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「平日の朝は時間がぎりぎりなんです」毎朝続く隣人の長話。僕が初めて伝えたお願い

  • 2026.10.1
「平日の朝は時間がぎりぎりなんです」毎朝続く隣人の長話。僕が初めて伝えたお願い

門の前で始まる朝の立ち話

定年を過ぎてからも、僕は会社勤めを続けている。毎朝ほぼ同じ時刻に家を出て、駅まで早足で歩くのが日課だ。

そんな僕が少し困っていたのが、お隣の奥さんとの朝の立ち話だった。60代くらいの親切な人で、以前には煮物をおすそ分けしてくれたこともある。ただ、朝に顔を合わせると、あいさつだけでは終わらない。

「おはようございます。ねえ、ちょっと聞いてくれる?」

ごみの出し方や向かいの家の植木、回覧板の順番。話題は次々と変わっていく。僕は腕時計を気にしながら相づちを打ち、話の切れ目を探していた。

ある朝は、どうしても遅れられない会議があった。門を出たところで奥さんに声をかけられたため、僕はすぐに頭を下げた。

「すみません。今日は急いでいるので、そろそろ行きますね」

ところが奥さんは、

「そう、でもちょっとまって、どうしても聞いてほしいことがあって、昨日の町内会なんだけどね」

と話を続けた。

会費の使い道から夏祭りの当番まで話は広がり、気づけば10分ほどたっていた。僕は慌てて駅まで走り、会社の席に着いたのは始業直前だった。

その晩、僕は妻にこぼした。

「朝から10分も町内会の話だよ。会社に遅れるかと思った」

それから数日は、奥さんと顔を合わせないよう、玄関のドアまで静かに閉めるようになった。自分の家を出るだけなのに、毎朝気を使っているのも何だかおかしい。

日曜の庭で伝えたお願い

次の日曜の昼、庭で草むしりをしていると、生け垣の向こうから奥さんが顔を出した。

平日の朝と違い、今日は急ぐ必要がない。僕は軍手を外して立ち上がった。

「奥さん、ひとつお願いしてもいいですか」

「あら、なあに?」

「平日の朝は、会社に行く時間がぎりぎりなんです。お話するなら、こういう休みの日にゆっくり聞かせてもらえると助かります」

奥さんは一瞬きょとんとしたあと、少し申し訳なさそうに笑った。

「……あら、私、朝から引き止めてたのね。ごめんなさい。全然気づかなかったわ」

縁側にいた妻も、そのやり取りを静かに見ていた。

次の朝、玄関を出ると、奥さんは門の前でほうきを持っていた。僕に気づいたものの、いつものように話を始めることはなく、片手を上げた。

「いってらっしゃい」

僕も「いってきます」と会釈した。

ちょうど新聞を取りに出てきたお隣のご主人は、その様子を見て「うちのが引き止めてたみたいで、すまなかったね」と苦笑いした。

その日は駅まで走る必要もなく、いつもの電車に余裕を持って乗れた。

それからは、平日の朝は短いあいさつだけ。日曜に顔を合わせたときは、奥さんとゆっくり町内会の話をすることもある。

言いづらくて避けるより、一度きちんと伝えたほうが、お互いずっと気楽だったのだと今では思っている。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた60代以上男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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