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かつてトップモデルとして歩んだ“誌面界のカリスマ”。NHK朝ドラの“ギャル”で話題となった「二面性女優」とは

  • 2026.6.19
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2017年8月、主演映画『女流闘牌伝 aki|アキ|』のDVD発売イベントを行った岡本夏美(C)SANKEI

モデルという仕事は、一枚の静止画で物語を完成させる仕事だ。動かない一瞬のなかに、感情も、空気も、世界観も封じ込める。岡本夏美は、その仕事で顔の使い方を徹底的に磨いてきた人である。

だが彼女の面白さは、その止め絵をあえて動かしたところにある。表情が崩れ、内面が露わになる瞬間。穏やかな見た目の奥から、別の顔が立ち上がってくる。

その落差こそ、岡本夏美の武器だ。モデル出身を「美人だから」で片づけては、この俳優のことを語り損ねる。

一枚の絵で世界観を語り切る

岡本のキャリアは、雑誌の表紙から始まっている。2011年にファッション雑誌『ラブベリー』の専属モデルオーディションでグランプリを受け、そこから『nicola』『Seventeen』、そして現在まで続く『non-no』へと、専属の看板を歩いてきた。ローティーン誌から20代の女性誌まで、読者の年齢が変わっても、その都度の顔で誌面の世界観を語り切ってきた。

表紙という仕事は、その雑誌の読者が憧れる顔を、一枚の絵で差し出すことだ。少女の憧れも、20代の等身大の理想も、岡本は同じ顔で引き受けてきた。

ここで効いているのは、長さよりも切り替えの速さだと思う。誌面の表紙は、読者がページをめくった瞬間に「これは私の雑誌だ」と感じさせなければ成立しない。一秒で世界観を手渡す。その一秒を、年齢層の違う読者に向けて、2011年からいまも更新し続けている。

一つの体に複数の世界観を住まわせ、それを表情だけで切り替える。これは、ただキャリアが長いという話ではない。求められる顔を即座に呼び出す技術を、人より長く、人より深く体に入れてきたということだ。役を渡されてから人物を立ち上げる俳優の仕事と、その回路は地続きにある。

おしとやかさの奥に、別の顔

その技術が演技の武器に変わったのが、浜辺美波が主演をつとめたTBS系ドラマ『賭ケグルイ』(2018年〜)だった。

岡本が演じたのは生徒会の役員・西洞院百合子。伝統文化研究会の会長で、和装で現れる、一見おしとやかな大和撫子だが、その内面はまるで読み取らせない。穏やかな表情が、ふとした瞬間に別の顔へと崩れていく。「表情筋」の怪演が大きな話題を呼び、彼女は続く映画版2作にも続投している。

ここで見落としてはいけないのは、崩れる前の「おしとやか」がどれだけ精密に作られていたか、ということだ。振り幅は、片方の端が高い精度で固定されていて初めて成立する。和装の所作も、伏せた目も、隙のない静けさも、まず完璧に立てておく。だからこそ、それが一瞬で裏返ったときの落差が観る側を打つ。

整った顔をきれいに見せることと、その顔をわざと崩して別の感情を覗かせることは、一見すると逆の技術だ。けれど、どちらも顔のどこをどう動かせば何が伝わるかを知り尽くした人にしかできない。表紙で「憧れの顔」を固定してきた人が、その固定した顔をみずから壊して見せる側に回った。これは最初の一歩ではなく、モデルとしての積み重ねの上に立った、本格的な転機だった。

強い型を素のまま立たせる

崩す方向だけではない。開く方向の引き出しも、彼女は見せている。2024年のNHK連続テレビ小説『おむすび』。岡本が演じた田中鈴音、通称スズリンは、博多のギャル連合のメンバーだ。

ギャルというのは、それ自体が強い見た目の型である。誇張してなぞれば、ただの型で終わってしまう。だが岡本は、それを大げさに演じず、佇まいだけで一人の人間に着地させてみせた。

ここに、表紙の仕事で培ったものが逆向きに働いている。雑誌では、与えられた型に自分を寄せて世界観を成立させる。俳優の現場では逆に、強い型に呑まれず、その内側に体温のある一人を残す。型を着る技術を知っているからこそ、型に着られずに済む。

顔で世界観を運ぶモデルの技術は、崩す方向だけでなく、こうして素のまま立たせる方向にも効いている。

ちなみに彼女は、こうした映像の場と並行して、本格的な舞台でも演技力を磨いてきた。一枚の絵にも、一瞬の表情にも頼れない、生身で語るしかない場所だ。止め絵の説得力をいったん手放してもなお人物を持たせられるか。その地力を、岡本は誌面の外で鍛えている。

明るい顔と隠した顔を一人で

そして2026年、岡本夏美は一つの到達点に立つ。6月から放送が始まるドラマ『今から、親友やめようか。』(MBS)。岡本が演じる柴崎ひまりは、PR会社に勤める27歳の女性だ。沢村玲とのW主演で、見た目とは違い、性欲が強めという、表向きの顔と内に抱えたもう一つの顔を、一人で行き来する役どころである。

おしとやかさの奥の別の顔。明るさの下の揺らぎ。これまで作品ごとに分けて見せてきた「顔の二面」が、いよいよ一つの役のなかで同居する。今回求められるのは、表で笑いながら、その裏でかすかに揺れること。二つを順に切り替えるのではなく、一つの表情のなかに同時に滲ませることなのだ。

静止画で完成する顔を、動いて物語る顔へ。その化け方を積み重ねてきた人にとって、この主演はあつらえたような場所に見える。動く一役で、彼女がいくつの顔を一度に見せるのか、楽しみだ。


※記事は執筆時点の情報です

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