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「日本最高!」と叫ぶ政治家の横で「助けてください!」と訴える母親――異様な人間ピラミッドが描く“日本社会の歪み”【映画『NEW GROUP』レビュー】

  • 2026.6.15

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6月12日より『NEW GROUP』が劇場公開中。本作は第1回日本ホラー映画大賞で大賞を受賞し、その長編化作品『みなに幸あれ』で商業映画監督デビューを果たした下津優太監督による劇場公開第2作。モチーフとなっているのは「組体操」だ。

「ホラーで組体操ってどういうこと?」と誰もが困惑するような設定ではあるが、それが「社会の歪(ゆが)み」を示し、さらに「アツいメッセージ」にもつながっていることが重要だった。

※以下『NEW GROUP』の重大なネタバレを避けつつ、一部内容に触れています。

「こんなことになる⁉」冒頭から「社会の歪み」を誇張した描写のオンパレード

本作は「こんなことになる⁉」と良い意味で呆れる極端な場面が多く、「ホラーと笑いは紙一重」的なブラックコメディーとして捉えられる内容でもある。

たとえば、冒頭からマスコミたちが不倫をしたタレントへ直撃して「謝罪とかいいから答えろよ!」と言ったり、政治家たちが肩車をして「日本最高!」と練り歩く横で赤ちゃんを抱いた母親が「助けてください!」と叫んだり、女子高生たちが「うちら優勝!」とはしゃいでいる側で倒れていたおじさんが蹴られて「ありがとうございます!」と感謝したりする。

早くも好き嫌いが分かれそうなクセが強すぎる描写ではあるが、ここから「現実の社会の歪みを誇張して描く作品なんだな」と頭を切り替えて見るのがいいだろう。ピエール瀧演じる校長が後半で演説する、あまりにあんまりな言葉の数々にも「何言ってんだあんた」などと良い意味でツッコミつつ楽しんでほしい。

なお、PG12指定の理由は「教師による理不尽な体罰の描写がみられる」というもの。直接的なグロさはかなり抑えられてはいるものの、出血や暴力の場面がわずかにあるほか、精神的な負荷を与えるシーンはそれなりにあるので、ご留意の上でご覧になってほしい。

9段までは本物の人間ピラミッドを組んでいた

あらすじを紹介しよう。高校の校庭で突如として生徒が四つん這いになり、その横にまた四つん這いで並ぶ生徒が続出し、やがて「人間ピラミッド」を形成していく怪現象が発生。引っ込み思案で家族に問題を抱えている女子高生の愛(山田杏奈)と、集団行動になじめずにいた転校生の優(青木柚)は、さらなる事態に翻弄され続けるのだが……。

何しろ強烈なインパクトとなるのは、やはり人間ピラミッドが徐々に積み重なっていく光景だ。下津監督は「極力CGに頼らない、実際の人間の肉体で実現できるギリギリの線まで狙いたい」と考えたため、日本でも群を抜いて身体能力の高い若者集団を擁する「日本体育大学」へ相談。安全を考慮し、一部基礎に平台を支えとして入れてはいるものの、実際に9段の高さまでを出演者たちが組んだ人間ピラミッドからは、「本物」の威圧を感じられるだろう。

その後の何十段にも及ぶ高層人間ピラミッドはさすがにVFXによるものだが、そちらもメインキャストおよびエキストラたちの全身スキャンデータを取り込み、一人一人が誰かわかるようになっているのだそうだ。それらの本気の人間ピラミッドの作り込みの甲斐がある、終盤の誰もが驚愕するであろう、「こんなの見たことない!」な画にも期待してほしい。

日本体育大学の協力で誕生した「渡り廊下の集団」の動きの異様さ

さらに、劇中では人間ピラミッドとは別に、「学校の渡り廊下で主人公たちを襲う集団」も登場する。こちらも日本体育大学の先生の指導のもと、生徒に演じてもらいながら「集団がどんな奇怪な動きをするか」を決めていったそうで、そのおかげで誕生した「蛇」のような集団の動きは怖いと同時にシュールでもあり、本作が「笑ってしまう」理由の1つになっている

