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32年前、クイズ番組のエンディングに流れていた全力疾走曲 聴き込んだ人ほど「いちばん好き」に挙げるワケ

  • 2026.6.19

タイトルに「SILENCE」と置かれている。沈黙、静けさ。そう身構えて再生すると、最初の数秒で予想は気持ちよく裏切られる。流れ出すのは、疾走するシンセと貴水博之のまっすぐなハイトーンだ。静けさを約束する名前の下で、実際に走り出すのは華やかでダイナミックなダンス・ポップである。この名前と中身の振れ幅こそ、この曲のいちばんの仕掛けだ。

accessが1994年に放った一曲。デジタルの推進力で駆け抜けてきた二人が、静を冠した曲でいちばん速く走る。その心地よい矛盾から、この曲は始まる。

access『SWEET SILENCE』(作詞・作曲:AXS)ーー1994年5月25日発売

静けさを名乗る曲が、全速力で走る

アップテンポで、隙がない。シンセで一面に敷き詰めた音像のうえを、きらきらした効果音が横切っていく。キャッチーなメロディが体を前へ押し出し、立ち止まる隙を与えない。「沈黙」という言葉から思い浮かぶ静止とは、まるで逆の運動量である。

1994年は、打ち込みのダンス・ポップが日本の真ん中で鳴っていた時代だ。そのなかでもaccessの音は、生楽器の手ざわりよりも、電子音の輪郭の鋭さで勝負していた。ボーカルの貴水博之と、音を組み立てる浅倉大介。歌う人と作る人がくっきり分かれたデュオだからこそ、トラックはどれだけ攻めても、歌は歌としてまっすぐ立っていられる。攻めたサウンドと、すっと入ってくる聴きやすさ。本来は両立しにくいその二つを、この分業が同時に成り立たせている。

この曲で走るのも、緻密に積まれた電子音の推進力だ。冷たいはずの機械の音が、これほど高揚するのはなぜか。答えは、音を盛るのではなく、走らせる方向へすべてを揃えているからである。一音ずつが前を向き、隙間がない。だから速く、そして明るい。きらめく効果音も、ただの飾りではない。疾走するトラックのところどころに散らされた電子のきらめきが、無機質になりがちな打ち込みに表情を添える。

同じ日に出た3枚目のアルバム『DELICATE PLANET』も、電子音で組み上げた近未来的な手ざわりの一枚で、その質感はこのシングルにもそのまま流れ込んでいる。冷たい音の素材を使いながら、出てくる温度はあくまで華やか。そのねじれが、accessというユニットの個性そのものだ。

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浅倉大介-1995年8月撮影(C)SANKEI

電子の壁を、声が一本で抜ける

この曲のいちばんの聴きどころは、貴水博之の歌だ。とりわけBメロからサビへ駆け上がる瞬間、声がひと息に高さを変える。電子音の壁のなかで、その輪郭だけが人間の体温を残し、メロディを前へ前へと運んでいく。

ハイトーンを見せつけるための歌ではない。速いトラックに振り落とされるどころか、波に乗ってひと回り大きく響く。声が伸びるたびに曲の視界がひらける、その開放感が気持ちいい。サビでまっすぐ抜けていく高音は、ともすれば硬くなりがちな電子サウンドのなかで、唯一やわらかく光る部分だ。

機械の精密さと、生身の声の伸び。その二つがぶつかる場所に、この曲の核がある。キャッチーなメロディは、それを歌う声が信じきってはじめて、本当にキャッチーになる。貴水の歌には、その確信がある。一度通り過ぎたサビが、気づくと頭のなかで勝手に回り出す。派手な仕掛けに頼らず、メロディと声の角度だけで残っていく。その素直な強さが、この曲を長く手放せなくする。

踊らせる音楽でありながら、ひとりで聴いても豊かに鳴る。フロアの高揚と、ヘッドフォンのなかの没入。その両方に応えられるのは、トラックの勢いと歌の芯が、どちらも手を抜いていないからだ。速い曲はとかく勢いだけで押し切りがちだが、この曲は最後まで歌を聴かせることを忘れない。

モラルの壁さえ崩れてしまいそうな曲

1994年のaccessは勢いの頂点にいた。この曲と同じ日に出たアルバム『DELICATE PLANET』は、二人にとって初めての1位を記録している。世に出るものすべてが手応えを返してくる、そんな時期のただ中で鳴らされた一枚だ。

翌年には二人がいったん活動を休むことを思えば、全力で駆けていた時間の真っ只中に置かれた一曲でもある。誰もが真っ先に挙げる最大の代表曲、という顔ではない。それでも、聴き込んだ人ほど「いちばん好きなのはこれ」と名前を挙げたくなる。派手な看板ではなく、手元で何度も鳴らすうちに離れがたくなる種類の一曲である。

ちなみにこの曲は、フジテレビ系『なるほど!ザ・ワールド』エンディングテーマとしても流れていた。メロディだけ覚えている人も多いはずだ。ただ、この曲の値打ちはそこにはない。番組のために用意された音ではなく、access自身が全速力で鳴らした音が、結果として茶の間にも残ったというだけのことだ。タイトルの静けさとは裏腹に、この曲はずっと走り続けている。

聴くたびに、その速さへ引き戻される

静かな名前を持ちながら、再生した瞬間に一気に走り出す。その落差を面白がれるかどうかで、この曲の見え方は大きく変わる。タイトルの予告をくつがえす速さに一度つかまると、なかなか抜け出せない。

accessというユニットが何でできているかを、これほど素直に教えてくれる一曲もない。緻密に組まれた電子音と、その上を迷わず駆けていく声。作る人と歌う人がまっすぐ手を結んだとき、機械の音はこんなにも遠くまで気持ちよく走っていく。

速さのなかにちゃんと歌があるから、何度かけても聴き飽きない。沈黙という名前を掲げながら、誰よりも軽やかに鳴り続ける一曲だ。名前にだまされて聴き流すには、あまりに惜しい。そう言いたくなる速さが、ここにある。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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