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人生の壁にぶつかったとき、自尊心はどうやって回復するのか?

  • 2026.8.25
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

生きていれば誰しも、人生の壁にぶつかるときがあります。

恋人との別れ、重要な試験での失敗、突然の失業、親しい友人との絶交、大切な人との死別などです。

こうした出来事に直面すると、「自分はダメな人間なのではないか」と自尊心まで傷ついてしまうことがあります。

では、そこから人の心はどのように回復していくのでしょうか。

スイス・チューリッヒ大学(University of Zurich)は、最近ネガティブな人生の出来事を経験した1069人を約6カ月間追跡し、その後の自尊心がどのように変化するのかを調査。

その結果、大多数の人では自尊心が時間とともに上向く一方、一部では非常に低い状態が続くことが分かりました。

どうして、このような違いが起こるのでしょうか?

研究の詳細は2025年10月3日付で学術誌『European Journal of Personality』に掲載されています。

目次

  • 人生の「壁」は自分自身の価値まで揺さぶる
  • 約89%では半年の間に自尊心が上向いた
  • 「何が起きたか」以上に自尊心と関係していたもの

人生の「壁」は自分自身の価値まで揺さぶる

今回の研究が注目したのは、単なる気分の落ち込みではなく「自尊心」です。

自尊心とは簡単にいえば、「自分には価値がある」と自分自身を評価する感覚です。

たとえば試験に落ちても、「今回は失敗した」と考えるだけなら、自分自身への評価までは大きく変わらないかもしれません。

しかし「失敗したのは自分に能力がないからだ」と考えれば、出来事は自分の価値そのものを脅かします。

心理学では、自尊心は他人から受け入れられている感覚や、社会の中での自分の立場とも関係すると考えられています。

そのため、恋人から拒絶されたり、失業によって社会的地位が下がったと感じたりすることは、自尊心にも影響する可能性があります。

研究では、恋愛関係の終了、友人関係の終了、失業、大切な人との死別、重要な試験への不合格のいずれかを最近経験した成人1069人を対象としました。

参加者は研究開始時から24週間後まで計5回、自尊心などを測定する調査に回答しました。

さらに研究チームは、「何が起きたか」だけでなく、「どれほど重大だと感じたか」「予測できたか」「社会的地位が変わったと感じたか」など、出来事に対する本人の受け止め方や、性格特性のビッグファイブについても調べました。

約89%では半年の間に自尊心が上向いた

分析すると、参加者の自尊心は4つのパターンに分けられました。

36.4%は中程度の自尊心から上昇し、26.8%は低い状態から上昇、25.6%はもともと高い状態からさらにわずかに上昇しました。

この3グループを合わせると88.8%になります。

つまり約89%の人が、出発点の違いはあっても、約6カ月の間に自尊心が上向くパターンを示したのです。

研究者たちは、この共通した動きには、ネガティブな出来事に少しずつ慣れ、新しい状況へ適応していく過程が関係している可能性を指摘しています。

大きな失敗や喪失を経験した直後には、その状態が永遠に続くように感じられるかもしれません。

しかし少なくとも今回のデータを見る限り、多くの人では自分自身への評価が時間とともに徐々に持ち直していました。

一方、残る11.2%では、調査開始時から自尊心が非常に低く、その後も有意な上昇が確認されませんでした。

ただし重要なのは、この研究では出来事が起きる「前」の自尊心を測定していないことです。

そのため、この11.2%が出来事によって自尊心を大きく失ったのか、それ以前から低かったのかは区別できません。

したがって、「つらい出来事で自尊心が下がった人の89%が元通りになった」という意味ではありません。

正確には、ネガティブな出来事を経験した人をその後約6カ月追跡すると、約89%が自尊心の上昇するパターンに分類されたという結果です。

「何が起きたか」以上に自尊心と関係していたもの

では、自尊心のパターンの違いには何が関係していたのでしょうか。

意外にも、失恋なのか失業なのか死別なのかといった「出来事の種類」そのものが説明できる違いは小さいものでした。

それより強く関係していたのが性格です。

特に、不安や心配、落ち込みなどを感じやすい「神経症傾向」が高い人ほど、調査開始時点で自尊心の低いグループに入りやすい傾向がありました。

反対に「外向性」が高い人ほど、自尊心の高いグループに入りやすい傾向が確認されています。

ただし、神経症傾向が高いから半年間の回復速度が遅くなる、と確認されたわけではありません。

性格は主に、ネガティブな出来事を経験した後の「自尊心の水準」と関係していました。

さらに重要だったのが、「この出来事によって自分の社会的地位が下がった」と感じることです。

社会的地位への脅威を強く感じている人ほど、自尊心も低い傾向がありました。

つまり、同じ出来事でも、それを自分の社会的価値を脅かすものとして受け止めているかどうかが、自尊心と結びついていたのです。

また年齢が高い人ほど、出来事後の自尊心が高い傾向も確認されました。

研究者たちは、年齢とともに感情を調整する力や精神的な安定性が高まる可能性を挙げていますが、今回の結果だけから「年齢が高いほど早く回復する」とまでは言えません。

人生の壁を乗り越えるというと、強い意志で一気に前向きになる姿を想像するかもしれません。

しかし今回の研究が示しているのは、もっと静かな回復の姿です。

大きな出来事を経験した直後には、自分自身への評価が低くなっていたとしても、多くの人では時間の経過とともに少しずつ上向いていきます。

一方で、自尊心が非常に低い状態が続く人もいます。

人間の心は誰もが同じ速さで立ち直るわけではありませんが、少なくとも「今の自己評価が、この先もずっと変わらない」とは限らないのです。

参考文献

When Life Throws You a Curve, Chances Are You’ll Do Okay
https://www.psychologytoday.com/us/blog/fulfillment-at-any-age/202608/when-life-throws-you-a-curve-chances-are-youll-do-okay

元論文

Individual differences in self-esteem trajectories after negative life events: The role of the Big Five personality traits and perceived event characteristics
https://doi.org/10.1177/08902070251383960

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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