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韓国恋愛映画の新たな金字塔となった『サヨナラの引力』キム・ドヨン監督にインタビュー!「恋愛がうまくいくかよりも、愛し合う過程のせつなさが好き」

  • 2026.7.8

かつて深く愛し合った2人の別れと再会を描いた珠玉の韓国ラブストーリー『サヨナラの引力』(公開中)。2025年の大晦日に韓国で公開されると、口コミで評判を呼び、3週連続で興行ランキング1位を記録。観客動員260万人を突破した。近年はヒットが難しいとされてきた韓国の恋愛映画において、その快挙は大きな注目を集め、新たな金字塔となった。

【写真を見る】撮影秘話から好きな恋愛映画まで語り尽くしてくれたキム・ドヨン監督

「せつない恋愛の物語として描くというよりは、再会した2人がともに過ごす1日に焦点を当てました」

出会いから別れまで、変化していく男女の関係を愛おしく描いた『サヨナラの引力』 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
出会いから別れまで、変化していく男女の関係を愛おしく描いた『サヨナラの引力』 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

『サヨナラの引力』は、2019年の中国映画『僕らの先にある道』のリメイクだ。Netflixで鑑賞したオリジナルに魅了されながらも、配信開始から間もない作品だったことから、キム・ドヨン監督は当初リメイクのオファーを断ったという。しかし3回目のオファーを受けた際、「韓国を舞台にしたら、私なりに何かできるのではないか?」と考え、監督を引き受けることを決意した。

その判断を裏付けるのが、彼女のフィルモグラフィーだ。キム・ドヨン監督と言えばやはり、『82年生まれ、キム・ジヨン』(19)。女性たちが誕生から進学、結婚、育児を通じて直面する苦難にフォーカスしたベストセラー小説を映画化し、現実のシビアさはそのまま受け継ぎながらも、暖かいラストへ着地させることで、多くの観客に希望を与えた。

場を明るくしてくれるような笑顔が印象的だったキム・ドヨン監督 撮影/JANG HOMIN
場を明るくしてくれるような笑顔が印象的だったキム・ドヨン監督 撮影/JANG HOMIN

「リメイクを手掛ける理由は、まず元々の作品が好きだからなんですよね。だからこそ、自分が原作の何に感動したのか、どこをおもしろいと思ったのかを忘れないようにしています。オリジナル版では、過去と現在をモノクロとカラーで描写し分ける演出や、父からの手紙がとても気に入ったので、そのまま残しています。一方で、時代設定については、リーマン・ショックを意識して2008年に変更しました。恋愛は一組のカップルの個人的なものですが、同時に社会的な影響も受けるものだと思うからです。互いに愛し合うだけでなく、夢に向かう物語でもあるので、この時代が最も適切だと判断しました」

二人の恋愛とともに韓国の現代史とカルチャーを振り返る [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
二人の恋愛とともに韓国の現代史とカルチャーを振り返る [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

運命的に出会ったウノとジョンウォンは、慣れない都会の日々を支え合いながら愛を育んでいく。しかし、夢を追うなかで直面する厳しい現実や、少しずつ積み重なるすれ違いによって、やがて別れを選ぶことになる。そして10年後、飛行機の中で2人は偶然再会する。本作は、ウノとジョンウォンの単なるラブストーリーで終わる作品ではない。

時を経て再会した二人は「もしもあのとき…」と過去を見つめ直す [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
時を経て再会した二人は「もしもあのとき…」と過去を見つめ直す [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「私はこの作品を、ウノとジョンウォンが人生のある時期に出会い、愛し合った時間を描く物語だと捉えていました。そのため、切ない恋愛の物語として描くというよりは、再会した2人がともに過ごす1日に焦点を当てたんです。その結果、オリジナルと少し異なる作品になったのではないでしょうか。原作映画は悲劇的で切ない印象がありますが、本作はたくさん泣いたあとに、スッキリ目覚めたようなイメージに仕上げたかったです」

「ク・ギョファンさんには、人を惹きつける不思議な説得力があります」

ク・ギョファンが命を吹き込んだ“優しく不器用な男性”ウノは多くの男性の共感を呼んだ [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
ク・ギョファンが命を吹き込んだ“優しく不器用な男性”ウノは多くの男性の共感を呼んだ [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

ゲーム作家を目指す青年ウノを演じたク・ギョファンと、建築家を夢見るジョンウォンを演じたムン・ガヨン。キム・ドヨン監督にとって、2人と作品を共にするのは本作が初めてだった。