余談だが、現実では2016年に「人間ピラミッド」や肩の上に立つ「タワー」による事故が年間8000件超にも及ぶ影響を鑑みて、東京の都立高校ではそれらの種目を原則として休止し、さらに高さの制限を設ける自治体が相次いだこともある。劇中のような高層人間ピラミッドはもちろん、蛇のような集団の動きも、安易にマネをしないほうがいいだろう。

「同調圧力に屈するな!」というアツいメッセージ

その人間ピラミッドは、後述する通り下津監督自身が「思考停止した日本社会の象徴」と語っている。また、渡り廊下での異様な動きはシンプルに「集団の恐ろしさ」を示していると考えていいだろう。集団を「一致団結」「個ではない全の力」と表現すれば聞こえはいいが、劇中では「みんながその集団の一員になる理由がわからない」異様さと不可解さを抽出しており、それは多くの人が「実は思い当たる」恐怖でもあると思うのだ。

社会や学校におけるルールの多くはもちろん集団生活を円滑にさせるために必要なものではあるが、「どう考えてもおかしかったり間違っていたりするのに、みんなが従っている」ことに違和感を覚えた経験はないだろうか。その違和感があっても、自分もつい迎合してしまったりしないだろうか。

劇中の主人公の女子高生の愛は、文化祭の出し物の最後の一票を側にいた男子生徒の要望で投じたことで「チッ」と舌打ちをされたりもする。それらもまた、「ついつい周りに迎合してしまった」がゆえの歪みであり、本気で精神が疲弊する人もいるだろう。理由がわからないまま発生した人間ピラミッドは、その歪みの延長線上にあると言える。

実際に下津監督はかなり厳しい校則で管理された高校生活を送ったようで、「今思うとあれは一種の洗脳だったのではないかとすら思う」と語っている。これまで劇中の描写が極端だ、誇張していると記してはきたが、根本となる問題はやはり「現実にある」と断言していい。

では、その集団の恐怖に立ち向かうためにどうすればいいか。その問いに対する具体的な答えはぜひ本編を見てほしいので控えておくが、「もはや少年漫画」な展開があったこと、その先に「同調圧力に屈するな!」というような、アツいメッセージが確実に込められていたことは告げておこう。

劇中のように同調圧力のために「本心を言えずにいた」「本当にしたいことができない」苦しみを抱えている人にとって、そのメッセージは福音になるのかもしれない。

私とあなた、私たちの物語である

実際に下津監督は、タイトルに込めた思いについて「この映画は、山田杏奈さん演じる愛(I)と青木柚さん演じる優(You)の物語である。つまりは私とあなた、私たちの物語である。人間ピラミッドは思考停止した日本社会の象徴。垂れ流される情報を鵜呑みにするのではなく、目を覚まし、自分の頭で考えて行動する集団(NEW GROUP)ができることを願って、希望を込めてつけました」と語っている。

その通り、『NEW GROUP』は、実は個人の「意志」を讃え、希望を投げかける作品でもあるのだ。

その「私」であり、この映画を見ている観客そのものと言える主人公を演じた山田杏奈が素晴らしい。これまでも『ミスミソウ』『樹海村』などのホラー作品でも鮮烈な印象を与えていた彼女は、可憐なルックスながら物憂げな表情も実に上手く、悩みをずっと内に抱えているが、それ以上の強い意志を感じられる今回の役にベストマッチだった。

また、「あなた」役である青木柚も、『うみべの女の子』や実写版『秒速5センチメートル』などのダウナーな役での実績を積み重ねたからこそ、今回の山田杏奈との最高の相性を見せていた。

そんなわけで、『NEW GROUP』は「笑ってしまう」画や展開が満載のブラックコメディーでありつつも、「本気で精神に来る」タイプのホラーでもあり、「もはや少年漫画」のようなアツい展開とメッセージも用意されているという、様々なジャンルをトッピングした「特盛」の面白さがあった。ぜひ劇場で見届けてほしい。

文=ヒナタカ

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