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紅白出場を果たした“歌って踊る”イケメン俳優。口下手なオタクから誘拐犯まで…引っ張りだこの“実力派”とは

  • 2026.6.19
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2015年2月、映画『くちびるに歌を』舞台挨拶に登壇した佐野勇斗(C)SANKEI

歌って踊るアイドルは、ステージの真ん中に立つ仕事だ。グループの中心で、いちばん明るい光を浴びる。佐野勇斗も、ボーカルダンスグループM!LKの最年長として、その場所に立ってきた一人である。

ところが、俳優・佐野勇斗が引き受けてきた役を並べると、不思議なことに気づく。新入りの厄介者、口下手なオタク、訳ありの偏屈者。彼が芝居で生きてきたのは、いつも「その場に馴染まない人」ばかりなのだ。

ステージの中心に立つ人が、芝居では輪の外側を歩み続ける。この往復こそ、歌と芝居を両輪で生きる佐野勇斗の芯にある。

歌で始まったキャリアが何色も生み出す

佐野の俳優としてのキャリアも、歌うところから始まっている。2015年の映画『くちびるに歌を』。長崎・五島列島の中学校の合唱部員、向井ケイスケを演じてのデビューだった。歌で集まる仲間の輪。そこに身を置いた少年から、佐野の俳優人生は出発した。彼が所属するボーイズグループ・M!LKは2014年に結成され、その名前には「何色にも染まれる存在に」という願いが込められている

この名前は、後の佐野を読む鍵になる。何色にも染まれるとは、裏を返せば「これがおれの色だ」と決めつけない、ということだ。歌う仕事は、自分の色を前に出して人を惹きつける仕事である。ところが演じる仕事で渡されてきた役は、その色をいったん手放し、馴染めない誰かに染まりにいくものばかりだ。

中心にいたはずの人が、芝居ではあえて端へ寄っていく。出発点に、すでにこの逆向きの力が組み込まれている。

集団の異分子を演じて評価される

馴染まない者を演じる、という線がはっきりするのが次の時期だ。2016年のTBS系金曜ドラマ『砂の塔〜知りすぎた隣人〜』で、佐野は高野和樹を演じた。菅野美穂演じる高野亜紀の継子。家庭では優しい表情を見せるが、学校では孤立し、不良グループのパシリとして夜遊びをする一面も持つ。

続く2018年の映画『ちはやふる -結び-』では、競技かるた部の新入部員・筑波秋博を演じた。かるた経験者で、プライドが高く、先輩たちが扱いに困る新人だ。この役で、第28回日本映画批評家大賞の新人男優賞(南俊子賞)を受けている。

学校で孤立する子。部の輪に割り込む新人。佐野には「集団のなかの異分子」がよく似合う。

ここで効いてくるのが、歌で鍛えた力だ。異分子の役は、見ている側に居心地の悪さを残せなければ成立しない。馴染まない空気を、台詞ではなく佇まいで出す必要がある。ステージで視線の浴び方を体で覚えた人は、その存在感の置き方を逆向きにも使える。場に溶け込ませる代わりに、わざと浮かせてみせるのだ。

端にいた者が中心の隣で効く

異分子を演じる佐野は、やがてその役で物語の中心近くに立つようになる。その足がかりが、2021年のTBS系日曜劇場『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』だ。

演じた徳丸元一は、ERカーの機関員及び臨床工学技士で医療機器のスペシャリスト。主役を支える立場で現場に立ち、2023年の劇場版にも続投した。輪に「後から入る側」を担ってきた佐野が、その輪のなかで信頼される位置へ移っていく途中の役である。

その立ち位置が一つの形になったのが、2023年のTBS系金曜ドラマ『トリリオンゲーム』だ。佐野が演じた平学(ガク)は、目黒蓮演じるハルの相棒。口下手で人付き合いが苦手な、コンピューターオタクの天才プログラマーだ。弁の立つ相方の隣で、黙って力を発揮する。

同じ頃、NHK連続テレビ小説『おむすび』では四ツ木翔也としてヒロインの相手役を務め、全国区の朝の舞台にも立っている。ここで佐野のはみ出し者は、役割を一段上げた。馴染まない人物が、今度は物語を動かす要になる。

おもしろいのは、前に出てしゃべる相方の隣で、黙っていることで効くという構図だ。

歌って踊って前に出るアイドルが、芝居ではあえて一歩引いた位置に立つ。これは真ん中に立てない人の消極策ではない。真ん中に立ち慣れた人が、どこに立てば物語がいちばん伝わるかを心得たうえで、あえて光を相手に渡す配球だ。端にいた者が、中心の隣で効きはじめる。

主演になっても、はみ出し者を任される

もちろん佐野は、主演も任される俳優だ。たとえば2023年のNHK総合『おとなりに銀河』では単独主演として久我一郎を演じ、2025年の日本テレビ系『ESCAPE それは誘拐のはずだった』では桜田ひよりとW主演で逃亡劇の中心に立った。役者として、彼はとっくに花を咲かせている。

ふつう、主演を任される段になれば、役は「中心に立つ人」へ寄っていく。ところが佐野は、座った場所が変わっても、引き受ける人物の側はそう変えなかった。

それがはっきりするのが、2026年7月から始まるTBS系火曜ドラマ『君の好きは無敵』だ。演じる瀬尾深月は、小さなデザイン会社の偏屈なキャラクターデザイナー。松本若菜演じる元コンサルタント・草壁杏奈とバディを組む。

主演の座に着いても、引き受けるのは、やはり輪からはみ出した変わり者なのである。ここに、この人の在り方が見える。中心に立てる立場になったから安全な役へ寄る、のではない。立場が上がったぶん、馴染まない人間をより深く引き受けにいく。端を演じることは、下積みの通過点ではなく、いまや任される本業になっている。

さらに直近では、もう一つの初挑戦が並ぶ。7月3日公開の映画『トイ・ストーリー5』だ。スマーティー・パンツの日本版声優として、声優に挑む。顔も身体も使わず、声だけで別の存在に染まる仕事である。何色にも染まれる、というグループ名の願いが、ここでは文字どおりの意味になる。佐野が染まりにいける色は、まだ増えていく。

音楽の側でも、佐野はこの年に大きく実った。2025年に紅白歌合戦へ初出場し、『イイじゃん』で第67回日本レコード大賞の優秀作品賞を受けたM!LKは、2026年6月13日のMUSIC AWARDS JAPAN 2026で、最優秀ボーイズアイドルカルチャーアーティスト賞(グループ/ソロ)をはじめ複数の部門で受賞した。

芝居では場に馴染まない人を演じ続けてきた人が、音楽の側では仲間とひとつの輪を組み、その輪のまま頂点に立つ。輪の外側を知り尽くした人だから、輪の中心でも力を出せる。芝居と歌のこの反転が、2025年から2026年にかけて、ようやく形になった。

合唱部員から、家庭の異物、扱いにくい新人、口下手な相棒、そして偏屈なデザイナーへ。色を変え続けてきた人が、輪の中心と輪の外の両方を生きて、同じ年に揃って実を結んだ。

次に佐野勇斗がどんな「馴染まない人」を見せてくれるのか。端を本業にして立ってきた人の振れ幅は、まだ広がっていく。


※記事は執筆時点の情報です

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