「ウノには、男性の観客が感情移入できる親しみやすさが欲しかったんですね。ク・ギョファンさんには、どこかいたずらっ子のようなイメージや、人を惹きつける不思議な説得力があるんです」

ク・ギョファンの持つ魅力を存分に引き出した作品となった [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
ク・ギョファンの持つ魅力を存分に引き出した作品となった [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

ウノの周囲のキャラクターにも監督独自の目線が感じられる。ジョンウォンが憧れる先輩のミンジェ(イ・サンヨプ)は、オリジナル版では女性主人公と婚約する人物だが、本作では役割や立ち位置が少々異なっている。キム・ドヨン監督は「ジョンウォンに片想いをしているウノが嫉妬するような人物として登場させたかった」と明かしたうえで、こう続ける。「ジョンウォンの夢を建築家にしたことで、ほかの人物設定にも影響があったと思います。ミンジェは彼女と同じ分野で働くからこそ、ウノが羨む存在として登場させました」。

「女性主人公は、社会的に自立したキャラクターとして描きたかったです」

キム・ドヨン監督が繰り返し語っているように、ムン・ガヨン扮するジョンウォンのキャラクター造形にはとりわけ力が注がれている。『僕らの先にある道』の女性主人公はやや控えめな描かれ方をしており、印象も比較的に淡かった。

「2人が置かれた状況や立場がオリジナルから少しずつ変わっていった理由の1つは、女性主人公をもう少し自立した、社会的にも成功した人物として描きたかったからです。ジョンウォンだって成功したいはずですし、そのほうがより共感を呼ぶと思いました。ジョンウォンがこの場面で何を感じているのか、何を見つめるべきなのか――そうしたことについて、ムン・ガヨンさんとは撮影現場でたくさん話しましたね」

自立した女性主人公として立体感のあるキャラクターとなったジョンウォン [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
自立した女性主人公として立体感のあるキャラクターとなったジョンウォン [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

こうしたキム・ドヨン監督の思いに、ムン・ガヨンはしっかり応えた。

「ムン・ガヨンさんは子役出身ということもあって、本当に集中力が高かったです。もともとエレガントな方ですが、ジョンウォンはもう少したくましく育ったイメージがあったので、ほとんどメイクもせずに臨んでくださいました。とてもすばらしかったです。ご本人にとっても楽しい挑戦になったのかもしれないですね」

普段のムン・ガヨンもとてもキュート [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
普段のムン・ガヨンもとてもキュート [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

そしてキム・ドヨン監督が原作映画のなかで特に気に入っていたキャラクターが、男性主人公の父親だ。父親役を演じたベテラン俳優のシン・ジョングンには、現場の雰囲気作りの面でも大いに助けられたという。

ク・ギョファン、ムン・ガヨン、シン・ジョングンの仲良し3ショット [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
ク・ギョファン、ムン・ガヨン、シン・ジョングンの仲良し3ショット [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「温かくて懐の深い方で、現場の雰囲気もとても良くなりました。撮影の合間には、ク・ギョファンさん、ムン・ガヨンさんと3人で食事をしたり、おしゃべりをしたりしていましたね。私からムン・ガヨンさんに小さなデジカメをお渡ししていたんですが、3人で自撮りをするなど、とても仲が良かったです」

「トレーニングウェア、任天堂の帽子、赤いソファー…いろんなアイテムに象徴的な意味を込めました」

2008年から2024年にかけてのソウルと全羅南道・⾼興(チョルラナムド・コフン)を舞台にした本作では、登場するアイテムや空間づくりも重要な役割を担っている。キム・ドヨン監督は「美術チームが本当に小道具の準備を頑張ってくれました」と感謝を口にする。たとえばジョンウォンが着ているベルベット素材のトレーニングウェアは、当時多くの若者の間で流行していたアイテムだ。さらに、俳優陣からのアシストもあった。

二人の生活感にリアリティを与えた小物の数々も要注目 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
二人の生活感にリアリティを与えた小物の数々も要注目 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「実は、ク・ギョファンさんご自身もゲームが大好きで、かつては自分でゲームを作ろうと考えたこともあったそうです。なので、ご本人の私物も映画で使わせてもらいました。任天堂の帽子などは、ク・ギョファンさんが持参して部屋に飾ったんです」

