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W杯中継権が重荷に? 韓国JTBCが経営危機、『梨泰院クラス』や崔順実ゲートの栄光から一転

  • 2026.6.18

北中米ワールドカップの韓国中継権を抱えるテレビ局が、開幕直後から大きく揺れている。

韓国の総合編成チャンネルJTBCだ。

韓国代表の現地練習を収めたJTBCのYouTube映像に、選手を揶揄するような不適切な音声が入り、韓国サッカー協会が「強い遺憾」を表明する騒ぎとなった。

発端は、6月9日にJTBCのYouTubeチャンネルに掲載された韓国代表の現地練習映像だった。映像には、ソン・フンミンらを見ながら軍隊に絡めて嘲笑するような発言や、兵役をめぐる侮辱的な言葉が収録されていたとされる。

韓国サッカー協会は、ワールドカップという大舞台を前に準備する選手団が今回の件で大きな衝撃と失望を受けたとし、取材現場でも選手への尊重と保護が最優先されるべきだと訴えた。

一方、JTBC側は、問題の音声について自社取材陣のものではないと説明している。放送用カメラの特性上、周辺の音が大きく収録されることがあり、当時は公開練習だったため、現場にいた不特定多数の声が入ったという立場だ。

サッカー韓国代表
(写真提供=OSEN)W杯初戦を制し、練習に励むサッカー韓国代表

ただ、今のJTBCにとっては、この騒動以上に深刻な問題がある。

W杯中継権が重荷に?

同局は6月12日、206億ウォン(約20億6000万円)規模の流動化借入金を期日までに返済できず、債務不履行、いわゆるデフォルトを宣言したからだ。

JTBCは、韓国有力紙『中央日報』などを抱える中央グループ傘下の放送局だ。中央グループは新聞、放送、映画館、コンテンツ制作などを手がけるメディア・コンテンツ企業グループで、今回の危機はJTBCだけの問題にとどまっていない。

JTBCのデフォルト後、グループの持ち株会社である中央ホールディングスをはじめ、放送事業を行うコンテントリー中央、映画館事業を行うメガボックス中央、不動産賃貸業を手がける中央P&Iも相次いで民事再生手続きを申請した。

ソウル回生裁判所は、6月23日にJTBCと中央グループ系列会社の代表者審問を開く予定だ。裁判所は各社の財産・負債状況、申請の理由などを確認し、民事再生手続き開始の可否を判断することになる。

北中米ワールドカップの中継権を抱えるテレビ局が、ワールドカップ本番のさなかに経営危機に直面しているわけだ。

今回の事態は、韓国メディア産業の厳しい現実を映している。

テレビ広告市場は縮小し、視聴者はNetflixなどのOTTへと流れている。ドラマやバラエティなどのコンテンツ制作費は上がり続け、放送局の収益モデルは以前ほど安定しなくなった。

そのなかでJTBCは、大型スポーツ中継権を確保し、再販売することで突破口を開こうとしたとみられている。だが、それが逆に大きな負担になったという指摘が出ている。

韓国メディアによると、JTBCは北中米ワールドカップの中継権を1億2500万ドル(約200億円)で取得したとされる。一方で、KBSに販売した中継権料は140億ウォン(約14億円)にとどまったという。

もちろん、ワールドカップはテレビ局にとって大きな注目を集めるコンテンツだ。韓国代表が出場し、国民的関心も高い。しかし放送広告市場が以前ほど強くないなかで、巨額の中継権料はそのまま財務負担としてのしかかる。

記者懇談会
(写真提供=OSEN)5月21日に行われたJTBC「2026 FIFA 北中米ワールドカップ」記者懇談会

中央グループ側は、北中米ワールドカップ中継を含む本来の業務は中断なく正常に運営すると説明している。しかし、民事再生手続きというニュースが重なったことで、W杯中継を抱えるJTBCへの不安は一気に高まった。

『梨泰院クラス』を生んだテレビ局

日本において、JTBCの名前は決して遠いものではない。

日本でも大ヒットした韓国ドラマ『梨泰院クラス』を放送した局だからだ。同作は日本で『六本木クラス』としてリメイクされ、韓国ドラマの影響力をあらためて印象づけた作品でもある。

JTBCはこれまで、ドラマの分野で数多くの話題作を送り出してきた。『夫婦の世界』『SKYキャッスル』『財閥家の末息子』など、韓国ドラマ好きに知られるヒット作を抱える。韓国ドラマのグローバル化を語るうえでも、JTBC系のコンテンツ制作力は大きな存在感を放ってきた。

そのため今回の経営危機は、ドラマ業界にも波紋を広げている。

『梨泰院クラス』
(画像提供=JTBC)『梨泰院クラス』

韓国メディア『NEWSIS』は、「JTBCの流動性危機が長期化する場合、ドラマ制作本数の減少による市場の縮小はもちろん、資金の流れにも影響を与える可能性がある」と報じている。

同メディアはさらに「外注制作会社の場合、未払い制作費が民事再生手続き上の債権に分類される可能性があり、弁済の時期と規模が不透明になる恐れがある」と伝えている。

韓国ドラマの人気は今も高い。だが、その裏側で制作費は膨らみ、放送局や制作会社の負担は重くなっている。JTBCの問題は、単なる一局の経営難ではなく、韓国コンテンツ産業の構造的な苦しさも示している。

「崔順実ゲート」を暴いた“信頼のメディア”

JTBCには、もうひとつ大きな顔がある。報道機関としての存在感だ。

同局を韓国社会に強く印象づけたのが、2016年の崔順実(チェ・スンシル)ゲート報道だった。

当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領の演説文などが、民間人の崔順実氏に事前に渡っていた疑惑をめぐり、JTBCは崔順実氏のPCファイルを入手し、その内容を報じた。

この報道は、朴槿恵政権を大きく揺るがす決定打のひとつとなった。疑惑は韓国社会全体を巻き込み、最終的に朴槿恵大統領は罷免へと追い込まれた。

JTBCのニュース
(写真=スポーツソウル日本版編集部)朴槿恵大統領の弾劾決定を報じるJTBCのニュース

当時のJTBCは、権力を追及するメディアとして圧倒的な存在感を示した。2017年には、英ロイター・ジャーナリズム研究所の「デジタルニュースリポート」で、韓国で最も信頼されるメディアブランドに選ばれたこともある。同報告書は、JTBCが朴槿恵元大統領の弾劾関連ニュースを継続的に報じ、ニュース利用者の満足度を高めたと分析していた。

つまりJTBCは、『梨泰院クラス』のようなドラマを送り出すエンタメ局であり、チェ・スンシルゲートを暴いた報道機関でもあり、さらに北中米ワールドカップの中継権を抱えるスポーツコンテンツの担い手でもある、“名門”といってもいいテレビ局だ。

その名門局が今、デフォルトと民事再生手続きの申請という事態に直面している。

もちろん、民事再生手続きの申請は直ちに放送停止や破産を意味するものではない。JTBC側も、ワールドカップ中継など本来の業務は正常に運営されると説明している。

それでも、かつて「韓国で最も信頼されるメディア」と評価された局が、いま債務不履行と民事再生手続きの局面に立たされている事実は重い。

大統領を揺るがしたテレビ局が、今度は自らの経営危機で揺れている。

JTBCの異変は、テレビ、ドラマ、スポーツ中継のすべてを飲み込む韓国メディア産業の変化を象徴しているのかもしれない。

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