1. トップ
  2. エピソード
  3. 「すぐ分かるようにしろ、時間の無駄だ」商品の置き場所に文句を言う客。翌週、売り場の表示が変わった結果

「すぐ分かるようにしろ、時間の無駄だ」商品の置き場所に文句を言う客。翌週、売り場の表示が変わった結果

  • 2026.7.31
「すぐ分かるようにしろ、時間の無駄だ」商品の置き場所に文句を言う客。翌週、売り場の表示が変わった結果

レジで止まった列

ドラッグストアで働き始めて、半年ほど経った頃の話です。

夕方はレジが一番混みます。その日も、かごを持ったお客様が並んでいました。

私の番になった男性は、かごを台に置くなり口を開きました。

「これ、どこにあるか分かる?」

手にしていたのは、胃腸薬の名前を書いたメモでした。

「棚にないんだよ。ずっと探してた」

「申し訳ありません。ご案内いたします」

レジを他のスタッフに代わってもらい、売り場へ向かいました。

その薬は、お客様が探していたメインの売り場ではなく、少し離れた棚の下段にありました。

「こちらでございます」

しゃがんで箱を取り、手渡しました。

けれど男性は、箱を受け取っても、その場から動きませんでした。

「最初から目立つところに置いといてよ」

「申し訳ありません」

「探す時間が無駄だったんだよ。こっちは仕事帰りなんだ」

声が、少しずつ大きくなります。

「すぐ分かるようにしろ、時間の無駄だ」

棚のあいだに、その声が響きました。

商品に不備があったわけでも、案内を間違えたわけでもありません。

それでも、頭を下げるしかありませんでした。

「申し訳ありませんでした」

その言葉だけを、繰り返した気がします。

店長が出した答え

そこへ、店長が通りかかりました。いつもは早口な人です。

男性の正面に立つと、ふだんより静かな声で言いました。

「ご不便をおかけしました」

男性が、言いかけた言葉を止めます。

「実は、その薬をお探しになるお客様が、このところとても多いんです」

「……だろうね」

「明日から、売り場に案内表示を出します。まずは、この棚の上に」

店長は、棚の上のほうを手で示しました。皮肉も、言い訳もありません。

男性は口を開いたまま、黙りました。

言い返す材料が、なくなってしまったのだと思います。

「……そう。ならいいけど」

それだけ言って、かごを持ってレジへ戻っていきました。怒鳴り声も、嫌味もありません。

背中が、来たときよりも小さく見えました。

その夜、閉店後に店長が私に言いました。

「ああいうのは、言い方が全部だからね」

「……はい」

「でも、探しにくいのは本当だった。そこは私の仕事」

翌週、棚の上に表示が出ました。矢印と品名だけの、簡単なものです。

数日後、年配の女性がその表示を見上げて言いました。

「分かりやすくなりましたね。前は探したのよ」

「ありがとうございます」

謝ることしかできなかったあの日の自分を、少しだけ許せる気がしました。

表示の下では、若い男性が迷わず手を伸ばしています。

「あ、あった」

独り言が聞こえて、私はレジへ戻りました。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