1. トップ
  2. エピソード
  3. 「昔ね、この近くで働いていたのよ」試飲販売で出会った客。だが、会話しているうちに気づいた違和感とは

「昔ね、この近くで働いていたのよ」試飲販売で出会った客。だが、会話しているうちに気づいた違和感とは

  • 2026.8.9

試飲販売中に話しかけてきた女性

その日、私はスーパーの一角で、飲料の試飲販売を担当していました。

初めて入る店舗だったため、売り場の位置やお客様の流れを確認しながら、通りかかる方へ商品をご案内していました。

夕方が近づいた頃、一人の高齢の女性が足を止めました。

試飲を勧めると、女性は笑顔で首を横に振り、そのまま私に話しかけてきました。

「昔ね、この近くで働いていたのよ」

近所にあった店のことや、幼かった娘さんと買い物に来たときのことを、懐かしそうに話してくれました。

私は商品を並べ直しながら、接客の妨げにならない範囲で相づちを打っていました。

ほかのお客様が近づくと、女性は少し離れて待ち、接客が終わると再び話の続きを始めます。

「娘が小さかった頃はね、ここへ来るのを楽しみにしていたの」

ところが、しばらく聞いているうちに、私はあることに気づきました。

同じ話が、もう一度始まった

女性が話しているのは、少し前に聞いたばかりの内容でした。

「娘が小さかった頃はね、ここへ来るのを楽しみにしていたの」

言葉の順番まで、先ほどとほとんど同じです。

私は一瞬、先ほども聞いたと伝えたほうがよいのか迷いました。

しかし、女性はとても楽しそうに話していました。

そのため私は話を遮らず、最初と同じようにうなずきました。

「娘さんとの大切な思い出なんですね」

「そうなの。今は遠くに住んでいるけれど、昔はよく一緒に来たのよ」

女性はうれしそうに笑いました。

その後も、接客の合間に同じ話を何度か聞きました。

すでに聞いた内容だと分かっていても、私はそのたびに話を急かさず、短く相づちを返しました。

しばらくすると、女性はふと申し訳なさそうな表情を浮かべました。

「私、さっきも同じ話をしたかしら」

私は少し考えてから答えました。

「少し似たお話は聞きました。でも、娘さんのことを本当に大切に思っているのが伝わりました」

すると女性は、照れたように笑いました。

「聞いてくれてありがとう。久しぶりに娘のことを思い出したわ」

そう言って、女性はゆっくりと売り場を離れていきました。

私は再び商品を整え、次のお客様へ声をかけました。

特別なことをしたわけではありません。

ただ、楽しそうに思い出を話す人の言葉を、少しだけ遮らずに聞いただけです。

それでも、帰り際に見せてくれた笑顔は、その日の仕事の中で強く印象に残りました。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