1. トップ
  2. 電撃小説大賞《金賞》受賞! 歌姫の才能に嫉妬しながらも、好意を抱いてしまう少年――創作への情熱と恋心を織り交ぜた青春ノベル【書評】

電撃小説大賞《金賞》受賞! 歌姫の才能に嫉妬しながらも、好意を抱いてしまう少年――創作への情熱と恋心を織り交ぜた青春ノベル【書評】

  • 2026.7.10
歌姫を殺したい 来述 延:著、熊野だう:イラスト/電撃文庫 KADOKAWA
歌姫を殺したい 来述 延:著、熊野だう:イラスト/電撃文庫 KADOKAWA

創作とは生命を削る行為に等しい。文字通り心血を注いで、作者が抱え込んでいた想いや情熱を発露させ、完成へ導くものであるからだ。一般的な仕事であれば、ワークライフバランスというお題目で仕事と余暇を区別し、どちらも精神に良い環境になるよう心がけるべきだろう。ただ、創作ともなればそうもいかない。面白い作品や表現の追求のためには睡眠時間や余暇の時間も惜しんで没頭し、時には大人気作に嫉妬して、その想いを作品にぶつける、なんてケースも往々にして存在するであろうから……。

そんなことを感じさせたのは、第32回電撃小説大賞《金賞》受賞作として刊行された『歌姫を殺したい』(来述 延:著、熊野だう:イラスト/電撃文庫 KADOKAWA)が、創作と恋について描かれた青春ラブコメであったからだ。主人公の間原葵は、同い年の歌い手・ニーナの才能を妬む日々を過ごしていた。彼にはひょんなことから仲良くなっていったクラスメイト・蜷川真衣がいたが、ある日彼女からニーナの正体が自分だと知らされる。友達以上恋人未満な女の子が、嫉妬している歌姫。想いがさらに鬱屈する中、葵は趣味の作曲に対する想いが揺らいでいく。

ライバルキャラクターが「ヒロイン」

振り返ってみれば、マンガ家を目指す少年たちの姿を描いた『バクマン。』(大場つぐみ:原作、小畑健:作画/集英社 ジャンプコミックス)や、新人映画監督が生命を懸けて処女作を作り出す『映画大好きポンポさん』(杉谷庄吾【人間プラモ】/MFCジーン ピクシブシリーズ KADOKAWA)も本作に似ている。前者はライバルマンガ家と週刊マンガ雑誌上で戦うことを目指して炎を燃やしていくし、後者は自分の理想とする映画を目指すために、過労で倒れて入っていた病院を抜け出し、編集室に向かう主人公の姿を描いている。

そんな作品たちと本作が異なるのは、相対するライバルとなるキャラクターがヒロインであること。目の前にいる可憐な少女は、嫉妬している相手であり、好意を寄せる相手なのだ。だからこそ、主人公の胸の内がぐるぐるしていくわけだが、その様がもうたまらない。

創作のためには生命を燃やすことも厭わない。そこに恋心という燃料が加われば、エンジンは煙をふかしながらどんどん回転していくことは必至。その様が唯一無二で、とにかくページを捲る手が止まらない快作だった。

後半の文化祭ライブは、『坂道のアポロン』(小玉ユキ/フラワーコミックスα 小学館)などを彷彿とさせつつも、ラストの感動必至な展開に繋がっていく構成がとにかく巧み。文字媒体であるから当然音楽は鳴らないのだが、脳内には葵の歌と想いが鮮やかに浮かび上がってくる。それほどに美しい青春グラフィティだと感じた。これだけの才能が新人として現れたからには、次回作も期待せざるを得ない!

文=太田祥暉

◆『歌姫を殺したい』詳細ページ

https://promo.kadokawa.co.jp/dengekibunko/utahime/

元記事で読む
の記事をもっとみる