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帝国劇場で魅せ続けた“ミュージカル界のプリンス”、NHK朝ドラの怪演→“支配される夫”の新境地とは

  • 2026.6.20
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2015年7月、DVD「裸の時間~若き才能~」発売記念イベントを行った古川雄大(C)SANKEI

俳優にはたいてい「ど真ん中の像」がある。爽やかな兄、頼れる父、悪役、二枚目。多くの場合、その一枚で覚えてもらうことが財産になる。

ところが古川雄大は、その逆をいく。一つの役のなかに二つも三つも顔を入れて、それを破綻させずに同居させる。そういう役ばかりを、若いころから帝国劇場の主演級で渡されてきた。だから大河でも深夜の心理サスペンスでも、彼に来る仕事は同じ形をしている。一人の身体で複数の顔を抱える役。偶然ではない気がする。

帝国劇場で二つの層を任され続けた

舞台のキャリアで古川は「一人の身体に二つの層を載せる役」を主演級で渡されている。2015年から繰り返し演じてきたミュージカル『黒執事 -Tango on the Campania-』のセバスチャン・ミカエリス。完璧な執事の顔をした悪魔である。礼を尽くした所作の下に、人ならざるものの冷たさを潜ませる役だ。

2018年、帝国劇場の主演作はミュージカル『モーツァルト!』のヴォルフガング役だった。無邪気な天才と狂気を同じ一人のなかに住ませる役で、あどけない少年がそのまま神童の凄みを背負い、終盤には自分自身に呑まれていく。ミュージカル『マリー・アントワネット』のフェルセン伯爵、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のロミオと合わせた仕事で、2019年には第44回菊田一夫演劇賞演劇賞を受けている。

そして2019年、帝国劇場のミュージカル『エリザベート』ではトート役を任された。黄泉の帝王でありながら、エリザベートを愛してしまう男。人ではないものに、人の感情をどう宿らせるか。古川がそこでやっていたのは、つかみどころの違う二つの顔を、一つの身体の上で同時に成立させる仕事だ。

考えてみると、ミュージカル界の新プリンスと呼ばれるようになったのもこのころで、その肩書きの中身はこの「複数の顔を抱える役を、破綻させずに同居させる人」ということだった。

朝ドラの中に過剰なキャラクター

舞台の話だけで終わらないのが面白いところで、2020年のNHK連続テレビ小説『エール』では、声楽を教える先生・御手洗清太郎を演じている。リアリズムの朝ドラのなかであえて浮く過剰なキャラクターだ。

御手洗が愛されたのは奇抜な造形そのものではない。派手で大仰な表の顔の裏に、ちゃんと小心と葛藤を抱えた弱さを置いていた。普段は声を張り上げて笑いを取りながら、ふとした瞬間に頼りなさが透ける。表のド派手と裏の繊細を、一人の身体に同時に抱える。

単独主演の場所でも二面性の役を

2023年11月、帝国劇場で古川は単独主演でミュージカル・ピカレスク『LUPIN〜カリオストロ伯爵夫人の秘密〜』の舞台に立つ。原作の系譜はモーリス・ルブランのアルセーヌ・ルパンだ。ルパンという役自体が、紳士と怪盗のあわせ技でできている。

表向きはエレガントな伊達男、裏では誰よりも切れる頭で大胆な仕事をする。そこに口上の華やかさと色気と機転と孤独が乗ってくる。これまで舞台で積み上げてきた「複数の顔を一人で抱える」筋力を、自分の名で帝劇に立てるかたちで一本に集約した到達点だった。

並べてみると、古川の主演級の代表作は、おしなべて「役柄のなかに二人住んでいる」タイプばかりだ。執事と悪魔。天才と狂気。黄泉の帝王と恋する男。紳士と怪盗。表に出る側と、その裏にもう一つ住んでいる側。役柄の選ばれ方そのものに、彼の俳優筋が表れている。

大河の戯作者という四面体の役

そして2025年、NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、古川は大河初出演として山東京伝=北尾政演を演じた。

江戸の戯作者としての名が山東京伝、浮世絵師としての名が北尾政演で、同一人物の二筆名だ。横浜流星演じる蔦屋重三郎の出版パートナーで、吉原を愛する遊蕩の文人。戯作者と絵師、遊び人と反骨者。一人の人物のなかに、すでに四つの顔が同居している。

画面に出てくる政演は、まず明るくよく笑う。色町を遊び歩く軽さがあり、絵筆を握れば職人の集中があり、戯作の話になると先鋭な反骨が顔を出す。重三郎との掛け合いでは弟分のような甘さも見せる。それぞれの顔が、別の人物が現れたようには見えない。同じ一人の身体のうえで、場と相手によって違う層が浮き上がってくる。

軽やかな色気と、その下に持っている知性と反骨。本筋はここだ。戯作者と絵師と吉原通いと反骨の文人という多面の人物を、一人の身体のなかで破綻させずに同居させたこと。ここまでの古川の俳優筋と、一本道でつながる仕事だった。

2026年も二つの顔を抱える役へ

その地続きで来た最終章が、2026年7月から始まる、日本テレビ系ドラマ『親愛なる夫へ〜完璧な妻の嘘〜』である。脚本は遠山絵梨香のオリジナル、夫婦心理サスペンスで、田中麗奈とW主演になる。

古川が演じる坂井優一は、昼の情報番組『ひるドキライブ』のメインキャスターを務めるフリーアナウンサーだ。仕事はバリバリこなすが、それ以外はのほほんとしていて、人を信じやすいために利用されてしまう。田中麗奈が演じる妻・麻衣子はやり手の女社長で、世間からは「完璧な妻」と思われている。しかし家のなかでは夫を支配している。

ここでも彼に渡されているのは、二つの顔を抱える役だ。画面の前で堂々と話す公のキャスターと、家のなかで支配され、利用される頼りない夫。トートで人ならざるものの愛を、ヴォルフガングで天才の狂気を、セバスチャンで執事の顔をした悪魔を、ルパンで紳士と怪盗を、政演で戯作者と絵師と遊び人と反骨者を、一人の身体に同居させてきた俳優にとって、ずいぶん地続きの仕事に見える。

振り返ってみると、古川雄大に来る役はいつも、一人のなかに複数の顔が住んでいる。それを軽やかな色気と知性で破綻させずにまとめてきた、というだけのことかもしれない。坂井優一も、そうやって立ち上げてくる気がする。


※記事は執筆時点の情報です

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