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6年前、長澤まさみの“息子”に抜擢→新人賞を総なめした「16歳の少年」黒沢清ら名匠たちに愛される“若手”とは

  • 2026.6.21
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2021年2月、第94回キネマ旬報ベスト・テンで新人男優賞を受賞した奥平大兼(C)SANKEI

俳優の魅力は、よく「説得力」と呼ばれる。台詞の言い回し、感情の振り幅、表情の機微。そういう手数の多さで役を信じさせるのが、ふつうの俳優のあり方だ。その対極に、役の輪郭を技術で固めにいかない人がいる。奥平大兼は、たぶんそのタイプだ。

声を張らない、表情で説明しない、役の背景を芝居で塗りつぶさない。踏み込みすぎないという積極的な選択ができる俳優、と言い換えてもいい。だから巨匠や名匠は、台詞や説明で埋めるはずの「役の余白」を、この人の身体にそのまま預けてしまう。

背景を芝居で立てさせない、テンポを崩す側に置く、佇まいから逆算して役を書く。委ね方は違うのに、預ける対象が一貫して奥平になっていく。

委ねられる俳優の出発点

奥平のキャリアは、いきなり「委ねられる」ことから始まっている。2020年公開の映画『MOTHER マザー』。大森立嗣監督は16歳の奥平を映画初出演で起用し、長澤まさみ演じる母親に支配される少年・周平を任せた。

画面に残った周平は、技術で組み立てた少年ではなく、その場で感じたものをそのまま身体に通したような佇まいだった。表情で内面を説明することも、声で苦境を告げることもしない。芝居で輪郭を作りにいかないという、ただそれだけの選択が、初出演の16歳に許されていたように見える。

普通なら新人にこそ細かく方向づけをし、わかりやすい感情の振り幅で勝負させたくなる場面だ。ここではその逆が起きている。完成した周平は、母の支配の下で何も考えていないわけではなく、考えを表に出すことそのものを諦めた少年として立っていた。

この作品で奥平は第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、その年の新人賞をいくつも受けている。華々しい出発だが、本質は賞のほうではない。デビュー作からして「役を説明させてもらえない」場所に立たされ、そこに耐え得る何かを大森が見抜いた。そのことのほうが、後のキャリアを考えると大きい。

受け取る側に立たせる

次の作り手も、奥平に似た信頼を寄せた。2022年公開の映画『マイスモールランド』。川和田恵真監督が描いたのは、日本で生まれ育ったクルド難民の少女・サーリャの物語だ。奥平が演じた崎山聡太は、同じ高校に通う同級生で、心を閉ざしがちなサーリャがふと心を開く相手にあたる。サーリャの言葉を受け取る側に置かれた人物、と言ってもいい。

「受け取る側」というのが、たぶん核だ。寄り添う役は、感情で前に出てしまうとそれだけで物語の重心が傾く。聞く、見つめる、待つ。その控えめな手つきで主人公の感情を成立させるには、芝居を一段引いて差し出せる俳優が要る。画面の聡太も、感情で前に出ない。作りすぎずに隣に居続けるその佇まいは、デビュー作で見せた「技術で固めにいかない身体」と地続きに映る。

『MOTHER マザー』で大森が見抜いた「過剰にしない」資質を、川和田は『マイスモールランド』で「受け取る側の同級生」として使った。委ねる作り手が、ひとりから連鎖し始めた作品だ。

テンポを崩す側にも回る

委ねの幅が外見の温度を越えるのは、2023年だ。藤井道人監督の映画『ヴィレッジ』で、奥平は金髪に全身タトゥーの陽キャ・筧龍太を演じた。閉鎖的な村の物語のなかで、明らかに作品のテンポを崩す位置に放り込まれている。『マイスモールランド』の無口な少年とも、『マイスモールランド』の寡黙な同級生とも真逆の方向に身体が振られた。

陽キャの声の張り方は、これまで奥平が抑えてきたものの真逆にあるはずなのに、画面の龍太は浮かない。重い空気を引っ掻く役回りをきちんと果たしながら、力みすぎず、屈託まで含めて骨格が通っている。

同じ年、映画『君は放課後インソムニア』では森七菜とのW主演で、星を見上げる高校生・中見丸太を演じた。映画では初の主演になる。日本テレビ系『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』では、3年D組の生徒・星崎透を任された。星崎は何を考えているか終盤まで読めない、「芝居で説明しない」ことそのものが役の機能になっている難役だ。考えで埋めない選択を芯に置けるからこそ、終盤に滲む揺らぎが効く。

陽キャでも陰の難役でも、同じ抑制された手つきで成立してしまう。崩す側にも支える側にも回せるということだ。芝居を足さずに役の輪郭を立てられるからこそ、温度のどちらにも委ねられる。

巨匠が背景を委ね、脚本家が当て書きする

委ねるという作家たちの仕草が、ひとつの極に届くのが2024年だ。黒沢清監督の映画『Cloud クラウド』で、奥平は菅田将暉演じる主人公のアシスタント・佐野役に起用された。佐野は最後まで観客に背景を明かさない人物で、奥平の身体は役の説明ごと現場へ送り込まれたように映る。

背景を芝居や台詞で埋めにいかない選び方が、佐野の正体不明そのものを支えている。何を考えているかわからない顔ではなく、背景を抱えていないように見える顔。そこを区別できる俳優にしか、この役は成立しない。

翌2025年、TBS系日曜劇場『御上先生』で奥平は報道部部長・神崎拓斗を演じる。神崎は、当て書きと呼びたくなる作りの役だ。報道部部長としての硬質さと、終盤に滲む若さを、奥平の佇まいから逆算して組み立てたとしか思えない、ナイフのような切れ味の人物として立った。

並べてみると「背景を芝居で立てさせない」と「佇まいから逆算して書く」は、逆の作業に見える。両方とも「この身体に委ねる」という同じ仕草だ。どちらにせよ、書き手の側から奥平に役が指名されるところまで来た。

ちなみに奥平は6歳から12歳まで空手の「形」に打ち込み、全国大会で優勝も経験している。所作の細部だけで見せる種目の身体感覚と、踏み込みすぎずに役の輪郭を立ち上げる今の芝居が無関係ではない気がしてくる。

最も騒がしい衣装の下で

そして2026年夏、NHK総合の夜ドラ『税金で買った本』で、奥平は地上波・NHK連続ドラマでは初の単独主演を務める。演じる石平紀一は、喧嘩は強いヤンキー高校生。根は素直で好奇心旺盛で、10年ぶりに訪れた図書館でアルバイトを始め、本と職員たちに出会っていく。これまで奥平が任されてきた役と並べると、「ヤンキー」という外見の音量は明らかに最も大きい。『MOTHER マザー』の無口な少年、『Cloud クラウド』の正体不明の佐野、『御上先生』の硬質な神崎、いずれも真逆の温度に振れている。

ところが役の中身のほうは、「静かに本に向き合う子」だ。委ねる作家たちが見続けてきた抑制の芯が、最も騒がしい衣装の下でちゃんと機能するか試される場、と読める。『MOTHER マザー』から始まった「余白を委ねられる俳優」の系譜が、この主演に届くまでに歩んできた距離は、ずいぶん長い。この夏、夜ドラでこの人が立っているところを見たい。


※記事は執筆時点の情報です

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