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公園の木とともに育っていく。福岡・博多駅前の風変わりなパンビストロ

  • 2026.9.28

この夏、建築家・藤本壮介監修のもと、福岡・博多駅前に誕生した「明治公園」。その一角で注目を集めるのが、建築家・佐々木慧(ささき・けい)と、人気ベーカリー〈pain stock〉平山哲生がタッグを組んだ〈Land Bageri〉だ。9月4日には夜営業も始まり、いよいよ本格始動。その店づくりに迫る。

photo: Keishi Asayama / text: Mato Goto

〈Land Bageri〉の外観
BRUTUS

曲線の向こうに広がる、団らんの風景

2026年8月、福岡・博多駅前の「明治公園」にオープンしたベーカリー&パンビストロ〈Land Bageri〉。そのモチーフは、人が身を寄せ合い、火を囲んだ暮らしの原点を思わせる「洞窟」。

「コンセプトと、平山哲生さんの『中が見えすぎないデザインがいい』という意見を軸に、公園との繋がりも意識しました」と佐々木慧さん。歩道側から店を眺めると、曲線の向こうににぎやかな食事の風景がのぞく。店内には、買い物をせずとも通り抜けられる動線も設けた。あくまで公園の一部として、街に開かれた場所であるためだ。実際、取材中にも通りすがりの人が足を止め、中をのぞく姿が何度も見られた。

インテリアにも二人のこだわりが詰まっている。「店のインテリアもしっかりやる」と最後まで譲らなかった平山さんが選んだ、リナ・ボ・バルディをはじめとする名作家具。佐々木さんが、この店のためにデザインしたカウンターチェアや照明。細部まで目を凝らしたくなる店内では、昼はベーカリー、夜はパンビストロとして焼きたてのパンを楽しめる。

全国的にもまだ珍しいパンビストロという業態。「ビストロがやるベーカリーはおいしくないし、ベーカリーがやるビストロはちょっと……みたいなこともあるけれど、ここは大丈夫」と平山さん。17時から始まる夜営業では、ワインを片手にパンと料理を味わえる空間に様変わりする。パン、料理、建築、家具。それぞれのプロが持ち味を活かし、一つの店をつくり上げた。

〈Land Bageri〉の店内
昼営業のパンのディスプレイ台が、夜営業ではカウンターテーブルになる。
カウンターチェアを並べる様子
カウンターチェアが一番美しく見える、ポジションづくりの真っ只中の二人。
曲線の壁の、収納すぺーすになる裏側部分
外からも目を引く、店内の“ぼこっと”した曲線。その裏側には収納が。この形が生まれた理由はあとの対談で。
〈Land Bageri〉のパン
見た目も素材もプリミティブ。素朴でいて、余韻の強い味わいのパンの数々。
ビストロの食事
ビストロの時間(17:00〜23:00)には、小麦の香りに寄り添う料理が揃う。
鹿皮紙のペンダントライト
平山さんが自宅用にも入手したという鹿皮紙のペンダントライト。「暗がりで見たら月みたいなんです」

「空気がきれいなパン屋にしたい」。土壁と、曲線のデザインに隠されたものとは?

対談中の平山哲生さんと佐々木慧さん
取材は夜営業前の開店準備中に行った。2席セットで間隔を空け置かれるカウンターチェアを見て、「全部、等間隔で並べたい」とこだわる平山さん(写真左)に佐々木さんが微笑む。

profile

平山哲生

ひらやま・てつお/〈pain stock〉オーナーシェフ。冷凍してもおいしい高加水パンや独自の製法で知られる日本のパン業界の第一人者。


profile

佐々木 慧

ささき・けい/〈axonometric〉代表。藤本壮介建築設計事務所勤務後、独立。家具から都市まで、スケールを横断する包括的な空間設計を手がける。


平山

なぜ、「このような(内装の)店舗に」とはよく聞かれるけど、みんなで雑談していたら生まれた感じですよね。

佐々木

僕は、平山さんから空気や土の話を聞いてから、コンセプトが具体的になりました。

平山

お店の空気をきれいにしたいという目標があって。土壁には空気を綺麗にしてくれる作用があるので、取り入れたかった。働いている人にもお客さんにも匂いがついてほしくないし、ベタベタした壁を見るのも嫌だろうし。店をしていてずっと気になっていたことだから、今回解決できてうれしい。

佐々木

〈pain stock〉との違いが出てきますね。

平山

パン屋は店に入った瞬間、匂いで製法や材料が大体わかるんですよ。マーガリンを使っているとか、着色料や保存料も使うのかとか。自然なバターや小麦のいい香りがしないと、買いたいと思えない。

