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境遇が重なった“15年前”の作品を思い出す声も「辛いシーン」再放送中の朝ドラの“服の着替え”に関する描写

  • 2026.7.17
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『マッサン』第23週(C)NHK

再放送中のNHK連続テレビ小説『マッサン』は、国産ウイスキー造りに人生を捧げた亀山政春(玉山鉄二)と、スコットランドから日本へ渡った妻・エリー(シャーロット・ケイト・フォックス)の愛と奮闘を描いた物語である。なかでも終戦直後、エリーがモンペから洋服へ着替えるのに躊躇した場面は、彼女の心の傷を静かに物語っていた。SNS上でも「あの朝ドラ思い出した」「主人公の真意は?」「辛いシーン」と語られるこのシーンには、戦争が終わってもすぐには自由になれない痛みが刻まれている。

※以下本文には放送内容が含まれます。

終戦は“解放”だったはずが……

『マッサン』第23週「待てば海路の日和あり」では、第二次世界大戦末期から終戦直後までの亀山家が描かれる。昭和20年、戦争は余市にも暗い影を落としていた。空襲の噂が広がるなか、マッサンたちは大切なウイスキーの原酒を守るため、樽を山裾の倉庫へ避難させる。

人も原酒も無事だったものの、その直後、出征していた一馬(堀井新太)の戦死の公報が届き、エマ(優希美青)や熊虎(風間杜夫)、工場の人々は深い悲しみに包まれる。

そんな痛みに耐え、8月15日、日本は終戦を迎える。エリーにとって、それは長く苦しい時間からの解放でもあったはずだ。戦時中、彼女は敵国人として特高警察から監視され、近所からも疑いの目を向けられていた。自分が何者であるかを隠すように髪を覆い、地味なモンペを身につけ、日本社会に溶け込もうとしてきた。

そのため、たとえ終戦を迎えたからといっても、すぐには自由だと感じられなかったのだろう。

エリーにとって洋服は、自分がスコットランド人であること、自分らしく生きること、そしてそれを人前に出すことの象徴である。しかし、その姿でいることは、戦時中の彼女にとって危険でもあった。

また責められるのではないか、本当に外を歩いていいのか。終戦という事実があっても、身体に染みついた恐怖はすぐには抜けない。エリーがすぐ洋服に着替えられなかったのは、戦争が彼女の心と身体に刻んだ傷の深さを示している。

一馬を失った人々への思いやり

エリーが洋服に着替えることをためらったのは、周囲の人々への繊細な思いやりでもあったはずだ。

終戦の直前、亀山家と工場には、一馬の戦死という大きな悲しみがあった。一馬は熊虎の息子であり、エマにとっても大切な存在。白木の箱となって帰ってきた一馬に対して、エリーは暗い葬儀ではなく、おかえりなさいの会を開こうと提案する。そこには、エリーらしい優しさがにじんでいた。

彼女にとって終戦は、確かに安堵に繋がった。英語も解禁され、敵国人として疑いの目を向けられる日々から解放される。けれど周囲を見やれば、エマは一馬を失い、熊虎も深い喪失を感じている。貧しさと虚脱感に包まれた日本で、自分だけが洋服を着ることは、誰かの痛みを逆なでするのではないか。

少なくともエリーは、そう考えてしまう人だった。

自分の喜びが、大切な人を傷つけてしまうかもしれないという想像力。エリーは日本に来てからずっと、異国の人間として周囲の目にさらされてきた。だからこそ、誰かの視線や沈黙にとても敏感だったのだろう。

自分を取り戻せた言葉

そんなエリーの背中を押したのは、マッサンとエマだった。

マッサンはエリーに、もう好きな服を着ていいんだと語りかける。エマもまた、綺麗な洋服を着たお母さんを見たいと望む。胸を張って、自分の好きな服を着てほしいという思い。そこに込められていたのは、戦争の間ずっと我慢してきた家族への深い労わりだった。

つまり、洋服はエリーが自分自身を取り戻すための象徴として映っている。SNS上では、2011年から放送された朝ドラ『カーネーション』の糸子(尾野真千子)が終戦後、すぐにモンペを脱いでアッパッパを着たシーンを懐かしく思い出す声が見られた。

『マッサン』は、国産ウイスキー造りの物語であると同時に、異国から来た女性が日本で家族になり、それでも何度も“異物”として扱われながら、自分の居場所をつくっていく物語でもあった。エリーは日本を愛し、マッサンを支え、余市で生きてきた。けれど戦争は、その彼女に“自分らしくいること”を許さなかった。

だからこそ、モンペから洋服へ着替える一歩は、決して軽いものではない。戦争は終わったけれど、心がすぐには戻ってくるわけではない。自由になったと言われても、すぐにそう振る舞えるわけではない。エリーが少し躊躇したからこそ、その後に洋服を着てみせる姿は、より深い意味を持つ。

『マッサン』が今も思い出されるのは、夢を追う夫婦の物語でありながら、こうした小さな場面に、人が傷から回復していく時間を丁寧に刻んでいたからだ。エリーがモンペから洋服に着替えるまでの葛藤。その静かな迷いにこそ、彼女が生き抜いた戦争の重さと、これからふたたび自分らしく生きようとする希望が宿っている。


連続テレビ小説『マッサン』毎週月曜〜金曜午後0時30分放送
NHK ONE(新NHKプラス)見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

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