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25年前、月9の夜にそっと流れた“名前を知らない名曲” のちに名を馳せる歌い手の“知られざる第一歩”

  • 2026.6.22

2001年の春。フジテレビの月9枠では、江角マキコ主演の『ラブ・レボリューション』が放送されていた。恋と仕事のあいだで揺れる大人の物語の、ふとした場面に、そっと寄り添う一曲があった。主人公の心が静かに動くとき、画面の奥でミディアムバラードが流れ出す。タイトルも歌い手の名前も覚えていない。それでも旋律だけは、なぜか今も胸のどこかに残っている。そういう曲だ。

その声の主は、唐沢美帆。当時17歳。のちにアニメソングの世界で「TRUE」として広く知られていく歌い手の、ほとんど語られることのない原点が、この一曲にある。

唐沢美帆『Way to Love』(作詞:唐沢美帆/作曲:Sin)ーー2001年5月30日発売

名前は消えて旋律だけが残った

月9という舞台は、華やかな主題歌で記憶されることが多い。誰もが口ずさめるサビ、ドラマの顔となる一曲。だが挿入歌は違う。物語の隙間に流れ、誰の歌とも意識されないまま、場面の感情だけを連れて記憶の底へ静かに沈んでいく。『Way to Love』は、まさにその位置にいた。

恋の戸惑いや、人と人との距離をめぐるドラマの空気に、声を張らないミディアムバラードがちょうど重なる。セリフが途切れた数秒、登場人物が窓の外へ目をやるような場面で、この旋律はいちばん雄弁になった。当時テレビの前にいた人の多くは、曲名を確かめることもないまま、この旋律を心のどこかへ置いていったはずだ。

名前を知らないのに、旋律だけは覚えている。それは曲の弱さではなく、場面に深く溶けきったことの証に映る。挿入歌として記憶に残ること。それは、ある意味で主題歌よりも難しい仕事を、この曲が静かにやり遂げていたということでもある。

歌う人が言葉も手にした最初の一歩

この曲には、もう一つの顔がある。唐沢美帆が初めて自ら詞を書いた作品なのだ。1999年に歌い始め、翌年にデビューしたときの曲は、別の作詞家の手によるものだった。3枚目にあたる本作で、唐沢美帆は歌うだけでなく、言葉を綴る側にも立った。

10代の手で綴られた言葉は、背伸びも気負いもない。難しいレトリックで飾るのではなく、その年齢でしか書けない素直さで、メロディにすっと乗っていく。気持ちを飾らずそのまま差し出す。そのてらいのなさが、曲全体の透明感をいっそう深くしている。

のちに作詞家へと軸足を移し、歌い手TRUEとして長く表現を重ねていく人の、いちばん最初の一歩が、ここに記されている。歌う人が言葉も手にした瞬間を、原点と呼ばずにいられない。自分の声で、自分の言葉を歌う。当たり前のようでいて、これほどまっすぐ人の胸に届く形は、そうあるものではない。

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唐沢美帆-2002年4月撮影(C)SANKEI

音数を絞り、声に芯を残す設計

曲を作り上げたのはSin(橋本しん)。国立音楽大学のピアノ科を首席で出た作り手で、本作では作曲と編曲を一手に担っている。

派手な仕掛けはどこにもない。ピアノの和音を芯に据え、そこへストリングスがゆっくりと熱を足していく。音数を絞ったミディアムバラードは、はじめから17歳の声を前に押し出すための設計になっている。

イントロが鳴った瞬間に、もう曲の温度が決まる。声を張り上げず、語りかけるように歌い出すAメロから、感情がふっと持ち上がるサビへ。その移り変わりのなかで、まだ幼さの残る声が、ある一点で確かな芯を持つ。技術で押し切るのではなく、迷いごと差し出すような歌が、聴く者の警戒をそっと解いていく。

サビの旋律もまた、無理にドラマを作ろうとしない。なだらかに上がって、すっと引く。泣かせにかかる派手な転調も、耳を奪う仕掛けもない。その淡々とした美しさが、かえって聴き手の感情をゆっくりと温めていく。何度か耳にするうちに、ふとした拍子にこの旋律が口をついて出る。大きな音で殴らない曲ほど、長く心に居座るものだ。『Way to Love』は、まさにそういう居座り方をする一曲だった。

Sinには、もう一つの縁がある。1996年の月9『ロングバケーション』での『CLOSE TO YOU〜セナのピアノⅡ〜』の演奏をしたピアニストでもあるのだ。あの作品でピアノを響かせた作り手が、5年後にまた月9の場面を彩る一曲を書く。表には出ない縁が、この曲の背景に静かに流れている。挿入歌としての佇まいの良さは、ドラマの音楽を知り尽くした手つきと、決して無関係ではないはずだ。

時間を味方につけて広がった居場所

この曲は、長い時間をかけて少しずつ聴き直されてきた。2010年にはSoulJaがサンプリングを軸に新しい形で蘇らせ、若い世代がそこから原曲へとたどり着いた。2021年には7インチのカラー盤として復刻もされている。

その長い歩みの出発点に、17歳の声と、初めて書いた言葉がある。きらびやかな数字ではなく、ひとりの歌い手がまさにここから始まったという事実こそが、この曲をいつまでも古びさせない。名前を覚えられなくてもいい。あの月9の夜にそっと流れていた17歳の声は、いま聴き返しても、最初に胸を温めたときの体温を、そのまま取り戻す。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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