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「このほうが似合っていますよ」と言い切った俺→切り落としたのは前髪ではなく、積み上げた信頼だった

  • 2026.8.13
ハウコレ

彼女は前髪を切らないでほしいと2度伝えていました。それでも切る前の俺は、仕上がりを見せれば納得してもらえると信じて疑いませんでした。

予約表をめくっても、指名を続けてくれていた彼女の名前は、もうどこにもありませんでした。

自分の判断に自信があった

似合う髪型を提案できることが、美容師としての自分の強みだと思ってきました。指名が増えるほどその意識は強くなり、注文を少し変えても仕上がりがよければ許される、と考えるようになっていました。その日来店した彼女は、前髪は伸ばしている途中だから切らないでほしいと、席に着いてすぐに伝えてきました。カットの前にも、もう一度念を押されました。それでも俺の目には、伸びた前髪が顔にかかり、全体が重たく見えていました。

切らないでと言われたのに

後ろを切り終えて、俺は前髪を持ち上げました。「前髪は切らないでください」と重ねて言われましたが、「長さは変えず、形だけ整えます」と返して、ハサミを入れました。形をそろえるうちに眉の上まで短くなり、途中で止めれば左右が合わないため、反対側も切りました。「今、切りましたよね」と聞かれても、謝りませんでした。「ほんの少しですよ。こっちのほうが顔が明るく見えます」。そう言い切った俺は、後ろも頼まれた毛先より短くしていました。結んだときにどうなるかまで、考えていませんでした。

注文は明確だった

「切らないでとお願いしましたよね」と言われ、俺は「でも、このほうが似合っていますよ」と答えました。返ってきたのは、「似合うかどうかを決めてほしかったわけではありません。切らないでほしかったんです」という言葉でした。店長が入れ替わり、俺は彼女の話を隣で聞きました。結婚式を控えていたこと。伸ばした前髪で決めていた髪型があったこと。俺は何も聞かないまま、その予定ごと切り落としていました。注文は明確で、解釈の分かれる余地はありませんでした。俺が自分の判断を優先しただけでした。

そして...

店長は料金を受け取らず、頭を下げました。俺も謝りましたが、彼女は次の予約を入れずに帰りました。数日後、店として謝罪の連絡を送り、俺は「似合わせることを優先してしまった」と書き添えました。返事はありませんでした。それから俺は、カウンセリングで注文を復唱するようになりました。変えたほうが似合うと思っても、切る前に確認しています。切った髪は戻せません。だからこそ、技術より先に許可が要りました。あの日の俺は、信頼されていたのではありません。注文を守ると信じてもらっていただけでした。

(30代男性・美容師)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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