佐々木

お〜、すごい。

平山

だから、いざ土左官の天井をつくるとなったときはテンション上がったよね。

佐々木

左官職人のレジェンドたちが現場初日に集まって、一番盛り上がりました。

平山

大分・日田で昭和30年くらいから左官業を営んでいる仙人のね、親方(〈原田左研〉の原田進さん)。パリコレクションでは土の爪をつくったとか。土壁にはわらが必要で、そのために米をつくって、みんなで食べていると。あれでイメージしてたコンセプトの全体が繋がった気がする。あの一日でこういうふうにしようって。ぼこっとした部分に、土がついたときも気分上がったなあ。

佐々木

内装は本当に探り探りだったので、ぼこっとした案を出した時に怒られるかなと心配でした。そうしたら「だいぶいいね」と。

カウンター席から見るキッチン。曲線によって、スタッフの顔がちょうど隠れる高さに。

平山

キッチン上部に収納が欲しいとはお願いしたけど、まさかこの案がくるとは。料理中は、ものを上から取れる方が動線がいいんだよね。

佐々木

あと、カウンターに座った人の視界をやや減らすと居心地が良くなるかなと思って、ぼこっとさせました。パン職人さんの意見とお客さんのことを両方考えてるうちに、こういう形に。

平山

お客さんとスタッフの目が合わないのがいいね。はじめはCGだといいけど、実際にできたら違うものになるんじゃないって思ってた(笑)。お客さんからはわからないけど、柱が入ってたり、鉄骨の格子フレームで三次曲面が入ってたりして、しっかりと建築物ですよね。

佐々木

位置が高すぎると使いにくい、土壁が割れるなど問題はたくさんあった。平山さんのやりたいことがバンバン出すぎて困りました(笑)。カウンターの高さや奥行きも、最後まで数ミリ単位で検証しましたよね。

平山

パンがおいしそうに見えるオープンディスプレイも大事だけど、通り抜けられる動線も確保したい。その両立は苦労したね。

あとカウンターの照明もよく考えましたよね。

カウンターの曲線に沿って、切れ目なく続くライン照明。LEDは一体型で、交換のしやすさにも配慮。

佐々木

この長い照明、出来上がって「こういうことか」ってわかったんですよね。平山さんがずっと「パンをとにかく明るくしなきゃダメ」って言われていて。

平山

舞台と一緒なので。パンは明るくできたら、あとは真っ暗でもいい。この店はパンを大量に焼くから、陳列も長い。そこを全部ちゃんと照らしたくて。カウンターチェアも一見簡単そうに見えるけど、かなり頑張ってくれましたよね。

テーブルと一体化したカウンターチェア。格子状の構造物のようにも見える。

平山

椅子を構造物と一体化させて、柱っぽくしたかった。テーブルに椅子を入れ込んでると思われたくなかった。ドナルド・ジャッドっぽくしてって言って、すぐ通じたんでうれしかったです。

佐々木

平山さんの思いにみんながコミットして、エキサイティングな状態のまま進んだと思います。僕は奥に向かってせり上がるカウンターテーブルが、運用的に大丈夫か最後まで気になっていました。オープンしてみて、問題なく使えていてほっとしましたね。

平山

僕はオープンしてみて、思ったより人が来なかったなと思いました。なんか「これが新店舗だな」と思っていいなって。今は、テナントビルに出来上がったお店ばかりを持ってくるようなところもあるので、そうじゃなくするのは大事かなと思う。ここでは、(〈pain stock〉で人気の)明太フランスなしでもいけるぞと証明したいです。

佐々木

建築家としても、日本の各地が“リトル東京”になっていることに危機感を持っています。だからいい意味でここみたいに、他ではできないユニークな場所が増えたらいいですね。明治公園も、前にはないようなものになっていますし、エリアごと盛り上がっていきたいです。

平山

公園の木と一緒に育っていけたらいいですね。公園の植物、いま細いじゃないですか。あれをしょぼいなんて言う人もいるんです。でも、その余白がいい。まだもの足りなくても、10年後どんな強いものになっているか考えるだけでも面白いですよね。

佐々木

本当にたくさんの職人が集まって、予想外の展開がよく起きた現場だったけど、こういうのが多発すると街は楽しくなるんでしょうね。僕らの店を見て、ここまでやっていいんだと、挑戦が増えたらいいなと思います。


Information

Land Bageri

住所:福岡県福岡市博多区博多駅前 3-24-3 明治公園1F
TEL:092-402-9995
営:8時〜16時(ベーカリー)/17時〜23時(22時フードLO、22時30分ドリンクLO)
休:月曜、火曜 ※10月以降は月曜のみ
HP:https://www.land-bageri.com/
Instagram:@land_bageri

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