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ヘラルボニーの揺るぎない思いが、Googleを動かした。コラボ端末にも込められた“一人ひとりの可能性を開く”仕組み

  • 2026.6.28
Google×ヘラルボニーのコラボ端末“Google Pixel 10a Isai Blue”が誕生。

Googleは、“Google Pixel”とヘラルボニーの日本限定コラボ端末“Google Pixel 10a Isai Blue”を発売した。両社は2024年より協業を重ね、これまでにGoogle ハードウェアのエモーショナルデザインの研究に合わせてヘラルボニーが内装を具現化したり、アクセサリーケースを共同制作したりと、双方のフィロソフィーを体現する取り組みを続けてきた。

コラボ端末“Isai Blue”では、オリジナルの本体カラーに加え、ヘラルボニー契約作家の作品を用いた限定デザインのパッケージとステッカー、壁紙、専用アイコンなどをそなえ、ハードウェアとソフトウェアの両面で協業を表現。パッケージは工藤みどりさん、ステッカーは藤田望人さんによるもの。ステッカーはユーザーが毎日使うスマートフォンを自分らしくカスタマイズすることで、唯一無二の所有物にできるようにと採用されたアイデアだ。

発売に際して両社は、報道関係者を招いたツアーを開催。ヘラルボニーのゆかりの地である岩手県を舞台に、旗艦店であるISAI PARKや創業のきっかけになった、るんびにい美術館を紹介した。製品だけでなく、ヘラルボニーのビジョンや作家の創作環境への理解を深めることを目的としたプログラムだ。

同ツアーを通して、“Isai Blue”誕生の裏側とヘラルボニーのルーツに迫った。

会場となったヘラルボニーの旗艦店ISAI PARK。ヘラルボニーの商品が並ぶほか、契約作家の作品も常設展示している。

「日本の顧客に感謝を込めて」。“Google Pixel 10a Isai Blue”の誕生の背景

左から、Google Pixel”製品企画アジア太平洋事業統括 リージョナルディレクター 阿部和子さん、ヘラルボニー執行役員 兼 アカウント事業本部統括國分さとみさん“Google Pixel”プロダクトマネージャー、Pablo Ocampさん。

Googleは創業当初から、“世界中の情報を整理し、誰もがアクセスして使えるようにすること”をミッションに掲げ、挑戦を続けてきた。現在、Google検索やYouTube、Google マップ、Gmailなど、現代人の生活に欠かせないサービスを提供している。“Google Pixel”は、それらの自社サービスを純正として、どんな世代の人も安心して使えるデバイスとして親しまれている。

一方のヘラルボニーは、「異彩を放て」のミッションのもと、双子の創業者である兄・松田文登さんと弟・崇弥さんにより岩手県盛岡市で誕生。障害のある作家たちによる独創性・エネルギーに満ちた作品をビジネスと文化の力で発信し、アパレルやライフスタイル商材と掛け合わせた提案や、企業との取り組みを続けてきた。現在、自社主催の国際アートアワード「HERALBONY Art Prize」は世界77の国と地域より約1300名の作家・5000以上の作品が応募されるなどの実績を積み重ね、2025年に米・Forbesの「Accessibility 200」に選出。今年5月には国際的広告賞「The One Show」の部門最高賞「Best of Discipline Pencil」を受賞し、その取り組みは海を超えて高く評価されている。設立の背景を辿ると、重度の知的障害を伴う自閉症がある4歳年上の兄、翔太さんの存在が大きな影響を与えており、企業名も翔太さんが幼少期に自由帳に書いた謎の言葉“ヘラルボニー”に由来する。

日本国内で特に好評を得ているという“Google Pixel A”シリーズ。

“Google Pixel A”シリーズは、ガジェットらしい異物感が少なく日常に溶け込みやすいデザインと、Geminiや優れたカメラなどのコア機能をそなえたバランスのよさが好評。特に日本国内における販売比率は、グローバル平均と比較しても高い水準にあるそうで、前身の“Google Pixel 9a”は、グッドデザイン賞も受賞した。

最新モデル“Google Pixel 10a”は、前身のデザインの良さを生かしつつ、カメラをフラットにし、より洗練された印象にアップデート。ハードウェアにおいても、最高の表情を選び出すオートベストテイクや構図のヒントをくれるカメラコーチなど、ユーザーの撮影をサポートする機能を充実させている。今回の日本限定コラボモデル“Isai Blue”の誕生経緯について、“Google Pixel”製品企画アジア太平洋事業統括 リージョナルディレクターの阿部和子さんは、「日本のみなさまへの感謝の思いを形にした」と話した。

