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朝ドラ【風、薫る】「寂しくて、嬉しいです」に見えたりんの成長、直美の“嘘”も気になる

  • 2026.6.1

朝ドラ【風、薫る】「寂しくて、嬉しいです」に見えたりんの成長、直美の“嘘”も気になる

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。近代看護界の先駆者となった2人の女性を主役とする物語。「風、薫る」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

「寂しくて、嬉しいです」と返事する

週5本の放送で半年間を紡ぐ朝ドラの世界では、その週(または週またぎ)ごとにさまざまなクエストをクリアしながらメインストーリーを紡いでいくことは珍しくない。主人公が働くうえで新たな難題が降りかかったり、トラブルメーカー的な新しいキャラクターにとまどったりしながらも、それらを解決していくことで一歩ずつ成長していくような流れだ。

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる・中央公論新社)を原案とし、見上愛・上坂樹里の二人が明治時代を駆け抜けたトレインドナースをダブル主人公として描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』の第9週「看病婦とアメ」は、前週の大きな〝クエスト〟であった和泉侯爵夫人の千佳子(仲間由紀恵)の心をりん(見上愛)がほどき、乳がんの手術を決意するところから幕を開けた。

地位もプライドも高い千佳子であるからこそ抱える孤独や不安。それを涙を流しながら告白するところに、りんとの距離がここまで近くになっているのかと実感する。
「私は手術室でもずっとおそばにいます」
と告げ、一人ではありませんと千佳子を勇気づける。寄り添い孤独を解消する。そんなりんの凛々しさは、すでに立派な看護師としての顔つきのようである。

手術は無事成功し、千佳子はやがて退院する。千佳子はりんに、また会いたいけれど会わないほうがいいわよねと冗談混じりに礼を言う。そんなりんは、
「寂しくて、嬉しいです」
と返事する。

これこそ、看護婦見習い早々に「下女」呼ばわりをするなどりんの前に立ちはだかった「クエスト」のような存在だった厄介な入院患者・園部(野添義弘)とのやりとりで学んだ、患者が回復し退院していくことが一番だということそのものである。バーンズ(エマ・ハワード)から言われた「看護は仕事であり奉仕ではない」という教えももちろんそこにある。りんが千佳子に笑顔で答えたこの返事こそ、看護を学びその真髄にりんが近づいたことを実感できるやりとりであった。

さて、手術は無事終わったものの、りんは自身でも言う通り千佳子の手術では実際にそれを見ていただけである。今週クローズアップされるのが、千佳子の手術の際に医師の介助役を着々とこなしていたベテラン看病婦のフユ(猫背椿)の存在である。

りんは、フユの働きぶりを見て、寄り添ったり清潔を保つだけでない、技術による看護、手術介助についていろいろ教えてもらおうと願うが、「お金をくれたらね」と、見返りに金銭を要求される。
「看病婦と見習い生の間に吹く風は、荒れ模様」
と、研ナオコの語りで言われていた通り、千佳子が退院したあとの新たな「クエスト」が、フユの存在と解釈して差し支えないだろう。

「なんかじゃありません!」と二人は言い返す

フユは、子供は奉公に出し、夫の康介(じろう)はけがのために働けない状態で伏せっていることを告げ、本当なら看病婦として他の患者をみるのではなく、夫の看病をしたい。それでも生きるために働かなければならない、将来のためにやっている見習い生たちとは立場が違うことを強めにぶつける。

りんと直美(上坂樹里)は、時間の合間に康介のもとを訪れ、康介を看護する。
「なんかじゃありません!」
看病婦の仕事を「なんか」と言う康介に二人は言い返す。フユと康介夫婦の心に歩み寄ることで、りんと直美は解決へと向かう。

たとえば、現状で歩行も困難なことからトイレも我慢し水分をとらないようにしているなどが分かる。これは観察するという、りんたちが学んだ看護の初歩そのままの発見である。康介は康介なりのフユへの気づかい、申し訳なさを抱えていることをりんと直美に告げる。そして、りんと直美は、飴を康介へのお見舞いとして持参する。甘くて日持ちする飴はきわめて適切だ。この飴の甘い味が看病婦たちにも配られたことでフユ夫妻、看病婦たちとりんたちの間の何かを少しずつ溶かしていく。

「君の仕事は『なんか』なんかじゃないって」
こう康介はフユに言って笑った。本当の意味での「看護」によって、少しずつ目の前の相手の態度や心情が変わっていく。クエストクリアを感じる瞬間だ。

「飴よろこんでた、主人が。ありがとう」
少し照れくさそうにそっけなく感謝をつたえるフユ、いい場面である。そして、フユに教わりながら少しずつ手術介助を学んでいく。

「この仕事はね、家事だと思ってやらないと間違えるよ」
このフユの言葉の真意はどこにあるのか。この先、「間違える」ことも予想されそうな気になる一言ではある。

そんな見習い生と看病婦という対比の構図は、りんとフユの個の話ではなく少しずつ違いが近づいていくところを、小さな描写を重ねていくことで描かれていく。

たとえば、看病婦のヨシ(明星真由美)がガーゼを鮮やかに切ることに、「すごい! ヨシさん呉服屋で働けますわ」と、見習い生のひとり、しのぶ(木越明)が感心する。それについて「馬鹿にしてんの」と言うヨシに、しのぶは自分は呉服屋の娘だと説明する。

「金持ちの子か」
そういうヨシの言葉に、
「はい、むしろ金持ちの子が同じ仕事をしていることを認めてほしいですわ」
ときっぱり返すしのぶ。思わず笑ってしまう切り返しだが、これもまた、相当な距離の縮まりを感じさせてくれるやりとりである。

それらを少し離れたところから見つめていたバーンズは、
「変わっていましたね」
と少し感慨深そうに見習い生たちの成長を実感したように伝えた。さまざまなクエスト、経験を重ねながら、一歩ずつ自立したトレインドナースへの道を歩いているりんたちである。

ところで直美はどうなのか。手術介助に参加しないことを「不器用だから」という明らかな嘘をついて別のアプローチで看護の道を切り開いていく一方で、生みの母の存在に近づいていくというクエストをこなしているところだ。寛太(藤原季節)を通じて手がかりに迫る。

直美がそこまで強くこだわりを見せる理由を、看護を学んできたことで考えが変わってきたと言う。自分を産んだ母の顔を見て、自分と向き合いたいのだと。これが直美が個人的に解決しなければならない大きなクエストである。この先大きな山場が来ることは明らかであり、そこで直美がどう向き合い、成長またはもしかしたら挫折や絶望につながっていくのか。気になる部分である。

見習い生たちの奮闘はつづく。

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