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パリ・オペラ座バレエ団、エトワールの楽屋。

  • 2026.8.19

パリ・オペラ座バレエ団のピラミッドの頂点に立つエトワール。任命後、二人部屋から一人部屋へと最高の環境が与えられる。卓越した舞台を求める彼らはそこで憩い、精神集中し、身体の準備をする。それぞれが作り上げる楽屋は、ステージ同様に各人の個性が際立つ空間だ。


Les Loges des Étoiles

楽屋(ロージュ)もまたパリ・オペラ座の階級制を反映している。カドリーユとコリフェはメイクアップ用ブースが人数分設置された、複数ダンサーの共同楽屋だ。最近改装され、以前よりスペースの余裕ができた。スジェになると二人部屋となるのだが、もし空きができても、すでに入室しているダンサーと合いそうもない時はその機会をパスし、共同楽屋に残って次を待つこともできる。プルミエ・ダンスールに昇級しても、そのままの二人部屋。42歳の引退まで過ごす可能性もあるので、ここはとても慎重を要する段階だ。

エトワールになると、オペラ・ガルニエの裏側の建物の3~4階を占める一人部屋の楽屋となる。朝、彼らが最初に向かう場所であり、一日を終えるのもここだ。公演の日、ヘア&メイクを終えたらコスチュームに着替えて舞台へ向かうのも楽屋から。時にはインタビューも行う。身体・精神が最高のコンディションで舞台に臨む必要があるエトワールにとって、楽屋は聖域。そしてオペラ座のピラミッドの最高峰というランクの象徴だ。シャワー付きの洗面所があり、舞台に出る前の昼寝用の長椅子が置かれて……。廊下には共同の洗濯機室があり、稽古着の洗濯中も楽屋で待っていればいいだけ。番号と名札がついた楽屋がずらりと並ぶ光景はどことなく長屋風で、鍵がつけっぱなしの楽屋は「在室中」という仲良しダンサーへの合図! 仕事の合間にティータイムや無駄話、時にはちょっとばかりゴシップも楽しむ。

エトワールの楽屋はひとつひとつに歴史がある。たとえばドロテ・ジルベールの楽屋は彼女の前はイザベル・シャラヴォラ、その前はクレールマリ・オスタ、その前にはエリザベット・プラテル(現・学校ディレクター)が、というように。そこで暮らした過去のエトワールたちの魂が宿る場所である。自分の楽屋の歴代のエトワールを調べてリストを作ろう、と意欲を燃やしているのはマルク・モローだったか……。先人が家具や壁の装飾を残していくこともあり、それを引き継ぐ、引き継がないは次の入室者に任されている。壁の色を選び、整理用の棚が欲しければ作ってもらい、好きなオブジェ、家族の写真、思い出の品などを飾ってエトワールたちは自分の趣味に合わせて居心地のいい第2のメゾンを作り上げてゆく。広さ、窓の数、間取りは個室ごとに微妙に異なるので、最初に入った楽屋が気に入らなければ、先輩エトワールが去るのを待って理想の楽屋へ引っ越すダンサーもいる。一人用の楽屋に空きがない時はロクサーヌ・ストヤノフのように任命後1年半も待って……。昨年アデュー公演を行った直後、マチュー・ガニオがこう語っていた。

「20年過ごした楽屋を片付けて鍵を返した時、自分がオペラ座を去ることを初めて実感するのだと思う」

Index

  • Les Loges des Étoiles
  • – Hannah O’Neill オニール八菜
  • – Guillaume Diop ギヨーム・ディオップ
  • – Léonore Baulac レオノール・ボラック
  • – Marc Moreau マルク・モロー
  • – Bleuenn Battistoni ブルーエン・バティストーニ
  • – Sae Eun Park パク・セウン
  • – Hugo Marchand ユーゴ・マルシャン
  • – Paul Marque ポール・マルク
  • – Valentine Colasante ヴァランティーヌ・コラサント

Hannah O’Neill オニール八菜

カーペットは大好きなピンク色、ママの舞踊の写真を額に飾って……八菜の楽屋はスイートでコージー。日本人とニュージーランド人の家庭に生まれた彼女は、パリを舞台に活躍の場を国際的に広げている。オフステージではコンテンポラリーアートやモード関連のイベントなどに、大きな瞳を輝かせて積極的に出かけてゆく。いくつかのファッションブランドではモデルを務めるセレブリティのひとりでもある。21世紀といういまの時代を自由に生きているモダンなエトワールだ。

Guillaume Diop ギヨーム・ディオップ

カドリーユ時代に『ロミオとジュリエット』の主役を踊って、一躍有名に。その前年にほかのダンサーとともにパリ・オペラ座における“ダイバーシティ宣言”を発表した彼。3年前の任命時はバレエ団初の黒人エトワールとして世界中の視線を集めた。スウェーデン王立バレエ団は国に実在した黒人プリンスを主題にしたバレエ『Gustavia』の創作に彼を招聘。この撮影の直前は南アフリカ・ヨハネスブルクのJoburg Ballet団の『眠れる森の美女』に主役で招かれている。