コラボカラーとして選ばれたのは、ブルー。

コラボカラーとして選んだ青は、ヘラルボニーのブランドカラーであり、自閉症啓発カラーとしても歴史的な背景を持つ。さらに、藍染めやサムライブルーなどから、日本を象徴する色の一つと考えた。

「本国とも“青がいいのでは?”と話が進む中で、ヘラルボニーからも同じ提案があった。即決だった」と阿部さん。“Isai Blue”のネーミングについて、「いわゆる“普通”でないことを可能性として捉え、ありのままの個人に寄り添う“異彩”という言葉を使いたかった」と話した。“Google Pixel”では通常、“Obsidian(黒曜石)”や“Iris(アヤメ)”など自然界に存在するものの名前をそのまま採用するため、異例のネーミングとなる。

限定ソフトウェアも設計。AIを活用したデザインで新たな可能性を示す

発表会の様子

ソフトウェアの面でも、“Isai Blue”に合わせた特別な仕様を用意した。壁紙やアイコンをカスタマイズする“Material You”は通常、任意の壁紙から自動抽出されるシステム配色だ。限定デザインを担当したのが、“Google Pixel”プロダクトマネージャー、Pablo Ocampoさん。カラーパレットは、ヘラルボニー契約作家の水上詩楽さん、工藤みどりさん、伊賀敢男留さんら3名の作家の作品をベースに設計され、ユーザーは3つのデザインから壁紙やアイコンのカスタマイズを選択できる。

カラーパレットの設計について、Pabloさんは次のように語った。「作家のアートの力強さと文字の読みやすさを両立させる色彩のバランスを探った。作品の筆使いやカラーレイヤーを入念に研究し、作品が持つエッセンスを維持しつつ、最高のユーザビリティが持続するにはどうしたらよいか、数えきれないほどの調整を繰り返した」。カラーの選定においても、作家本人が好きでよく使う色を尊重したという。

また、“Isai Blue”限定のアプリアイコンもデザインした。デザインはAIを活用し、「力強い筆致」「ドットのレイヤー」「幾何学構成」等ベースとなる作品の特徴を言語化して生成したものだという。作品そのものを学習させてはいない。現状、AIの技術を取り入れたデザインは、賛否両論を巻き起こす。Googleがクリエイティブ領域において、率先して最新技術を活用する姿勢は、AIの可能性を改めて社会に問いかけるかもしれない。

「Googleがなぜヘラルボニーと?」対話の中で見えた共通のビジョン

Google Pixel”製品企画アジア太平洋事業統括 リージョナルディレクター 阿部和子さん。

アートとテクノロジー、異なる分野を突き進んできた両社。最初の協業に至った経緯について、阿部さんは次のように話した。「私たちは“人がテクノロジーに合わせる”のではなく、“テクノロジーが人に寄り添う”設計思想を持っていた。しかし、テクノロジーの研究開発を重ねて最先端を作り続けていると、人間のために作っているつもりが、どこか人間の温かさが感じられないものになっていく。そんな時、ヘラルボニーのことを思い出し、“異彩を放て”のミッションと強く共鳴した」。

ヘラルボニー執行役員 兼 アカウント事業本部統括 國分さとみさん。

ヘラルボニー執行役員 兼 アカウント事業本部統括 國分さとみさんは、「徐々に謎が解けていくものの、最初はグローバルテックの大企業であるGoogleがなぜ我々と協業するのか。少し距離を感じていた」という。しかし、「対話を重ねる中で、“テクノロジーが人のためにあるもの”という原点に立ち返ることができた」「私たちは全く違うアプローチだが、障害のある作家の美しいアートの存在を伝え、エンパワメントすることを目指してきた。お互いを理解し、“一人ひとりの可能性に寄り添いエンパワメントする”というゴールが一致した時、違和感なく日本限定プロダクトを作ろうと思った」と話した。

