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「こんなに前で見られるんですね」と卒業式で喜ぶ保護者たち。新任教師の私が直後に気づいた見落とし

  • 2026.10.4
「こんなに前で見られるんですね」と卒業式で喜ぶ保護者たち。新任教師の私が直後に気づいた見落とし

初めて任された、保護者の案内係

今から40年ほど前、私が新任の教師だったころの話です。

その年の卒業式で、私は控え室で待っている保護者を体育館まで案内する係を任されました。20代だった私にとって、初めての大役です。

式の朝に渡された座席表には、卒業生と保護者、それぞれの席が書かれていました。

ところが私は一度確認しただけで胸ポケットにしまい、「前の3列」という数字だけを頭に残してしまったのです。

控え室へ向かう廊下で、50代くらいの女性の先輩教師が声をかけてきました。

「緊張してない?案内、大丈夫そう?」

「はい。ゆうべ何度も練習したので、大丈夫です」

そう答えた私は、自分ではすっかり準備ができているつもりでした。

控え室の扉を開けると、晴れ着やスーツ姿の保護者たちが一斉にこちらを見ました。私は先頭に立ち、体育館へ続く廊下を歩き始めます。

後ろから続く足音を聞きながら、「よし、ちゃんとできている」と、むしろ少し誇らしい気持ちになっていました。

入場曲まで、あと3分

体育館には、パイプいすが何列も並んでいました。私は迷うことなく前方を示しました。

「保護者の皆さま、前の3列のお席へどうぞ」

保護者たちは私の案内に従い、前の列から順番に腰を下ろしていきました。

「こんなに前で見られるんですね」

「ありがとうございます」

そんな声までかけられ、私はますます安心していました。

最後の一人が座ったのを確認し、壁ぎわの教員席へ戻ろうとした、そのときです。

体育館の入口にいた先輩教師が、こちらへ小さく手招きしていました。近づくと、先輩は周囲に聞こえないよう声を落としました。

「ちょっと…保護者席は、4列目からですよ」

「えっ?」

思わず前方を振り返りました。

そこは、本来なら卒業生が座るはずの席でした。何も知らない保護者たちは、にこやかに式の開始を待っています。

時計を見ると、入場曲が流れるまであと3分でした。

血の気が引きました。

私はすぐに前列へ向かい、後ろの空いている席を示しながら頭を下げました。

「すみません、私の案内が間違っていました。こちらの席へ移っていただけますか」

「あら、そうだったのね」

保護者たちは驚きながらも、笑って席を移ってくれました。

全員が座り直したところで、ちょうど入場曲が流れ始めました。

私は壁ぎわに戻り、胸をなで下ろしました。朝から何度も頭の中で案内を練習していたのに、肝心の座席表をきちんと確認していなかったのです。

翌年から、その学校の卒業式では保護者を控え室から案内する係がなくなりました。

受付を済ませた保護者が、そのまま自分で会場へ入る形に変更されたのです。

職員会議でその手順が決まったあと、あの先輩教師が私の肩を軽くたたきました。

「これで案内係、ひとり減らせるわね」

先輩は笑っていましたが、私はあの日の冷や汗を思い出して、ただ苦笑いするしかありませんでした。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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