は疲れないのか? ソファで横になってくつろぐ時間などはないのだろうか?

「そもそもソファは必要ないと思い、3人掛けの大きなソファを数年前に手放しました。リラックスの仕方もいろいろあると思うのですが、私の場合はあくまでも『次に行くための小休止』。向かう先に行く前の、ちょっとした休憩です。だから、すごく緩んでしまうと立て直すのが大変。その大変さをわかっているので、ほどほどに緩むようにしています」

リラックス時間は、約25年前に購入したスワンチェアに身を預ける。

「お稽古の緊張感をもって日常を暮らす」ことは広瀬さんにとって、さほど苦痛ではないという。その緊張感がむしろ心地いい、ということなのだろう。

60歳からの自分の生き方を考えたとき、その方向性と一致したのが茶道。広瀬さんにとって、茶道は単なる趣味や教養ではなく、生き方の姿勢そのものでもあるのだ。

見えるモノより、見えない大事なことがある

稽古を始める前は「早く理想のお点前をできるようになりたい」と思っていたが、実際に始めてみると、以前習ったことで忘れていることも多く、長時間お稽古をしていると疲れるようになっていた。

「30代の頃とは明らかに違う自分を感じました。そこで考えを改め、当面は無理せず、『盆点前をできるようにする』ことを目標にしました」

盆点前とは、テーブルとイスで気軽に愉しめるお点前のこと。盆点前でおいしくお茶を点てられるようになったら、自宅に友人を招いて、お菓子とお茶を振る舞いたいと考えている。

「20年前は『畳の和室もないし、道具も揃っていないから』と、完璧でないことを理由に、人を招くことは考えられませんでしたが、今は『お茶を介していい時間がすごせれば』と考えるようになりました。大事なのは形ではなくて、その場を誰とどのように過ごすかでもあります」

すべて完璧でないと、と思っていた若い頃に比べて、大きく変化した自分を感じた広瀬さん。いい意味で肩の力が抜け、完璧でないことも許容できるようになっていた。

実は、今春から思いがけず大学に通うことになったため、お茶の稽古は1年間お休みしているという。

「両立するのは体力的に難しそうだと思ったので、学校に通う1年間はお稽古を休むことにしました」

大学の1年間の学費は約50~60万円。お茶席用に色無地の着物がほしいと思っていたところだったが、ちょうど学費と同じくらいだった。

「着物はちょっとおいといて、今年は学費に充てようと思いました」

早稲田大学LRCのことは、たまたま流れてきたインスタグラムの広告で知ったという。講義内容に興味を惹かれた広瀬さんは受験し、見事合格。「おもしろそうだから」と通い始めた。

若いときと違って、あれもこれも、と一度に欲張れない体力になっている。そんな中で、自分にとって今、何が必要かを考え、臨機応変に選択していく。そんな柔軟性が大切なのだと、広瀬さんを見ていると感じる。そこに一貫しているのは、常に新しいことを吸収して前に進もうとする「学び」への意欲だ。

撮影/佐山裕子(主婦の友社) 取材・文/依田邦代

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