ヘラルボニー誕生のきっかけとなった、るんびにい美術館。

大谷翔平選手や菊池流星選手らを輩出した、花巻東高校の目の前に位置する、るんびにい美術館

ツアーでは、障害のある作家による作品を常設する、花巻市・るんびにい美術館への訪問も組み込まれた。ヘラルボニーが本格的に事業として立ち上がったきっかけは、共同代表の松田崇弥さんがるんびにい美術館を訪れ、展示作品から大きな衝撃を受けたこと。ネクタイをキャンバスにした協業を持ちかけたことが始まりで、現在も同美術館に所属する作家の作品を発信し続けている。

ここでは、アートディレクターである板垣崇志さんにお話を聞いた。るんびにい美術館は、社会福祉法人光林会が運営する。光林会は1967年に設立。障害福祉制度や養護学校・特別支援学校が未整備であり、“義務教育免除という名の排除”がおこなわれることが多かった当時、障害のある子どもたちの居場所が欠如していた。

るんびにい美術館 アートディレクター 板垣崇志さん。

障害のある児童の入所施設として始まって以降サポートを拡充し、2007年には、ギャラリーの開設によって、福祉と文化を横断する複合事業へと変化した。今でこそヘラルボニーの功績もあり、障害のある作家が描くアートの認知度が高まっているが、開設当時はそういった作品を常設で展示する拠点として、全国で3館目に相当する先進事業だった。

アトリエの様子。

現在、1階にはギャラリーと、就労支援事業所の役割を担うカフェ・ベーカリー、2階には生活介護事業所としてアトリエを構える。公益事業として展開するギャラリーには、障害のある利用者による作品を展示している。

展示は年3回で入れ替え、年1回は利用者の作品展を実施。ちょうどこの期間中は、利用者の作品が展示されていた。アートディレクターである板垣さんは、各作家の作品の傾向はもちろん、好き/嫌いや普段のキャラクター、挨拶する時の癖などもよく理解しており、ツアー参加者に話してくれた。

作家の意思を尊重した制作フロー。 求められる喜びで、制作動機が変化する作家も。

アトリエの様子。

近年は、作家個人に依頼が届くことも増えている。障害のある作家のアートの分野では、作家本人の作品が利用されることや、売上が十分に還元されないことが課題として指摘されてきた。ヘラルボニーでは、商用展開に先立って作家へのアプローチと説明を行い意思を確認した上で進めるとともに、作品を知的財産として扱い、企業等とのライセンス契約を通じてロイヤリティを還元する仕組みを構築している。「作者の理解や同意をしっかりと反映することによって、実現しなかったプロジェクトがいくつもある」と板垣さん。また、作家に適切なリードタイムを確保できないなど、当初に定めた原則を守れないと判断した案件については、受託しない方針を取っている。

作家の企業案件の制作フローについて、小林覚さんが取り組んだ企業パッケージの案件を例に話を聞いた。るんびにい美術館に在籍する小林さんは、文字を独特のフォルムに変形させるスタイルで作品を作る。そのユニークな作風から企業からの依頼も多い。

まず、依頼主の現場理解を深めるために工場・製造工程などを見学し、製品と文脈を把握する。その上で、作家と担当者が顔を合わせて、相互理解を深める。小林さんの特性を鑑み、“企業”という抽象的な対象をイメージしづらいのではないかという配慮で、“目の前のこの人に協力したいか”を考え、納得して答えを出せるフローで進行したという。

創作に励む利用者たちの様子。
創作に励む利用者たちの様子。

小林さんは、作品が多くの人の目に触れたことで、誰かのために作る喜びを得たそうだ。今では、依頼を受けた際にのみ、作品に取り組むマイペースなスタンスをとっている。板垣さんは、「小林さんは筆が早く、多くの作品が30分から1時間で完成する。今や職人です」と話す。

アトリエでは、作家が作品の制作に打ち込めるような環境の整備にも力を入れている。作家が“何を表現しても受け入れられる”と安心・信頼感を持って、自らの内面世界を探索できる環境を守っているという。また、作家個人の表現特性に応じて、道具や画材を提案・用意をいとわないことでも、作品作りを全面的にサポートする。

――ツアーを通じて、コラボ端末“Google Pixel 10a Isai Blue”の誕生秘話とヘラルボニーの取り組み、そして作家たちの創作環境が紹介された。アートとテクノロジーという異なる領域を歩んできた両社だが、その根底には“一人ひとりの可能性に寄り添い、エンパワメントする”という共通の思想があった。その価値観を形にしたプロダクト、“Isai Blue”は現在、全国で販売中だ。

ヘラルボニー

https://www.heralbony.jp/careers

取材・文=福永千裕

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