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買ってあげたい/【吉澤嘉代子 エッセー連載】ルシファーの手紙#17

  • 2026.6.10

夢の国で、私は焦っていた。楽しみにしていた被りもの選びが終わらない。まるで悪い夢をみているように、どれもしっくりこないのだ。

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数年振りのディズニーランド。醍醐味の一つといえば、キャラクターアイテムを身にまとい、浮世離れした姿でパークを闊歩することだろう。事前にネットで全ラインナップをチェックし、お目当てをスクショ。朝一番に入園し、ショップを見つけては手当たり次第に吟味を続けた。

それなのに、人々が続々とカチューシャなりヘアバンドなりを手に入れる中で、私だけがお気に入りを選びきれないでいる。被りものは自分という人間を示す決意表明のようにも思えてきた。アイデンティティと言ってもいいのではないか。どれを選ぶかでどう見られるかが決まってしまう気持ちにすらなっていた。とうとう日が傾きはじめた園内で、私はまだ私を見つけられずにいた。

新設されたエリアで、ピーターパンのアトラクションに乗った。ぐらんぐらんと揺れる乗りものに振り回される身体。少し酔いながらも、最新のテクノロジーに感動していた。するとラストシーンで、引っ叩かれたような衝撃が走る。

引用----

「いつまでも子供のままでいてね!」

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ピーターパンが、こちらへ向けてまっすぐとそう言ったのである。その瞬間、目頭が熱くなり、大粒の涙があふれた。あの頃、自分の初潮が憎かった。私だって子供のままでいたかった。でも、子供のままではいられなかったんだ。誰だって準備ができないまま大人になる。

子供の頃、どこかへ遊びに行くたびに、両親は一つだけお土産を選ばせてくれた。どれにしようか迷う時間も、袋を提げて帰る時間も幸せだった。私はあの幸福を再演したかったのかもしれない。

アトラクションを降りたあとも、しばらく動けなかった。すっかり夜の帳が落ちた園内で、やがて胸の奥からふつふつと燃えあがるものを感じる。私はまだ、被りものを諦めていなかった……。

この際なんでもいいし、自分らしさも求めない。一つでなくてもいいし、いくつ買ってもいい。兎にも角にも、買ってあげたいのだ。あの頃の私に、何かを。どうしても。

閉園を告げる音楽が流れはじめる。私は血走った目でお土産を見て回る。ポシェットでも、ぬいぐるみでもいい。買ってあげるから、選んでくれ。

店にはキャラクターたちが同じ顔で並んでいる。どれも可愛くて、どれも決め手に欠けていた。商品を手に取るたびに、明日からほんとうに使うのか、部屋のどこに置くのか、という邪念が湧いてくる。今だけは黙っていてほしい。どれだけ言い聞かせても、必要性を問う声は消えない。

結局、何も買えなかった。子供の頃の自分に何かを買い与えたい、この気持ちを形にして抱きしめたかっただけなのに。私の腕は空を切り、手ぶらのまま園をあとにした。

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