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法律は私たちの「善悪の感じ方」そのものを変化させる

  • 2026.8.26
法律が「善悪の判断」に影響を及ぼす / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

私たちは普通、「悪いことだから法律で禁止されている」と考えます。

しかし、その関係は逆方向にも働いているのかもしれません。

ある行為について「法律で禁止されている」と知らされるだけで、私たちは同じ行為をより道徳的に悪いものとして感じる可能性があるのです。

独立研究者のMane Kara-Yakoubian氏らは、同じ行為でも違法だと知らされることで道徳的な評価が変化することを実験で示しました。

その成果は2026年7月13日付で科学誌『Journal of Experimental Social Psychology』にオンライン掲載されました。

目次

  • 「悪いから違法」だけではない? 法律が道徳判断に与える影響
  • 法律は善悪を判断する「手がかり」となる

「悪いから違法」だけではない? 法律が道徳判断に与える影響

法律は、社会の価値観を反映して作られるものだと考えるのが一般的です。

多くの人が危険だ、許されないと考える行為ほど禁止されやすく、実際に世論や道徳観が法律や司法判断に影響することも知られています。

しかし研究チームが注目したのは、その逆方向の影響でした。

つまり、「悪いと考えられているから違法になる」だけでなく、「違法だと知らされることで、より悪いと感じる」こともあるのではないかと考えたのです。

そこで研究チームは4つの実験を行い、除外基準を適用した後の合計1053人を分析しました。

参加者には架空の国を舞台に、大麻を吸う、国旗を燃やす、鹿を狩る、公園で赤ちゃんに授乳する、人種差別的な言葉を使う、買い物用カートを路上に放置するといった10種類の行動が提示されました。

そして、それぞれの行為について「この国では違法です」または「違法ではありません」という情報を加えました。

参加者は、その行為がどのくらい道徳的に悪いと思うかを7段階で評価し、さらに行為をした人物の道徳性についても評価しました。

すると4つの実験を通して、「違法」とされた行為はより悪く評価され、それを行った人物まで道徳性の低い人だと判断される傾向が確認されました。

実験1では、行為の「道徳的な悪さ」は、違法ではない場合の平均3.80に対し、違法の場合は4.76まで上昇しています。

つまり、行為の内容を変えなくても、その法的な位置づけだけで評価が動いたのです。

では、この結果は単に「わざと法律を破る人は悪い」と考えられたためなのでしょうか。

より詳しい実験を見ると、それだけでは説明できないことが分かります。

法律は善悪を判断する「手がかり」となる

実験2では、法律を破った意図の有無を調べました。

参加者には「違法ではない場合」「意図的に法律を破った場合」「意図せず法律を破った場合」が提示されました。

最も厳しく評価されたのは意図的に違反した場合でしたが、本人が意図せず違反した場合でも、違法ではない場合より道徳的に悪いと判断されました。

行為の悪さは、違法ではない場合が平均3.65、意図せず違反した場合が4.31、意図的に違反した場合が4.80でした。

つまり、単に「ルールを破ろうとした態度」が嫌われただけではなく、違法という情報自体が評価に影響していたと考えられます。

さらに実験3では、法律を作った政府が、国民の意思を反映する民主的な政府なのか、それとも国民が法律制定に関われない全体主義の政府なのかを変えました。

それでも、どちらの場合も違法とされた行為の方がより悪く、行為者もより道徳性の低い人物だと評価されました。

実験4では、「現地住民の多数がその行為を社会的に受け入れているか」という情報も加えています。

その結果、社会的に受け入れられていない行為ほど悪く評価されましたが、実験全体では違法性による影響も確認されました。

ただし、法律と社会規範の一致・不一致に注目した分析では、「違法で、住民からも否定されている」といったように両者が同じ方向を向く場合に法律の影響が強まりました。

一方、「違法だが住民には受け入れられている」など両者が食い違う場合には、違法かどうかによる差は有意ではありませんでした。

研究者らは、法律が善悪を素早く判断するための「手がかり」として使われている可能性を考えています。

判断に迷う行為でも、「法律で禁止されているなら、何か問題があるのだろう」と考えれば、複雑な検討をせずに評価できるからです。

実際、4つの実験のうち3つでは、「権威を尊重することは道徳的に重要だ」と考える人ほど、違法かどうかによる評価の差が大きくなる傾向も確認されました。

ただし、今回の実験はすべてカナダの参加者を対象としており、実験1から3では大学生が中心でした。

そのため、日本など異なる文化や法制度を持つ社会でも同じ傾向が見られるかは、今後の検証が必要です。

それでも今回の研究は、法律が人の行動を外側から縛るだけでなく、「これは善いのか、悪いのか」を判断するときの材料として、私たちの道徳評価そのものに入り込んでいる可能性を示しています。

参考文献

Breaking the law makes people seem less moral, even when the act is unchanged
https://www.psypost.org/breaking-the-law-makes-people-seem-less-moral-even-when-the-act-is-unchanged/

元論文

Between law and conscience: Act legality shapes moral evaluation
https://doi.org/10.1016/j.jesp.2026.104984

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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