特に、原作映画にも登場するソファーに、キム・ドヨン監督は象徴的な意味を込めた。2人で生活し始めたものの、やがて経済的に苦しくなったウノとジョンウォンは、半地下の部屋に引っ越していく。ソファーは以前、ジョンウォンが気に入って拾ってきたものだったが、新しい住まいには置くスペースがなく、捨てざるを得なくなる。

どうしても欲しかったソファーを手に入れた二人だったが… [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
どうしても欲しかったソファーを手に入れた二人だったが… [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「ジョンウォンは建築家を目指しているので、家に1つくらいはすてきな家具が欲しいんじゃないかと思いました。また、ソファーとジョンウォンの姿を重ね合わせた面もあります。ソファーはとてもすてきなのに捨てられてしまう。一度は誰かのもとで大切にされても、また手放されてしまうんです。そうした境遇は、ジョンウォンともどこか似ているのではないでしょうか」

挿入歌として使用された、イム・ヒョンジョンが2003年にリリースした「愛は春の⾬のように、別れは冬の⾬のように」もまた、印象的に響く。本作にも登場するSNSの元祖Cyworld(サイワールド)の個人ページ「ミニホムピィ(HP)」で、2008年当時よく使われていたこの楽曲を、ジェイ・キム音楽監督から提案されたそうだ。

二人の恋愛の切なさを盛り上げた音楽 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
二人の恋愛の切なさを盛り上げた音楽 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「当初は別の曲との間で迷っていたんですが、こちらを選んだのは正しい決断だったと思います。イム・ヒョンジョンさんは『82年生まれ、キム・ジヨン』をご覧になっていたそうで、無償で使用を許可してくださいました。本当にうれしかったです」

「リメイクで一番大切にしているのは、この作品で伝えたいメッセージです」

キム・ドヨン監督は演劇俳優としてのキャリアを積んだのち、40代半ばで映画学校に⼊学し、映画制作を学んだ。長編デビュー作『82年⽣まれ、キム・ジヨン』では、第56回百想芸術⼤賞の新人監督賞を受賞するなど、高い評価を受けた。次回作として、チェ・ミンシクとハン・ソヒが出演する、『マイ・インターン』の韓国リメイク版が控えている。「オリジナルが好きだから」という発言からも分かるように、キム・ドヨン監督の作品からは、原作となる小説や映像作品への強いリスペクトが感じられる。そのうえで、彼女ならではのクリエイティビティや信念も一貫して息づいている。

常に原作やオリジナル作品へのリスペクトを忘れない 撮影/JANG HOMIN
常に原作やオリジナル作品へのリスペクトを忘れない 撮影/JANG HOMIN

「リメイクで私が一番大切にしているのは、この作品で伝えたいメッセージです。それは本当に伝える価値のあるものなのか、私自身がそれを上手く作品のなかに盛り込めるのかを考えます。また、物語がおもしろいかどうかも非常に重要です。そして、良い俳優たちと作品に取り組むこと。これが何よりのポイントですね」

260万人の涙を誘った恋愛映画として、多くの人の記憶に刻まれるであろう『サヨナラの引力』。ラブストーリーとしてはハッピーエンドではないかもしれないが、誰の人生にもあるかもしれない大切なワンシーンを呼び起こしてくれる本作は、きっと観客の心に温かな灯をともしてくれるだろう。こんな得がたい魅力を持つ恋愛映画を届けてくれたキム・ドヨン監督自身は、どんな恋愛映画が好きなのだろうか。

恋愛映画の名作たちに連なるマスターピースとなる予感がする『サヨナラの引力』 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.
恋愛映画の名作たちに連なるマスターピースとなる予感がする『サヨナラの引力』 [C]2025 KC VENTURES CO., LTD AND K WAVE MEDIA LTD ALL RIGHTS RESERVED.

「岩井俊二監督の『Love Letter』(95)が大好きでした!マギー・チャン主演の『ラヴソング』(96)も心に残っています。正統派のメロドラマも好きなんですが、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『パンチドランク・ラブ』(02)もすごく独創的で、かわいらしいですよね。そういえば以前、別の作品の準備中に『花束みたいな恋をした』(21)も観たんですが、すごく心に響きました。もしかしたら無意識のうちに、この映画に影響を与えていたかもしれません。たしかに私が描きたいものは、恋愛がうまくいくかとは別のところにある気がします。男女の関係というのは、ある時期をうまく乗り越えてもどうせ変わってしまいますよね。その過程の繊細さが胸を締め付けたり、すごく心に響いたりする。それが好きなんだと思います」

取材・文/荒井 南

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