Léonore Baulac レオノール・ボラック

小さな子どもがいるいまは忙しいのだろうが、出産前はアフリカに出向いて恵まれない子どもたちにバレエを教え、病気の子どもを励ましに病院で踊るといった活動を行っていた。また女性問題にも敏感。社会問題に積極的に関わっている彼女は読書に勤しみ、時間が許せば展覧会や劇場にも足を運んでいる様子だ。強い好奇心と豊かな教養は、さまざまなタイプのダンスに芸術性をもたらしている。舞台上で揺れるブロンドのカーリーヘアはノルウェー人のママ譲り。

Marc Moreau マルク・モロー

いまから15年くらい前、オペラ座で日々ステージを務める一方で、クレイジーホースをはじめとするレヴューの世界におおいに関心があると彼は語っていた。その振り付け、コスチューム、セットなどへの興味はいまも続いている。多くのことに興味を持つ彼。現役の振付家たちに愛されるのもその好奇心ゆえだろう。デザインにも造詣が深く、自身の趣味と美意識で整えた15㎡程度の彼の楽屋は、インテリア雑誌に出てくるアパルトマンのよう、と仲間内で好評だ。

Bleuenn Battistoni ブルーエン・バティストーニ

アデュー公演の途中に怪我で退場したエトワールに代わり、スジェの彼女が舞台を務め上げた。彼女の真価、そして度胸と気骨が発揮された瞬間だった。オフステージではいたって控えめで謙虚と評される彼女だが、トークショーなどでは淀みのない受け答えで知性を輝かせる。11月30日までオペラ座では、ガルニエ宮の舞台裏をショパンの音楽とともに彼女が案内するヴァーチャルガイドを体験できる。あ、でもこの楽屋だけはオフリミット!

Sae Eun Park パク・セウン

ロベルト・ボッレのガラをはじめ、外部での公演に積極的に参加。また彼女自身も最近ではグループを組織して祖国で公演を行うなど、その活発な活動は棚に並ぶトウシューズが物語っているようだ。もちろん本拠地オペラ座の仕事も幅広くパーフェクトにこなし、その一方で3年半前に生まれた長女と夫とともに円満な家族生活を営んでいる彼女。舞台上で見せる安定した技術は、いち女性としてバランス良く生きる日々が支えているのかもしれない。

Hugo Marchand ユーゴ・マルシャン

日本で任命された唯一のエトワールであるユーゴ。最近はオペラ座外部での活動も活発だ。メセナを自力で見つけ、ダンスのための協会(@hugomarchandpourladanse)を設立し、フランス国内の城の前での公演を低料金で、パリまで来られない地方の住民のために行っている。そのプロジェクトは早くも今年で4年目を迎えた。この夏はニューヨークのシティセンターから招かれ、彼が組み立てたプログラムで仲間のダンサーと公演を行う。身体もハートもビッグにキャリアを推進中だ。

Paul Marque ポール・マルク

オペラ座での公演を疎かにすることなく、海外あちこちの舞台で踊り、他国のダンサーたちとの出会いを楽しんでいる。耐久力に優れた身体を武器に、完璧なフレンチスタイルの気品ある踊りで世界を駆け巡る彼はまさにオペラ座のアンバサダー。楽屋に戻ると、ともに旅をしたショソンを長椅子の下の引き出しに。この楽屋は定年前に引退したジョジュア・オファルトから引き継いだが、その前はドロテ・ジルベールが空き待ちの間少しだけ。彼女がこの収納のアイデアの主らしい。

Valentine Colasante ヴァランティーヌ・コラサント

彼女はカール・パケット(現・バレエ学校第四学年男子の教師)から楽屋を引き継いだが、その前の“住民”は現芸術監督ジョゼ・マルティネスだった。最近その楽屋で少しだけ大きくなったお腹をセルフィーした写真とともに、『ラ・バヤデール』のニキヤ役を降板し、新しい「ママ」の役につきます!と彼女はインスタグラムで早々と報告。日頃は女性の社会的活動の支援をストーリーズに投稿する程度の彼女だけに、そこに大きな喜びが感じられた。

●写真は2024/25シーズン開幕ガラのプログラムのために撮影されたものです。
●エトワールのアマンディーヌ・アルビッソンは第2子出産、マチアス・エイマンは休業、トマ・ドキールは2026年6月にエトワールに任命されたため、この撮影には参加していません。
●ドロテ・ジルベール、ロクサーヌ・ストヤノフ、ジェルマン・ルーヴェはフィガロジャポン26年9月号で、それぞれの楽屋について触れています。

photography: Stéphane Lavoué/OnP text: Mariko Omura

*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋

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