1. トップ
  2. エンタメ
  3. NHK朝ドラ出演から大河まで…ヒット作の“縁”を飾り、現場から指名され続ける「唯一無二の名俳優」とは

NHK朝ドラ出演から大河まで…ヒット作の“縁”を飾り、現場から指名され続ける「唯一無二の名俳優」とは

  • 2026.6.29
undefined
温水洋一-2009年3月撮影(C)SANKEI

役者の評価は、画面に映る時間の長さでは決まらない。一場、長くて二場。それでも、温水洋一が映ったあとと映る前で、画面の温度がほんの少しだけ違う場所に動いている。

テレビで親しまれる「ぬっくん」のやわらかい顔と、舞台で個人賞をさらった本格派の身体。一見すると別ものだが、その二つは同じ一本の足腰に乗っている。その足腰はどこで作られたのか。代表的な仕事を辿りながら読み解きたい。

松尾スズキの相方で身体に入れた受け

宮崎県出身、1964年生まれ。大学4年の時に松尾スズキ主宰の劇団・大人計画に入った。1988年から1994年までの在籍中、松尾とコンビ「鼻と小箱」を組み、若い劇団のなかで身体を作っていく。

ここを単に「劇団出身」で片づけると、温水の核を取り損なう。大人計画は書き手と役者と演出家がほぼ同じ空気のなかにいる場で、決められた台詞を回しながら、相手が次にどう動くかに身体ごと反応していなければ成立しない劇団だった。一人で前に出る訓練ではなく、相手の動きを受けてから自分の出方を決める訓練が、在籍した6年間を通して身体に入った。

1994年、竹中直人のコント番組『竹中直人の恋のバカンス』にレギュラーで入る。コントもまた、相手の振りに身体で応える芝居だ。1998年には安斎肇・村松利史らとオフィス「ワン・ツゥ・スリー」を共同設立する。劇団からコント、独立後の事務所共同創立まで、書類上は三段の経歴に見えるが、身体には「集団のなかで縁の一席を引き受ける」という一本の核が通っている。

後年、テレビでも舞台でも、相手役のささやかな揺らぎを拾って場面の温度だけを一段引き上げる芝居ができるのは、ここで身体に入れた受けの感覚があるからだ。

脚本家が縁に置きたがる身体

長尺のNHKドラマで、温水は規則的に「縁の人」に置かれる。出演履歴を並べると常連の脇に見えるが、読み解くべきは、なぜ脚本家たちが彼を縁に置きたがるのかという現場側の判断のほうだ。

2014年からのNHK連続テレビ小説『マッサン』の中島三郎。マッサンを取り巻く市井の一人として、軽妙さとほのかな哀感を地味に混ぜて運ぶ。出ずっぱりでもなく、声を張るわけでもない。大ごとを抱えていないように見えるその身体が、画面の縁で物語の温度を一段引き上げる。

2016年のNHK大河ドラマ『真田丸』では、武田家親族衆の小山田信茂を演じた。徹底抗戦を主張しながら、最後に主家を見限って織田に走り、その不実を信忠に咎められて処刑される、歴史の縁で踏み外す中間管理職だ。三谷幸喜の集団脚本は、登場人物を膨大に抱えながら、一人ひとりの立場と踏み外し方を細かく差別化していく書き方をする。誰が、どの場面で、どう踏み外すか。その差は台詞の量ではなく、画面に出てきた瞬間の身体の質で決まる。

温水の身体には、大人計画で叩いた受けの感覚と、コント番組で覚えた間合いの軽みが同居している。だから、信茂の不実を、湿りすぎない温度で運べる。彼が画面に出てくるだけで、その先で起きる裏切りの匂いがほんの少し漂うのは、軽みのなかに踏み外す身体を内蔵させているからだ。重く沈ませず、どこか軽さを残したまま縁を踏み外す中間管理職を引き受けられる役者は、そう多くない。

沈黙を引き受ける本格派の足腰

テレビの軽妙さと舞台の本格派が同じ身体に同居していることを、もっとも端的に裏書きしたのが2017年の舞台『管理人』だった。

ハロルド・ピンター作・森新太郎演出。シアタートラムで上演された三人芝居で、温水はデーヴィスを演じている。アストン(溝端淳平)に拾われた老ホームレスが、その兄ミック(忍成修吾)との関係に巻き込まれていく。のちにノーベル文学賞を受けるピンターの代表作で、登場人物が口にする言葉のあいだに、沈黙と間合いがびっしり詰まっている。台詞ではなく台詞のあいだの空白で人物の関係が静かに変わっていく戯曲である。

この舞台で、温水は第52回紀伊國屋演劇賞個人賞を受けた。重要なのは賞を獲ったこと自体ではない。テレビの画面で軽い温度を運ぶ顔と、舞台で長い沈黙を引き受けられる身体が、同じ一つの足腰に乗っていることを、公的な選考が裏書きしたという点だ。

ピンターの戯曲は、台詞を覚えて喋るだけでは成立しない。相手が言葉を発しないその時間に、自分の身体を画面のうえに保ち続けられるか。それは、コント番組のスタジオで相手のアドリブを受けながら自分の表情を成立させ続ける身体と、本質的には地続きの仕事だ。

笑いと沈黙のあいだに差はない。そのことを、温水の身体は劇団とコント番組とテレビの常連席で繰り返し叩いてきた。だからピンターの三角形の真ん中に置かれても、その身体は崩れない。軽みのある俳優が本格戯曲で受賞する筋を、足腰の一貫性が裏で支えている。

現場がまた呼び戻す縁

2025年2月、NHKドラマ『リラの花咲くけものみち』で、温水は北海道の繁殖農家・折原勝喜を演じた。山田杏奈が演じる主人公・聡里が獣医として赴く先で、いのちと向き合う畜産家として最終話の一場の重さを担う役だった。

2026年夏に放送される続編『リラの花咲くけものみち2』に、温水の続投出演が決まっている。前作で置いた縁の手応えを、現場が続編に呼び戻したということだろう。

同じ俳優を続編に置きに来る現場の判断は、トロフィーや受賞歴とは別の次元で動いている。長尺の続編は、本筋の主役を強く立てるために、縁の一席に手応えのある身体を確実に置きたい。その一席を、現場は温水で確信して置いてきた。大人計画とコント番組で身体に入れた受けの感覚を、長尺シリーズの現場が30年以上ずっと頼り続けてきた、その更新がここで一つ起きる。

松尾スズキの相方から始まった足腰は、いまも北の大地の物語の縁で、ちゃんと立っている。そして、そこに立てる俳優は案外少ない。


※記事は執筆時点の情報です

の記事をもっとみる