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「鉄道運賃が突然6倍に!?」W杯の価格騒動と、日本の通勤ラッシュに潜む“逆ダイナミックプライシング”の矛盾

  • 2026.6.24
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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

皆さま、こんにちは。現役鉄道会社社員の福本明文です。

北米3カ国でのサッカーW杯(ワールドカップ)が開幕し、熱戦が繰り広げられています。そんな中で波紋を呼んだのが、開催国アメリカにおけるスタジアムへのアクセス鉄道の大幅な運賃引き上げのニュースです。

航空券やホテルなどで馴染みのある、需要に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」ですが、なぜ日本の鉄道ではあまり見かけないのでしょうか。その現状とこれからの運賃のあり方について考えていきます。

W杯開催地の運賃騒動

サッカーW杯の試合会場の一つであるアメリカ・ニュージャージー州のメットライフ・スタジアム(ニューヨーク・ニュージャージー・スタジアム)へ、ニューヨークのマンハッタン中心部にあるペンシルベニア駅からのアクセスを担う鉄道のニュージャージー・トランジットで、驚きの価格設定が発表されて話題となりました。

通常12.9ドル(約2,000円)の運賃を、試合開催時には警備コストの回収などを理由に、当初約12倍の150ドル(約24,000円)に引き上げると発表したのです。これに対して激しい反発が起きた結果、公式リリースにて、広告やスポンサーシップなどの施策により98ドル(約15,000円)へ値下げされることが発表されました。それでも通常時と比べれば約7.5倍という極端な値上げであり、現地でも困惑と議論が広がっています。

日本の鉄道における現状と「逆」の矛盾

需要が高まるハイシーズンや混雑時に価格を上げ、オフシーズンに下げる仕組みを「ダイナミックプライシング」と呼びます。日本では航空券やホテルなどで広く導入されていますが、鉄道では一部にとどまっています。

例えば、JRの指定席特急料金は「最繁忙期」「繁忙期」「通常期」「閑散期」の4段階に分かれており、通常期を基準に最繁忙期はプラス400円、繁忙期はプラス200円、そして、閑散期はマイナス200円となっています。しかし、航空券のような数倍に跳ね上がるような大きな価格差ではありません。

普及が進まなかった背景には、鉄道運賃が国土交通省の認可制であることが挙げられます。さらに矛盾しているのが定期券の存在です。鉄道で最も混雑する通勤ラッシュ時間帯に利用しているのは、大幅な割引が適用された定期券ユーザーが大半です。需要が最も高い時間帯に最も安い運賃で乗車しているという、いわば「逆ダイナミックプライシング」の状態が伝統的に続いてきました。

変わりゆく制度と「オフピーク定期券」

国の認可運賃だからダイナミックプライシングはできないと思われがちですが、実は近年、この状況にも変化の兆しが見られます。

その代表例が、JR東日本などで導入が始まった「オフピーク定期券」です。これは国の制度改正(運賃制度の弾力化)などを背景に、ピーク時の定期券を値上げする代わりに、ラッシュ時を避けて利用するオフピーク定期券を安くするというものです。これは実質的な時間帯別運賃であり、現行の認可制度の中でダイナミックプライシングがすでに導入され始めていることを意味しています。

公共性と収益向上のバランス

鉄道は生活を支える公共性が非常に高いため、単純に需要があるから極端に割増にするという方針には大きな抵抗感が伴います。冒頭で紹介したアメリカのW杯運賃騒動を見ても、極端な値上げがいかに反発を招くかがわかります。

一方で、通勤ラッシュ時の混雑緩和は鉄道会社にとって長年の共通課題です。適正な運賃設定によって収益性が向上すれば、慢性的な人手不足に悩む乗務員や駅員の待遇改善(賃上げや福利厚生の充実等)や、より安全で快適な設備投資へと還元されることが期待されています。

今回のアメリカのような極端な例は別としても、日本においても今後、利用する時間帯や時期、あるいは大規模なイベントの有無によって鉄道運賃が変動するということが、少しずつ当たり前の光景になっていくのかもしれません。


参考:
FIFA WORLD CUP 2026™ NEW YORK NEW JERSEY HOST COMMITTEE AND NJ TRANSIT ANNOUNCE REGIONAL STADIUM MOBILITY PLAN(ニュージャージー・トランジット公式サイト)
Advertisers, including DoorDash, Audible, FanDuel, DraftKings, PSE&G, South Jersey Industries and New Jersey American Water Offset Ticket Costs by 35%(ニュージャージー・トランジット公式サイト)
シーズン別の指定席特急料金(JR東海)


ライター:福本明文
大学卒業後、鉄道会社に総合職として入社し、同業界に15年以上従事。鉄道部門だけでなく、タクシーやバス、小売りといった関連事業にも幅広く携わる。現在はWebライターとしても、広報を担当した経験を活かし、コラム記事の執筆からSNSへのコンテンツ提供まで多岐にわたって活動中。


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