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19年前、主演1本で“映画賞”を総なめした美少年。男性同士の純愛から落ちこぼれまで…名優の新境地とは

  • 2026.7.7
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2017年3月、映画『しゃぼん玉』初日舞台挨拶に参加した林遣都(C)SANKEI

俳優の振れ幅は、たいてい役の種類で語られる。シリアスとコメディ、善人と悪人、現代劇と時代劇。引き出しの多さこそ実力の証だとされる。

林遣都の振れ幅は、そこが少し違う。種類の多さではなく、一つひとつの役の中身で測られる俳優だ。同じ顔のまま、画面に別の人格を一人乗せていく。次の役では、その上にまた別の誰かを重ねる。そうやって層を厚くしてきた人だ。重ねて背負う男。それが、林遣都の現在地である。

真ん中で背負う身体を据える

林のキャリアは、はじめから真ん中に立つ仕事だった。2007年公開の映画『バッテリー』。中学野球の天才投手・原田巧として、林は映画初主演でデビューする。気難しい孤高の投手という、序盤から共感の入りにくい主人公を任され、同年生まれの少年たちが画面の隅で揺れる中、ひとりだけ視線の置きどころが定まっていた。

この1作で、第31回日本アカデミー賞新人俳優賞、第81回キネマ旬報新人男優賞など主要新人賞をほぼ総ざらいする。話題作りの恩恵ではなく、画面の真ん中で物語を引き受けた者にしか出ない種類の評価だ。

新人賞というと、その後に階段を一段ずつ上がる印象がある。だが林の場合は順序が逆だった。真ん中を背負える身体があるとまず証明され、そこから先のキャリアで、何を乗せられるかが試されてきた。スタートではなく土台として、この出発点は効いている。

役名で呼ばれる俳優になる

転機は、それから10年以上を経た2018年に来る。テレビ朝日系『おっさんずラブ』。田中圭演じる主人公・春田創一の同居人で職場の後輩、そして恋仲になる青年・牧凌太を演じた。第22回日刊スポーツ・ドラマグランプリ助演男優賞を受け、社会現象級の話題作の中心人物となる。

注目すべきは、ブレイクの仕方である。この時期から、林は本人名より先に「牧くん」と役名で呼ばれる俳優になった。画面に置かれた別の人格に観客が直接呼びかけてしまう。一人の俳優の身体に、観客が信じ込んだ別人格がもう一人住み始めた瞬間だ。同じ顔のまま他人をまるごと立ち上げる芸の手触りが、広く伝わった転機でもあった。

2024年の続編『おっさんずラブ-リターンズ-』で、林は6年ぶりに牧として帰ってきた。春田と新婚生活を送るパートナーとして、20代の青年がそのまま大人になって画面に戻る。別人格は俳優の経年とともに歳を取れる種類のものだったのだと、続編の存在そのものが証明している。役が抜けないのではない。役が身体に住み続けているのだ。

他人の傷を職務として運ぶ

ブレイク以降、林のもとには性質のよく似た役が続けて届く。職業も時代もばらばらなのに、構造だけがそろっている。

2022年、日本テレビ系『初恋の悪魔』。坂元裕二脚本のもと、仲野太賀とのW主演で、林は停職中の刑事・鹿浜鈴之介を演じた。事件の被害者と加害者と遺族のあいだで、誰のものでもない痛みを引き受けすぎて崩れていく青年だ。関わった人間の温度を身体に溜め続けて停職する難しい人物像を、林は静かな所作と乾いた表情で立たせた。

2025年、フジテレビ系『明日はもっと、いい日になる』。虐待の傷を自身の過去に持ちながら、児童福祉司として家庭の現場に入っていく男・蔵田総介を演じた。痛みを克服した者として救う側に立つのではなく、自分の痛みを抱えたまま他人の痛みに踏み込む。職務として他人の人生を運ぶ役どころが、ここでもう一段更新される。

その合間、2023年のTBS系『VIVANT』では、役所広司演じるノゴーン・ベキ(乃木卓)の若き日を引き受けた。林の身体は、他人の人生の根っこを過去側から支える土台にもなれる。

種類の違う役が並ぶようでいて、どれも他人の過去・痛み・未来を職務として運ぶ性質を共有している。同じ性質の重さが、形を変えて林のもとへ届く。

過去の役のほうから呼び戻されてくる

林の重ね方の凄みが、もう一段はっきり出るのが教場連作だ。2020年、フジテレビ系『教場』。木村拓哉演じる風間公親の第198期教場で、林が演じたのは訓練生・平田和道。教場一の落ちこぼれで、退校生となる役だ。出番は長くないが、画面に残る不穏さは強烈だった。

2026年1月公開の『教場 Reunion』では、退校から6年を経たクリーニング店勤務として再登場し、終盤で物語に波紋を作る。同年2月公開の『教場 Requiem』では、風間への復讐を企てるメインヴィランへと振り切れる。落ちこぼれの訓練生が、6年越しに復讐者として戻ってくる構造そのものが、林を逆方向の振り幅まで引きずり出した。

ここで起きているのは、新作の話だけではない。引き受けてきた役の積み重ねの上に、かつて演じた青年がもう一人加わる。役が他人として届くのではなく、過去の自分の役が呼び戻されてくる。自分が演じてきた役そのものが対象に加わる階に、林は入った。

画面の中でもう一人を運営する

2026年7月、Netflixシリーズ『ガス人間』が配信される。1960年公開の『ガス人間第一号』を、片山慎三監督、脚本にヨン・サンホで現代の配信文化に乗せ替えた日韓共同制作の作品。小栗旬主演のもと、林は広瀬すずと兄妹を組み、都市伝説系チャンネルを運営する動画配信者の兄を演じる。

ここで林に渡されているのは、もう一段ややこしい役どころである。登場人物自身が画面の中で別の自分を演じ、配信者として観客の前に立つ役だ。半世紀以上前の特撮古典を現代に立て直す試みの真ん中で、これまで他人を引き受けてきた俳優の身体に、登場人物が運営する第二の人格まで乗る。階層が一つ増えるのだ。

少年として真ん中を任され、役名で呼ばれる俳優になり、他人の傷を職務として運び、自分の演じた役が時を超えて戻ってくる場所まで来た。その積み重ねの上に、配信者として別の自分を運営する役が加わる。

層が増えるたびに、画面に立つこの人の身体は厚くなっていく。重ねて運ぶこと、それ自体がこの俳優の現在地なのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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