1. トップ
  2. 18トリソミーの赤ちゃんを亡くした女性。どうすることもできない生と死に翻弄された、その心の内に寄り添う【心理士インタビュー】

18トリソミーの赤ちゃんを亡くした女性。どうすることもできない生と死に翻弄された、その心の内に寄り添う【心理士インタビュー】

  • 2026.6.30

【漫画】本編を読む

「赤ちゃんに無事に生まれてきてほしい」親なら誰もが願う当たり前の幸せが、これほどまでに遠く苦しいものになるなんて。『わたしが選んだ死産の話』(桜木きぬ:著、医療法人財団順和会山王病院長 藤井知行:監修/KADOKAWA)は、著者である桜木きぬさんの死産の体験を克明に描いた実録コミックだ。

待望の第二子を授かった著者を待ち受けていたのは、おなかの赤ちゃんの染色体異常「18トリソミー」の宣告だった。18トリソミーの胎児は治療が困難な重い心疾患により、自然流産となることが多い。また、たとえ生まれても生後1週間以内に約60%が死亡し、生後1年まで生存する子どもは10%未満、とも言われている。赤ちゃんを無事に産みたい願いと、過酷な未来への不安。引き裂かれるような思いの中で、著者が選んだのは「死産」という決断だった。

本作に基づき、過酷な現実に直面した当事者の心情や周囲とのかかわりについて、臨床心理士・白目みさえさんに話を聞いた。

※本記事には流産・死産に関する内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

――本作は死産の経験を通して、出産の奇跡と命の輝きを訴えかけています。白目さんは心理士として、「生と死」「出産」「命」についてどのように向き合われていますか。

白目みさえさん(以下、白目):私自身、母親でもあります。長女の出産時には心拍の低下が確認され、緊急帝王切開を経験しました。次女の妊娠中も、体質的に同じことが起こるかもしれないという恐怖を抱えながら過ごしました。幸いふたりとも健康に育っていますが、その経験を通して、命は本当に奇跡の積み重ねなのだと実感しました。

一方で、心理カウンセラーとしては、「死にたい」と訴える方の話を日々伺っています。その中で、「命の尊さ」を語ることが、時に何の力にもならない感覚もあります。

毎日が苦しく、朝から晩まで頭の中で「死にたい」という言葉が回り続け、安心だと思える瞬間が比喩ではなく一秒もないと感じている方に、「生きているだけで幸せ」と簡単に言うことはできません。

命は尊い。すべての人に生きる権利がある。そのことは当然理解しています。ただ、今まさに命と向き合い、苦しんでいる人の前で、その正しさをそのまま差し出すことは、あまりに単純すぎると感じています。

だからこそ「命」について考えるとき、私は「生きるべきだ」という理念よりも、「今この人がどれほど苦しいのか」という現実に向き合い続けたいと思っています。

――心理士の立場から、本作をどんな方に読んでもらいたいと感じたでしょうか。

白目:父親と母親、今妊娠している本人か否か、という立場の違いだけでも、考えていることに温度差は生まれると思います。どれだけ相手に寄り添っていても気づけないこともあるでしょう。だからこそ、本作はいろいろな立場の方に一度読んでみてほしいと思います。知ろうとすること自体が、「共に考える」ための大きな一歩になるのではないでしょうか。

本作は漫画という形式だからこそ、妻の内面が丁寧に描かれています。けれど現実では、多くの場合、その葛藤は言葉にならないまま心の中にあります。普段はよく話す人であっても、大きな決断を前にすると考えがまとまるまで黙り込むこともありますし、そもそも言葉にできないこともあります。

「こんなことを言ったらどう思われるだろうか」「自分でも酷い人間だと思う」などの思いがあれば尚更です。本作を読み、「もしかしたら彼女(彼)はこんなことを考えているかもしれない」という視点を持つだけで、向き合い方は変わると思います。

取材・文=あまみん

白目みさえ(しろめ・みさえ)

臨床心理士、公認心理師、漫画家。精神科での臨床業務に従事しながら、自身の育児や仕事の体験を独自の視点で切り取った漫画を執筆。主な著書は『白目むきながら心理カウンセラーやってます』(竹書房)、『子育てしたら白目になりました』『放置子の面倒を見るのは誰ですか?』(KADOKAWA)など。

元記事で読む
の記事をもっとみる